30:身を守るために
バンッ
バシュッ
「なっ……」
「あっ! ……ええっ……」
誰もいない訓練場。大きな音と光の後に、沈黙が流れる。
アクティスは魔法剣を抜き放ち、防御の構えを取ったまま、唖然としている。
ティアもまた、両手を自分の前に突き出し、そのままの状態で目を見開いていた。
――ティアが朝の儀式を終えたその日の昼食後。訓練の甲斐あってか、体調に全く問題はなく、時間を持て余しそうになっていた。そのため、光の刻半程になると、まだ儀式の他にできる仕事のない彼女は、昨日に続いてアクティスから魔力の扱い方について学ぶことになった。
そうしてティアとアクティスの二人は、再び訓練場に来ているのだが――
(この子の頭の中は一体どうなっているんだ??)
予想もしていなかった事態に、アクティスの頭の中は混乱していた。
昼食前、ティアの護衛兼、教師役であるアクティスの元に、オーケヌスより急ぎの書状が届いた。それによると、存在の希少性と危機感のなさが心配であるので、ティアに一刻も早く身を守る術を身につけさせるようにとのこと。
突然の王子自らの書状に驚きはしたものの、アクティスもまた、昨夜の様子を見てその方がいいだろうと考えていたので、夜のうちに今日の予定を組んでいたので、内容に関しては納得していた。
「……守護の盾を創るようにイメージしたんだよね?」
「え、あ、はい……その」
アクティスの確認に、ティアはなんとも言えない表情で口ごもる。アクアマリンのような澄んだ瞳が、ゆらゆらと虚空を彷徨っていた。
(……いやいや。まさかできると思わなかったの)
「なんでこっちに返ってきたの? 何か変わった事を考えた?」
「……変わったこと、かどうかはわかりませんが……跳ね返れ、とは考えました」
今ティアが習っているのは身を守るための基本的な術の一つ、『守護の盾』。通常、この盾に当たった魔力はその場で相殺される。盾の魔力の方が弱かった場合は、相殺しきれなかった分が貫通してくる。
しかしティアが創り出した盾は、練習のために生み出した殺傷能力の無い風の魔力弾を跳ね返し、アクティスの方へ戻ってきた。さらにその魔力弾は威力が増幅がされていたように、アクティスの目には見えた。
あまりに想定外な事だったので、慌てて腰に携えている魔力剣を引き抜き、防いだのだが。
構えたままだった魔法剣を下ろし、ティアの瞳を覗き込むと、アクティスはもう一度問う。
「……それだけ?」
問われたティアの方は、あからさまに動揺した様子で、答えた。
「……倍になって跳ね返ったら面白いなーとか……」
「……倍、に……?」
(いや、念じただけ、念じただけなの! まさか本当にそうなるなんて思わなかった!)
挙動不審になるティアに対し、アクティスは表情にこそださないものの、だいぶ興奮していた。
(思っただけでできるものなのか?)
盾に当たった魔力弾に魔力を上乗せし、相手に跳ね返す。一体どんなイメージをしたらそうなるのかと。
(面白い……この子に色々実験させてみたい……)
じっと見つめる青紫の瞳に、ティアは何かを感じてゾクリと背筋が震える。
「ご、ごめんなさいっ! ……まさか、本当にできるなんて思ってなくってっ!」
ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けるティアに気づき、アクティスはハッと我に返る。
「あ、いや、違うんだ。怒ってるとかじゃなくって、とても面白いなと思っていた」
「……面白い、ですか?」
ティアは意外な事を言われたとばかりに、ぱちぱちと瞬きをして、首を傾げた。
「ああ、とても興味深いよ。跳ね返すとか、飛んできた魔力弾に魔力を込めるとか、前例がない」
今のは練習用の魔力弾であったが、実戦で行ったら反撃の役割を果たすだろうと瞳をキラキラと輝かせながら説明する。
(まぁ、そうなるよね。思い浮かべたの、某ゲームの跳ね返す魔法だったし……)
……ついうっかり、『リフレクション』と頭の中で唱えてしまった事は秘密。とティアは思いつつ、色々試してみるのは、人前じゃ無い方がいいかも……と反省もした。
(せっかく習うのだから、きちんと基本を押さえないとだよね……)
「つ、次は、ちゃんと教本通りにやってみます!」
よしっ!と両手を握り締め気合いを入れ直し、若干身を乗り出してティアがやる気をアピールすると、アクティスはにこーっと笑って、言った。
「……そう? じゃあ、基本と、応用と、どんどん進めていこいうか。キミは飲み込みが早いようだから、鍛えがいがあるし?」
こうして聖女ティアは、魔法訓練二日目にして、『守護の盾』と、『守護の衣』を無事マスターした。
次回は木曜の夜です。




