61:妻と息子
「夜分に失礼致します、ウラヌセウト陛下。……オーケヌス殿下の従者より文を預かりましたので、お届けにあがりました」
「……ルーファスか。入りなさい」
揺り椅子にゆったりと腰掛け、本を読んでいたウラヌセウトが顔を上げて返事をすると、カチャリ、とドアノブが鳴り、最も信頼する、赤毛の従者が姿を現した。
「……今夜中に、とのことでしたので、急ぎお持ち致しました」
ルーファスは、手にした文を差し出しながら、髪と同じく赤い瞳をすまなさそうに伏せる。
「……構わないよ。どうせアクエリアムもまだこの時間は仕事をしているだろうから、私も眠るわけにはいかないからね」
我が妻は真面目過ぎる。と苦笑いしながらウラヌセウトは差し出された文を受け取ると、その場で封を開けた。
「……」
聖女ティアとの婚約の許可を取り付けるための女王との面会に、同席いただきたい、という内容の文面を、ジッと見つめる。
ウラヌセウトとて、息子の変化に気づいていなかったわけではない。
たとえそれが、あの、『還魂の儀』からであったとしても、彼がオーケヌスであるという事実は変わらないし、何より、オーケヌスは、自我を失ったわけではない。
(彼女の立場を確かなものにするためだとはいえ、やはり『彼』の影響があるのか……?)
フィニアスの見た『啓夢』の詳細は、ウラヌセウトもアクエリアムと共に聞いている。
まさか、オーケヌスとミオティアルのそれぞれの『器』同士に、深い繋がりがあったとは、思いもしなかった。
(あの娘は、帰りたいと切望していたな)
聖女となったティアの存在はリュリュイエにとって必要で、守るべき存在だ。
ミオティアルがどのような状況にあるのかはわからないが、最悪彼女が戻らないという可能性も考えておかねばならないだろう。
妻のアクエリアムは女王だ。もちろんそのあたりのことも考えているだろうと思う。
ただ、オーケヌスに関しては、どこまでのことを考えて行動しているのか、全く読めない。
今の彼の行動原理が、どちらの意識に従っているのかわからないのだから。
それともう一つ書かれた用件。
『月の魔女』について知っていることがあるか問う一文が書かれている。
ウラヌセウトも先日の事件については報告を受けていた。
長い間、表舞台に現れていなかった彼女が、何故突然姿を現したのかわからないが、聖女ティアを狙ったことを考えると、ミオティアルの失踪にもなんらかの形で関わっているのだろうか……?
なんの目的であったとしても、無視はできないだろう。と、ウラヌセウトは『月の魔女』についての記録を確認することにする。
(……王室の書庫の文献に、『月の魔女』についての記述があったはずだ)
ウラヌセウトは、側に控えたままのルーファスに、指示をする。
「女王とオーケヌスの面会に同席することになるから、予定を調整してくれ。それから、私は明日から書庫で調べ物をする。そちらも調整を頼む」
「かしこまりました」
深々と礼をした後、退出しようとドアノブに手をかけたルーファスに、ウラヌセウトが再び声をかける。
「ああそれと」
「いかが致しましたか?」
待ってましたとばかりにクルリと振り向き、姿勢を正すルーファス。
「働き過ぎの私の妻に、差し入れを頼んでいいかな」
「仰せのままに……いつもので構いませんか?」
ニコリと微笑んで返事をする彼を見て、ウラヌセウトは苦笑する。
「もう手配済みか……流石だな。頼む」
「お任せください」
そう言ってルーファスは、部屋を出ていった。
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