28:お喋りな侍女達
「皆様、お聞きになりまして?」
ここはメルグリア神殿の奥にある王族の居城。その内の、トゥエリラーテ姫に与えられた居住スペースの一角に位置する、侍女達の支度部屋。
彼女達は、主人であるトゥエリラーテ姫よりもずっと早く起きて、急ぎ支度を整えなければならないが、主の目の届かないここは、気兼ねなくお喋りのできる数少ない場所だ。
「何のお話です?」
「新しい聖女様について、ですわ」
「ああ!女王陛下が、宣言したという……」
「ええ。『都の窮地に、女神様より遣わされた新たな聖女。と、周知徹底をお願い致しますね』という……
」
「……周知徹底とは、どの範囲までの事なのでしょう?」
一人が話題を振ると、次々に声が上がり、噂となり、それは瞬く間に城内に広まってゆく。
神殿までは民にも開放され、城下町とは自由な行き来が許されているが、それより奥の城勤の彼女達には、あまり自由が許されていない。仕える主人と共に外出する場合を除いては、神殿と城とを繋ぐ門で細かなチェックを受けることになる。
そんな彼女達が好きなものはもちろん、『目新しい話』や『面白そうな噂』。それが事実であってもそうでなくても、別に構わない。
その様な理由もあり、城の中で噂話が広まるのはあっという間だ。
「私たち使用人だけではありませんわよねぇ?」
誰かが言った言葉に対し一人の侍女が、掃除に使うための道具を手にしつつ、心配げに呟く。
「……姫様はご存知なのでしょうか?」
それを聞いた少し年配の侍女が、今日の役割分担や引き継ぎ事項を確認する手を止めて顔をあげ、答えた。
「……どうかしら。……まだご存知ないようでしたら、姫様にお伝えするのは慎重になった方が良いのでは?」
彼女の名はメルティルーネ。トゥエリラーテ誕生時から仕える、女王からも信頼の厚い侍女だ。
姫に仕える侍女仲間の中では一番の古株であるため、トゥエリラーテが、聖女ミオティアルを姉のように慕っているのは知っていたし、突然の失踪にとてもショックを受けていることも承知している。加えて多感な年頃でもあり、聖女に関わる話題については慎重になった方が良いと考えていた。
「……そう?」
そのやりとりを少し離れたところから聞いていた新入り侍女が、ほっそりとした長い指を顎のあたりに当て、わざとらしく首を傾げながら声を上げる。
「皆が知っているのに誰も教えてくれなくて、後から分かる方が余程傷つくんじゃないかしら?」
「レオネイラ、貴女はまだ――」
「まだ、何よ?新参者とでも言いたいの?私だって姫様が聖女様をとても慕っていらっしゃるのことくらいは知っているわよ。だからって、いずれ分かることを、黙ってるのはどうなの?お側に仕えているのに、知らないフリをしろというの?」
メルティルーネが諌めようとするのを制し、レオネイラはバッサリと言い放つ。
「……黙っていろと言うわけではありませんよ。……言葉と機をを選ぶべきだと言っているのです」
「どうかしらね?私は早い方が良いと思うけれど」
感情を押し殺した最古参と、歯に衣着せぬ新参とのやりとりを、その他の侍女達は固唾を飲んで見守る。
「……とにかく、独断はしないで」
「……はーい」
メルティルーネは諸々の想いを飲み込むと、抑揚のない声で一言、告げた。
それを聞いたレオネイラは気のない返事をして支度に戻ると、一人ふふんと笑みを浮かべていた。
リュリュイエの都の姫であるトゥエリラーテが新しい聖女の話を耳にするのは、このすぐ後のこと――
今週は昼の投稿のみになります。




