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47:不思議な現象、共有すべき情報


   女神よ 傷つきし彼の君を

   聖なる力とその慈悲をもって癒し給え


 

 ふらりと倒れゆく身体から、白く細い手が伸ばされ、その手のひらにぽうっと光が灯る。


「――っ!」

 

 光は手を離れ、ティアへ手を伸ばすオーケヌスをふわりと包み込む。


 血の滲んだ頬。盾で相殺しきれなかった手のひら。


 先ほど『魔女』から放たれた魔法攻撃により傷ついた箇所を、暖かく柔らかな輝きが集中する。


「全く君は……」

 

 ティアの身体を抱き止めたオーケヌスは、彼女の魔力と精神力に感嘆する。

 先ほどまで頬と両手に感じていた、痛みとはちがう、ジリジリとした何かも、息苦しさも、光に包まれた瞬間に、傷と共に綺麗に消えてしまった。

 ティアには、後でいい、と言ったものの、見た目に反して重症だったことに、オーケヌスは途中で気付いたが、それよりも、ティアを守ることが優先だった。


 (見たことも聞いたこともない支援、盾と衣の複数展開、三体もの精霊召喚の後、更に守護神の加護発動……)


 それだけでも限界を超えていそうなものだというのに、最後に自分に向けての癒しまでしてのけた。


「君の精神力はどうなっているのだ……」


 オーケヌスは、腕の中で気を失っている華奢な少女を見つめる。一体、この華奢な身体のどこにこのような胆力が備わっているのか。

 幸い、ティア自身の身体には傷はなく、おそらく魔力の使い過ぎにより、気を失ったと思われる。

 ……魔力がぶつかった時にマントで庇ったのは正解だった。

 自分はここに来る前に『守護の衣(プロテクト・ローブ)』を纏っていたが、あの強化された盾で防いだにも関わらず、魔力の余波を受け、傷を負った。

 おそらく守護を纏っていなかった彼女は、そのままであればかなり酷いことになったであろう。


 (『祝福の衣ベネディクション・ローブ』の複数掛けなど、聞いたことがない……)


 オーケヌスは彼女の特異性について聞いてはいたものの、やはり実際に目にすると驚くことばかりだ。

 あの時、守護の衣を纏っていなかった彼女に、すぐに纏うようにと指示したつもりだったのだが、あろうことか一度の呪で二人分を展開してみせた。


 (『祝福の盾ベネディクション・シールド』も、なぜか球体になって全方向からの攻撃に備えていた)


 あれはもはや『盾』とは言わないだろう。と、オーケヌスは半ば呆れてしまった。


「殿下! ティア様!」


 何人かの足音と、声が聞こえてくる。

 オーケヌスはティアを抱えたまま、その場に立ち上がった。


「……! 一体何が……?」

「ティア様に何かあったのですかっ!?」


 慌てた様子のクレイとアクティスがオーケヌス達のそばまでやってきて、その場にザッと跪く。

 

「……私は問題ない。彼女は魔力を少し使いすぎたようだ。すぐに休ませたい」

「承知いたしました」


 ティアを部屋まで運び、休ませた後、そのまま客間を借りて情報の共有をすることになった。

 

 

 クレイの話によれば、執務の合間に休憩をしていたはずのオーケヌスが、突然居なくなったので不審に思い、ティアの部屋へ行ったのかと探しに向かった。

 すると、ティアの部屋でも、私室で休んでいたはずのティアが忽然と姿を消したと、騒ぎになっていたという。


 オーケヌスはというと、休憩時間に仮眠をとっていたところ、急にあの声が頭に響き、起こされたというのが真実であるが……

 『あの声』に関して知っている者は、ティアだけだ。

 自分の中にもう一人誰かいるのではないかという疑念が、今回のことで現実味を帯びてしまった。

 

 (ここにいる者たちに話せる内容ではないな……)


 ティアと合流するに至った過程を、思いおこす。


 

 ◇◇◇

 


 ――あの子が危ない! 急いで!

 

 近頃よく聴こえてくる、少年の声で目が醒める。

 私の意識が覚醒する前に、身体はすでに動き始めていた。

 誰にも告げることなく、部屋を飛び出し、護身用の魔法剣を確認。その後、仰々しい司祭の上衣を脱ぎ捨て、その代わりにマントを羽織る。

 廊下を走り抜けながら、『守護の衣(プロテクト・ローブ)』を展開し、エントランスを抜けて、外へ出る。その間、不思議なことに誰とも会わなかった。

 未だティアの姿は見えないが、足は迷うことなく進んでいく。……こんなことは初めてだ。自身の意思と関係なく自分の身体が動くことに、オーケヌスは恐怖を感じていた。


 しかし、中庭に入りティアの白銀の頭が見えた時、意識が完全に覚醒する。すぐそばにいる黒髪の長身の女性が、ちょうど彼女に手を伸ばすところだった。


 ――だめだよ!


