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55:来客


 執務を終え、片付けに取り掛かっていたオーケヌスの元に、きらきらと輝く光の鎖が飛来する。

 やがてそれは目の前で渦をまき、一枚の青い紙に変化すると、机の上にヒラリと舞い降りた。


 (……あれをもう全て読んだのか。随分と集中力がある)


 オーケヌスは紙を拾い上げると、袖にそっとしまう。


「殿下。何やら嬉しそうですが、何か良いことでも?」

「……特になにもない」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、クレイが近づいてきた。

 辺りをささっと見回し、最後まで残っていた者が退出したのを確認すると、オーケヌスに耳打ちする。


「……ここの片付けは俺が済ませておくから、こっそり隠した手紙を読んできたらどうだ?」

「……別に隠したわけではない」


 片付けの手を止めないまま、ムッとしながら答えるオーケヌスに向かって、クレイは面白そうに笑う。


「ちゃんと返事が返ってきて、良かったじゃないか」

「……何のことだ」

「俺は知ってるぞ? ……さっき届けた本の最後に、お前が手紙を挟んだこと」


 オーケヌスはバッと顔を上げる。


「――! クレイ、其方まさか」

「いやいや。見てないさ。っていうか本当に手紙挟んだのか」

「!!」


 あっははっ。と声をあげて笑い転げるクレイを見て、……やられた。とオーケヌスは肩を落とす。


「しかもあれか。ご丁寧に、直通で返事が来るように、自分専用の印を押した便箋まで付けたのか」


 ああ面倒だ。とオーケヌスは頭を振る。

 

 こういうことになるのがわかっていたから、わざわざ本に挟み、返事も間違いなく直接届くように魔法の印を押したというのに。


 クレイはへらへらと笑みを浮かべていたかと思うと、急に真顔に戻る。

 

「しかし……お前は実際、彼女をどうするつもりなのだ?」

「……どう、とは」

「もしもの時のことは、考えているのか?」

「……もしもだと?」


 顔を上げたオーケヌスの瞳に、剣呑な光が宿る。


「実際、お前がどう考えようと、ミオティアル様が戻らなければ、彼女(ティア)は身代わりになるしかなくなるんだぞ?」

「……そんなことは」

「そんなことはわかっている? それとも、そんなことはさせない? どっちだ?」

「……」


 黙ったままのオーケヌスに対し、クレイは続ける。


「……正直俺には、今のお前が何を軸に、何を考えて動いているのかわからないんだよ。……ミオティアル様のことを、大切に想っていたのではなかったのか?」


 俺にだけは、何でも話してくれると思っていた。そのために、生涯仕えると決めていたのにな。と、少し寂しげに目を逸らした。


「……まぁ、今はいいや。……俺の存在意義をなくしてくれるなよ」


 ポツリと呟くと、クレイは後片付けに戻る。


 執務室に、二人が書類をまとめる音だけが響く。

 

「すまぬ。後の片付けを頼んでいいか。……奥の部屋にいるので、用があったら声をかけてくれ」


 粗方片付いたところで、オーケヌスはクレイに声をかけると、奥の部屋に入っていった。

 

 その姿を黙って見送るクレイ。

 

 (隠し事が下手なんだよ。うちの殿下は)


 

 コンコン



 クレイ一人になった部屋に、ノックの音。


(……こんな時間にだれだ?)

 

「……失礼いたします、イオニスです。オーケヌス殿下はおいででしょうか」


 そう言いながらオーケヌスの補佐役のイオニスが扉あけて入室してきた。

 仕事を終えてそのままここへ来たのか、手には文箱を持っている。


 (そういえば、今日は一日姿を見かけなかったな)


 クレイは、出来る侍従、兼、護衛の仮面を被り、答える。

 

「殿下は御用だそうで、奥にいらっしゃいますが……」


 そう言って奥の扉に目を向ける。


「それは都合が良かった……女王陛下には報告済みのことですが、これからお願いすることは、貴方が適任であろうと思い、参りました」


「私に、ですか?」

「ええ。クレイ=レイル=リヴァジーユ様。……貴方は、オーケヌス殿下に誰よりも近い侍従だと」


 背の高いイオニスの陰から、黒く艶やかな髪を揺らし、司祭のローブを着た男が現れた。

 

「フィニアス様……?」

「このような時刻に申し訳ありません」

 

 闇の司祭、フィニアス=ネイト=アスティリオス。

 夜の神、アストライオスを祖とする、アスティリオス家の若き当主で、代々受け継がれてきた、『啓夢』の力の継承者だ。


 直系の証でもある特徴的な漆黒の瞳には、猫のそれのように金色の縦ラインが入っている。

 

 どのようなときでも表情を変えることなく、常に冷静で、他人に感情を悟らせない。……つまり、その黒い瞳の奥で、何を考えているのか全くわからない、ということ。


「……お話を、伺いましょう」


 こちらへ、と来客用のスペースへフィニアスとイオニスの二人を案内する。


 お茶の支度を、と言うクレイに対し、お構いなく、とフィニアスは告げる。

 かと言って何も、というわけにもいかず、クレイは冷却箱で冷やしてあった柑橘水をコップに注ぎ、二人の前に並べた。


「それで、話というのは」


 二人がコップに口をつけたのを見計らい、クレイが切り出すと、フィニアスの、黒曜石を思わせる漆黒の瞳がひたり、とクレイを見据える。


 


「……最近のオーケヌス殿下に、何か変わった御様子はありませんか?」

 

次回更新は火曜昼です。

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