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62:困った姫様


 水の司祭、シェナ=フィリル=プルアメートは、紫水晶のような深い色の瞳を細め、目の前に広げた文を凝視していた。


 ここは、水の精霊殿(せいれいでん)にある、シェナに与えられた私室。

 

 神殿の造りは、最上階に結界の間のある、聖女の住まう区画と、国の主な内部機関が存在する中央殿、その周りを取り囲むようにして、光、土、水、闇、風、火の精霊殿が、六芒星の形で配置されている。

 中央殿だけは地上五階建て、精霊殿は地上三階建てになっていて、いずれも最上階は祈りの間、地下室は倉庫になっている。


 今日の仕事を終えて、一息ついたところで届けられた急ぎの文。

 

 差出人は、オーケヌス王子殿下。


 シェナは少し難しい顔をしてから、目を伏せ、ため息を吐く。



 王子であるオーケヌス殿下と、聖女ティアとの婚約の儀式に、トゥエリラーテ姫が王族として参加することができるか、女王、王配両陛下に判断してもらう必要がある。

 なるべく円滑にことが運ぶように、トゥエリラーテの現在の様子を報告して欲しい……とのこと。

 

 (……姫殿下の逆鱗に触れそうな内容ですね)


 現在、都の一の姫であり火の司祭見習いでもあるトゥリエラーテ=エルテ=ライ=メルグリアは、先に起こした騒動の罰として、謹慎中だ。

 女王の命を無視し、都の安全のために不可欠な儀式を阻害しようとしたことは、本来ならばもっと重い罰が与えられるはずであった。

 しかし、その背後関係を詳しく調査する必要があると判断されたため、このような状態になっている。

 

 その後、そちらの調査に動きはないようだ。

 

 しかし、それとは別の事件が起きた。あの、『月の魔女』が姿を現し、聖女ティアを襲ったという。

 王室の教師としての顔を持ち、知識に貪欲であるシェナは、歴史や史実、文化など、様々な事柄に精通している。もちろん『月の魔女』の存在も知っていた。

 

 実を言うと、気になって独自に調べてみたこともあるのだ。

 

 ただ、わかったのは彼女が魔女と呼ばれるようになった理由まで。実際彼女が何者で、彼女自身に何が起きたのかまでは調べることができなかった。

 むしろ、『月の魔女』に関しての情報は、意図的に隠されているようにさえ思えた。



 (それにしても、婚約ですか……。オーケヌス殿下の狙いは……?)


 シェナは立ち上がり、部屋に設置された書棚に近づく。人差し指でつつーっと背表紙をなぞり、数ある資料の中から、ある一冊を取り出した。

 資料にかけられた封印の魔法を解き、開く。


 それは、シェナが独自に研究している、神の秘術についての資料。とても公表できる内容ではないため、自分にしか解けない封印をかけてある。


 突然現れた聖女ティア。彼女の姿形は、失踪した聖女ミオティアルと酷似している。

 それからティアは、どうやらリュリュイエ(こちら)の人間ではない。


 リュリュイエの神に連なる血筋である、五家の者には、アルシエに予備の魂を宿した『器』なるものが存在する。

 その見た目は瓜二つ。身体的特徴、うちに秘める魔力(ちから)も、ほぼ同等らしい。

 ……もちろんシェナ自身も、五家の一つであるプルアメート家の出身であるため、いざとなれば『魂合の儀』を使うことができる。

 

 様々な事実を照らし合わせると、ティアは、アルシエ(あちら)から来たのだと思われる。……おそらくは、ミオティアルが喚んだのだろう。

 ミオティアルはなんらかの危機に見舞われ、『魂合の儀』の秘術を使ったはずだ。だが、魂の融合は行われず、ティアはその身体ごと召喚された……ということだろうか。

 ……しかし、一体何故、そのようなことになったのか。


 (事実を突き止めるには、役者が足りませんね)


 読んでいた資料をパタリと閉じ、封印をかけ直すと、書棚に戻した。

 先ずは、王子殿下からの依頼を取り急ぎ熟さなければならない、とシェナは切り替える。

 

 

 現在のトゥエリラーテの状態を具体的に言うならば、自分の住まう城内の区画から出ることができず、区画内での部屋の移動も、侍女を従えなければならない。

 出入りする人間は侍女や料理人、護衛の者であっても、厳しくチェックを受けている。


 さらに、女王からの依頼でシェナは、姫の周囲の者とその背後を探るようにと命を受けている。


 そんな中でもトゥエリラーテ姫は、不満を吐き出さずにはいられない。

 ……自分がただ謹慎させられているだけだと思っているのだろうか。


 (御自身が正しいと思っているようですから、反省の色もありませんし、アクエリアム陛下や、兄君のオーケヌス王子殿下への不満を度々口にしていますね……)


 今の様子では、とてもではないが王族として儀式に出席などできないだろう、とシェナは溜息を吐く。

 正義感が強く、思い込みも激しい。自らが正しいと思えば突き進んでしまう。

 ……若いからこその行動力と言ってしまえはそれまでではある。しかし、彼女は王族だ。


 シェナは優雅な仕草で、ティーポットに用意された香草茶(ハーブティー)をカップへ注ぎながら、考える。

 注がれたカップからふわりと立ち昇るのは、就寝前には向かないであろう爽やかな香りだ。


 (御自身の行動と発言が与える周囲への影響をもう少し考えられるようになっていただかなくてはいけませんね)


 トゥエリラーテの素直で真っ直ぐな性格は、一個人としてはとても好ましく思うが、立場がそれを許さない。

 (さて、困った姫様の状態を、なんとお伝えしたものか……)


 シェナは痛む頭をぐりぐりと指で押すと、ペンと便箋を用意し、机に向かった。


 

帰ってきました。

今週から、またよろしくお願い致します。


次の更新は、木曜夜です。

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