40:必要なのは忠告か、警戒か
真っ直ぐ一直線に続く青い回廊を、主であり、幼馴染でもある、オーケヌスの右斜め後ろにぴたりとはりつき、歩く。
ここは、神殿から城へと入ることのできる唯一の道だ。有事の際にはここが最終的な防衛地点となるため、戦闘になった場合に対応できるように、かなり広く創られている。
『……ダメですよ?』
『……何がだ』
先程交わした、聖女ティアの護衛兼、教師、アクティスとのやりとりを思い出す。
もちろんその間も、オーケヌスの護衛である俺は、周囲への警戒を怠らない。
――あの騎士は気づいているだろうか。自身の放つ殺気と、波立つ感情の理由に。
いくら聖女のためとはいえ、護衛に、教師にと、共にいる時間が長すぎたのではないかと思う。
オーケヌスに注意を促すかどうか、悩むところだ。
この都の王子であるオーケヌスは彼女を自身の婚約者の立ち位置に据えることに決めた。
ミオティアル様とそっくりである彼女が、一体どういう存在なのか、未だ説明されていない俺は、オーケヌスがそれ程までに心を砕いている理由がいまいちわからない。
婚約の件について、相談を受けた時には驚いたが、詳しく聞けば、まぁなるほど。とは思う。
オーケヌスも、その婚約者候補のミオティアル様も、すでに適齢期を過ぎている。
二人にその気が無かったとしても、政略的な面を考えれば、とうに婚約し、婚姻を結んでいても良いくらいなのだが。
ミオティアル様は、お優しい気質がわざわいしているのか、幼馴染で元聖女候補であった騎士のセルレティス様の行く末を心配し、自分が先に婚姻を結ぶわけにはいかないと考えているようだった。
オーケヌスも、彼女の心を無視することができなかったのだろう。
そんな二人の間もようやく距離が縮まってきて、いよいよ婚約も秒読みかと思われていた矢先、ミオティアル様の失踪事件が起き、今も安否がわからない状況だ。
……そのような時にちょうど、ミオティアル様に瓜二つのティアが現れた。
出目のわからないティアに対し、よく思わないものもそれなりにいる。だからオーケヌスと婚約することで、そういう者たちへの牽制になるし、守りやすくもなる。……都の結界の維持のためにも、聖女となったティアを守ることは必要だ。
……聖女の『姿』しか知らぬ民衆の目などは、簡単にごまかせる。いつまでも婚約しない王子では、民も不審に思うだろうから、それこそちょうどいい。
問題は、ミオティアル様の安否だ。
無事に都に戻って来ればそのままオーケヌスと婚姻を結べば良いが、万が一ということもある。
……ティアには悪いが、『フリ』を辞めてもらい、『ミオティアル様』としてこの先を生きてもらうことになるかもしれない。
ただ、「身代わりではない」と強く言ったオーケヌスが、納得しない可能性もある。
事態がどう動いても、ティアの扱いをどのようにするのかは決めておかなければならないだろう。
オーケヌスが実際、ティアのことをどう考えているのか……
幼い頃から共に過ごしてきたオーケヌスの考えは、大抵わかるつもりでいたが、今回のティアに対しての過保護ぶりは、説明がつかない。
……都に必要な存在であることとは別の何かがあるのか。
まぁ、それはともかくとして、二人が婚約することになれば、今後は護衛であるアクティスとの距離感に気をつけてもらわねばならないだろう。
ティアは知らなくても、アクティスはわかっているはずだ。異性である以上、婚約者のいる者と必要以上に近くなることは、互いの外聞に影響する。
教師の件についても、変更するか、同性の従者を伴って指導を受けるかしなければならない。
私も何度か、オーケヌスの代理としてこの部屋を訪ねているが、どうやらティアは、アクティスに対しては気を許しているように見える。
あの警戒心の高い聖女に、どうやってとり入ったのか。
……オーケヌスはどう考えるか。
まずは情報を仕入れたいが、侍女達には守秘義務がある。まともに聞いても望む答えは得られない。
彼女達に気づかれないような調査が必要だ。
アクティス本人には、先程少しだけ鎌をかけつつ忠告をしてみたが、本人はまだ自分の内心に確信が持てない……というより、思い至ってもいないようだった。
……これ以上つつくのはかえって危ないかもしれない。
俺は周辺に誰もいないのを確認し、カツン、カツン、と音を立てて数歩先を歩くオーケヌスの背に、そっと声をかけた。
「……殿下。望む結果は得られましたか?」
「……ああ」
オーケヌスが振り返らないまま返事をし、ふいに立ち止まる。
「……クレイ」
「何でしょう?」
俺も同じように立ち止まり、その背中をじっと見つめ、次の言葉を待つ。
「……私は、酷い男だな」
オーケヌスはそれだけ呟くと、俺の言葉を待たずに再び歩き出した。
次回は火曜、昼です。




