38:護衛とは(アクティス)
EP1の前に、EP0を書き足しました。
EP番号が一つずつずれますので、ご注意ください。
アクティスの心は波立っていた。
『大丈夫ですよ。アクティス、……誰も入ってこれないように、扉の外で待機していてください』
そう言って、彼の主であるティアは微笑んだ。
(不自然だった)
アクティスが知る普段の笑顔ではない、何かを隠した笑み。
先日のトゥエリラーテ姫の乱入事件から、安全のためにティアは、自室、祈りの間、訓練場以外への移動を禁じられている。接触する人間も、活動も制限されている状態だ。
可哀想だと思う反面、親しくなって警戒心を解き、主について知るいい機会だと思い、アクティスはティアに積極的に関わることにした。
専属護衛と魔法の教師の立場は、この際大いに利用させてもらう。
その甲斐あってか、ティアは段々と自然な顔を見せることが増え、来客時以外はリラックスして過ごせるようになっていた。
自分を呼ぶ時の『様』付け禁止も効いたらしい。
上に立つものが下の者に『様』はつけなくていいとか適当な理由をつけ、名前をそのまま呼ばせるようにした。
慣れないのか、言いにくそうにしている表情が、見ていてなんとも可愛らしくもあった。
そんなわけで、侍女のアイリスはもちろん、アクティスもティアの表情でなんとなく様子がわかるようになっていた。
――ただ、隠している何かに触れることはできていないが。
今はまだだ、焦るなとアクティスは自分に言い聞かせている。
正直に言えば、アクティスはあの部屋に残りたかった。
ティアと王子のいる客間の扉を見つめる。
「怖い表情になっていますよ」
隣から、気に触る声がする。
オーケヌスの侍従兼、護衛のクレイ。
彼は王子が一番信頼している者らしく、よく見かける。王子の代理でここに来ることもあるくらいだ。一見ふわりとした優しい印象を受ける見た目ではあるが、実際は何を考えているのかわからないと、アクティスは感じていた。
「……護衛するべき主と離されたのだ。気に入らなくて当然だろう」
アクティスはギロリと横目でクレイを睨むと、すぐに扉に視線を戻す。
(急に婚約の話を持ち出すなんて、普通じゃない。さらに、そんな話をした後すぐに人払いなど)
目の前に立ちはだかる扉は分厚く、中の音はほとんど聞こえない。ただ、万が一何かあったときのために、中で一定の強さの魔力が動くと、外にわかるようにはなっている。
正直にいえばアクティスは、この煌びやかな扉に貼り付いて、聞き耳を立てたかった。
「貴方が何に対して苛立っているのかは、分かりませんが……まずは主に命ぜられた任務をこなした方がいいのでは?」
そう言ってクレイはニコリとする。
「……わからない、だと? 私は……」
アクティスは言い返そうとして、言葉につまった。
明確に答えられない自分に気がついたからだ。
少なくともオーケヌスは、これまでティアに対して最大の配慮をしてくれている。先日の事件でも自身の身の陰にティアを庇っていた。
今までのオーケヌスの行動を見ていれば、ティアに何か危害を加えるとか、そんなことはないはずなのだ。
……ただ、先程の会話の流れの後、オーケヌスと二人きりにするのが、なんとなく嫌だった。
護衛として、主である聖女ティアの安全を思えばそう思うのは当然だと思っていたが。
――何か、もやもやとしたものがアクティスの中に広がっていく。
祈りの儀式を行う、祈りの間へは、いつもオーケヌスとティア、二人で入っていく。それは、あの部屋が特殊だからで、仕方がない。
――だが今回は。
(……イライラする)
どうしようもなく波立つ心の、持っていく先が見つからず、アクティスは戸惑う。
黙り込んでしまったアクティスの顔を覗き込み、クレイは口の端を少し上げる。
「……ダメですよ?」
「……何がだ」
「……いいえ? まぁ、あまり考えない方がいいとは思いますが……貴方は護衛ですからね」
クレイの曖昧な言葉がいちいち気に触るが、アクティスはそれもなぜなのかよくわからないまま、扉を見つめていた。
次回は火曜日です。




