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59:悩める王子と散策の計画


   聖なる光よ 眩しき陽光(ひかり)

   我の祈りを 我の願いを

   女神の慈悲を その安寧を

   この地に住まう全ての存在(もの)



 ティアはいつも通り、【守護女神テティスの陣】と呼ばれる巨大な魔法陣の中央に跪き、祈りの言葉を紡ぐ。


 リュリュイエの都へ来てひと月が経つが、ティアは未だに、外に出ることができないでいる。

 そのため、この朝晩行っている儀式が都を護るためのものだと説明されても、ティアにはあまり実感がわかなかった。


 (……守られているだけではいけない。この世界のことをもっとよく知って、できることをする。そうして、ミオティアルさんを待っているだけじゃなくて、那月と一緒に帰る方法を、自分でも探す)


 そう思って、せっかく植物図鑑を頂いたのでと、栽培棟の見学を相談してみた。

 リリアナを連れていけば、色々と教えてもらえるのではないかと思ったのだ。

 それが叶えば次は、ミオティアルのしていた研究も覗いてみたい。などということも考えている。


 (……殿下に相談したら、ミオティアルさんの研究内容を見せてもらえるかな)


 壁際で待機しているオーケヌスを横目で(うかが)うと、蒼い瞳が物憂げにこちらを見ていた。


 初めの挨拶も心ここに在らず、という様子で、結界の間に入ってからは一言も発していない。

 

 ティアは、今日の昼間の手紙がちゃんと届いたかも含めて、きいてみよう。と立ち上がった。

 


 

 オーケヌスの脳裏には、昼間の怜夜の問いかけがチラついていた。


 

 ――貴方は、ティアのこと、どうしたいの?


 ミオティアルがいない今、結界を維持できるのは聖女を継承したティアだけ。代役を務めてくれている彼女を、何があっても護りきり、無事に返すと決めている。

 同時に彼女は、ミオティアルの『器』だ。

 ミオティアルが『魂合の儀』を発動させた結果、ティアが召喚されたのは間違いない。……召喚された魂が融合しなかったのは、ミオティアルがティアの意思を尊重したためだろうとオーケヌスは推測している。


 クレイは、ミオティアルが戻らなかったら、と言うが、ミオティアルがどのような状況なのかはわからない以上、戻ってくると言う言葉を信じて待つしかないのだ。


 (都の結界の維持のため、聖女としての彼女を護っている。……ミオティアルが無事戻れば、彼女が望むように、本来あるべき場所へ返す)

 


 ――僕は、ティアを護るように貴方を誘導はしているけど……感情には影響を及ぼしてはいないはずなのに。


 (私も怜夜も、理由は違えど、彼女を護るという一点では考えが一致している……それだけだ)


 それだけだ。と言う言葉を、オーケヌスは自らに言い聞かせる様に、心の中で繰り返す。


 ――この先何がどうなっても、僕の存在を言い訳にしないでくれたらそれでいいんだけど……。


 (あの言葉の意味がわからぬ。何がどうなると言うのだ? ……言い訳とは、なんなのだ?)



 あの出来事――怜夜が表に出て、ティアと言葉を交わしたあの時から、彼はオーケヌスに対して、遠慮なく声をかけてくる様になった。

 今までも時々声が聞こえることはあったものの、オーケヌスと意見のやり取りをする、というところまでには至っていなかった。

 ただ、オーケヌスの考えがどこまで怜夜に伝わっているのかは、わからない。

 オーケヌスが怜夜に何か尋ねたいと思ったとしても、答えてくれるわけではないし、オーケヌスもまた、常に怜夜の気配を感じているわけではないのだ。

 

 その曖昧な状態が、オーケヌスを悩ます原因の一つになっていた。

 



「……殿下? ……あの、何かありましたか?」

「!」


 ティアの問いかけに、オーケヌスの意識は現実に戻される。

 

 いつもより少しだけ近い場所で、オーケヌスを見上げ、小さく首を傾げている。

 その瞳は、ミオティアルと同じアクアマリンの色をしている。


「あの。……もし、わたくしが相談したことが原因でしたら、忘れていただいて構いませんので」


 外に出たいなんて我儘を言ってごめんなさい。とティアは言う。


「いや、そうではないのだ。……それについては、私と共に行くと言う条件で、叶えたいと思っている」


 ティアが遠慮する様子を見て、オーケヌスは慌てて言い繕う。


 (駄目だな。……余計な心配をかけるほどに顔に出ていたか)


「ええ、と。……殿下が、一緒に?」

「ああ。その方が安全であるし、私たちが共に行動することには、意味がある」


 あぁ、とティアは納得の顔になる。

 

 (……仲良しアピール、ですか)


「そろそろ聖女が戻らないと、民も心配するだろうし、君も外に出たいであろうからな……早速明日にでもどうだ?」

「……えっ?」


 ティアは目をぱちぱちとさせ、驚く。

 

「……急すぎるか?」

「さすがに急すぎはしませんか……?」


 (それに、関係各所も急に王子殿下がいらっしゃるとか、困るんじゃ??)


 戸惑うティアに対して、オーケヌスは先ほどまでの悩んでいた様子などなかったかの様に、ニコリと綺麗な微笑みを浮かべる。


「君との訓練用にとってある時間を使えば良い。そもそも、二人で過ごす時間を、という建前で確保している時間だ。……栽培棟も、早朝に申請さえ出せば問題ない」

「……そ、そうなのですか?」

「むしろ、前もって知らせると、少し面倒なことになるからな。……ただの視察になってしまう」


 そうなってしまっては、えらい人間が大勢出てくるから、君の気晴らしにならぬではないか。と、付け加える。


「この散策と見学は、暫く伏せっていた聖女が、外に出られる様になったと示すためのものとする。……栽培棟に興味を持ったのは、君の薬を煎じていた調薬師の影響ということにすれば良い」


 (なるほど。そう繋げるのね)


 建前、大事だよね。とティアは納得する。


「それを聞いた私が、君の身を案じ、強い希望により、同行することにした。ということにすれば綺麗にまとまるであろう?」


 少し得意げに説明するオーケヌスに対し、


 (少し強引な気もするけど……)


 と思いつつも、


「……ありがとうございます」


 と一言、ティアはお礼を告げた。


 


 結界の間を出た二人は、明日の予定をそれぞれの従者に伝える。

 どちらの従者も驚くかと思ったが、全くそんなことはなく落ち着いたものだった。


 了承の意を伝えるクレイの口の端が、少し上がったのにティアは気づく。


 (……この計画は、きっとクレイ様の仕業に違いない)


 やはり優秀なのだなぁと、感心したティアだった。

 

次回更新は火曜日です。

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