「何をしている!?」


 声を上げ、ティアの腕を引き、抱えると、そのまま後ろに大きく飛び、距離を取る。




「……やだっ! 那月っ!」


 彼女は正気を失っているのか、腕の中で暴れて誰かの名を叫ぶ。

 私は焦りから思わず怒鳴った。


「よく見ろ! 本当にあれは君の知っている人間なのかっ!?」


 ティアは私の声に驚いたのか、動きを止めて、ゆっくりと瞬きをすると、前方に視線を戻した。

 私もそちらに目を向けると、そこには、黒と金の長い髪をざわざわと(なび)かせ、異様な雰囲気をその身に(まと)った黒い女がいた。

 

 恐らくあの異様な雰囲気は、闇属性と光属性の魔力。

 

 相反するそれを同時に使うことのできる存在に、私は憶えがあった。

 黒髪の中にいく筋かの金髪、まるで月のような金色の瞳。その手には、髪の色と同じく黒と金が渦を巻いたような光が灯っている。


 月の魔女サイラ=ヘカテルーナ。


 光と闇の属性を高く持って生まれ、『月の祝福』をうけし、原初の存在。


 あの魔女が一体、いつから生きていて、何を目的にしているのか私は知らない。しかし現在、ティアに危害を及ぼそうとしているのは事実だ。

 

 なぜ今ここに? ティアと何の関係が?

 

 もしあの異様な程膨れ上がった魔力を解き放たれたら、自分の魔力(ちから)だけで持ち堪えられるだろうか。


 ……最悪の事態を想像し、ゾクリと背筋が凍る。

 

 私は急ぎ、目の前の魔女が放とうとしている魔力に対抗する(すべ)を考える。

 本当なら『守護の衣(プロテクト・ローブ)』では心許なく、聖属性の『祝福の衣ベネディクション・ローブ』に切り替えたかったが、それでは盾が間に合わない。


 即座に、『祝福の盾ベネディクション・シールド』を展開することを選んだ。

 空いている右手を前に出し、魔力を手のひらに集中させ、盾を張るための呪を紡ぐ。

 

 ティアの驚く顔が私の方を向いていたが、それどころではない。

 彼女を護らなければ。という使命感しか無かった。


 私が必死で呪を紡いでいると、腕の中のティアが、何か呟いているのが聴こえる。

 

――聖なる加護を授けし女神に願う


 何をしようとしている?

 

――我を護りし()の者に


 『大丈夫、続けて』


 頭の中でまたあの声がする。

 

――我が魔力(ちから)

  我が(こころ)をのせて

  更なる加護を授け給え


 『彼女が合わせてくれるよ』

 

 どういうことだ。


 月の魔女の手のひらから、魔力が放たれる。

 

 ティアが、私の方を振り仰ぐ。

 

 呼吸が合ったのがわかった。


 『今だよ!』

 

 頷き合い、呪を放つ。


 目の前には、真っ黒な魔力が迫っていた。

 


 (間に合うかっ!?)

 


 ――祝福の盾ベネティクション・シールド



 きいいいんっ!!!



 私達を包むように、想像以上に光り輝く大きな盾が出現し、黒い魔力が目の前で弾け飛んだ。

 

 そこで初めて、私はティアのしたことに気づく。

 

 彼女は私の紡いでいる呪に気付き、強化したのだ。

 ある程度の余波は飛んできたものの、ティアの聖属性の魔力が相当に純度が高いのか、それで済んだ。

 ……私一人の魔力では、持ち堪えられなかったと思う。


 『あの声』は、全てをわかっているようだった。

 一体どういうことなのか……

  

 

 ◇◇◇


 

 ――その後の魔女とのやりとりも含め、全てを話すわけにはいかないか。と、オーケヌスは話しても大丈夫だろうと思われることだけ話すことにした。


 胸騒ぎがして外に向かうと、ティアが何者かに襲われそうになっていたこと。

 慌てて救助に向かった先にいたのが、『月の魔女サイラ=ヘカテルーナ』であったこと。

 魔女から魔力攻撃を受けたが、二人で盾を張り防ぎ、その後にティアが三体の精霊召喚、更に守護神の加護を展開。魔女は分が悪いと判断したのか、そのままどこかへ去った、ということ。


 自分もティアも誰の目に見つかることなく、この場所へ誘い出されたのは、恐らく空間が捻じ曲げられていたのではないか。と。


 彼らに話すことができるのは、このくらいだろう。



 

 人払いをした部屋を、沈黙が支配する。


「狙いはお二人だったのでしょうか……?」

「……動機がわかりませんね」


 クレイは腕を組み、アクティスは難しい顔をしている。


「まずは両陛下に報告をあげることにする。……自分たちでは持っている魔女の情報が少な過ぎるからな」


 オーケヌスは唸る二人にそう告げた。

 


 なぜ今、『月の魔女』が現れたのか。

 ここにいる三人の、誰にもわからなかった。

 

次回は火曜日昼です。

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