27:妹姫の怒り
本日二話目です。
「……今、なんと言いましたの?」
可愛らしい声に怒りの感情をのせて、薄桃色の髪の少女が言う。
「あ、あの。め、女神様より、遣わされ、た、あ、新しい聖女様が現れて……」
怒りを差し向けられた若い侍女がしどろもどろに答えた。
少女は手にしていた可愛らしい小花柄のティーカップをコトリ、と置くと、薄ら寒い笑みを浮かべて、問う。
「……それで?」
「で、ですので……その……あ、新しい聖女様に、ご挨拶を、と……」
普段は大きくキラキラとした赤い瞳が、みるみる吊り上がっていくのに気がつき、侍女の身体はビクリと縮こまり、その声も小さくなっていく。
「……誰が、誰に挨拶をするんですの?」
「あ……えぇと……」
先程よりもさらに不穏な空気になり、その場にいる誰もが、息を呑み、少女に注目する。
コンッコンッ
来客を知らせるノックの音が、静まり返った部屋に響いた。
「は、はい!只今!」
動きを止めていた侍女の一人が、はじけるように取り次ぎにむかう。
ドアの向こうでしばらくやりとりをしたあと、来訪者を伴って戻ってきた。
「後にして下さる?今、大切な話をして――」
「……トゥエリラーテ姫。少し落ち着きましょう」
「シェナ!!」
リュリュイエの第一王女、トゥエリラーテ=エルテ=ライ=メルグリアは、ガタリと音をたて、淑女らしからぬ所作で立ち上がると、シェナの方へ駆け寄る。
「シェナ!新しい聖女って、どう言うことですの!?」
「……姫様。私は今、教師としてこちらに参りました」
表情を変えずに対応するシェナに、はっとして時計を確認する。もう座学の時間だと言うことに気がつき、態度を改めた。
「……シェナ先生、ようこそいらっしゃいました。……先にお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
シェナがチラチラっと周囲の様子を見やると、何人かの侍女が居心地悪そうに俯き、少し離れたところでこちらを見ていた一人の侍女が、スッと目を逸らしたのが見えた。
(機を見てお知らせする予定であったのに……余計なことを……)
内心毒づきながらも、そんな思いはおくびにも出さず、穏やかに語りかける。
「……そうですね。今のご様子では勉強にも身が入らないでしょうから。ただし――」
シェナはそこで言葉を区切ると、再び周囲を見渡す。
「……お喋りな侍女達に、仕事を与えてからに致しましょうか」
そう言ってニコリと微笑むと、トゥエリラーテの指示で、それぞれに部屋の外での仕事が与えられていく。
最後の一人が部屋を出て、護衛についている騎士には部屋の外で待機し、誰も近寄らせない様にと伝える。
「……ここのところセルレティスを見かけませんが」
シェナがふと疑問を口にすると、トゥエリラーテは悲しげに目を伏せ、ふるふると首を振った。
「……今は、そっとしておいてあげたいのです」
幼馴染であり、大切な友であるミオティアルの失踪に、酷くショックを受けて、塞ぎ込んでいるとのこと。かつて自分が恐ろしい目に遭った過去と、重ねているのかもしれない、と説明する。
「……あの事件ですか」
シェナは記憶を辿る。セルレティスが聖女候補を辞退するきっかけになった事件。詳細は伏せられているものの、幼かった彼女の心に、相当なトラウマを植え付けたのだろう。
「シェナ先生。ミオティアルお姉様は……ご無事……なのでしょうか……?」
先ほどは怒りに打ち震えていた様子から一変、今度は心配と悲しみに肩を振るわせながら言う。
素直な性格は好ましいと思う反面、これから都を治めていく王族として、感情の起伏を悟られない様になってもらいたいとも思い、シェナはあえて淡々と話をする。
「……わかりません。わかっているのは、聖女の継承が起きたということは、ミオティアル様が聖女としての役割をこなせない状態にあるということです」
「……聖女継承の話は、本当ですのね……」
「ええ。私はその場に立ち会いました」
トゥエリラーテは大きく目を見開いた後、肩を落とし、テーブルの下で服をぎゅっと握りしめる。
「……姫様は、『魂合の術』について憶えていらっしゃいますね?」
シェナの言葉に、はっとして顔を上げる。
「……神から続く一族の、血筋を守るために……神から与えられし秘術……神に連なる高貴な血筋の魂に、異変がありし時に発動し、その傷ついた魂が補完される……」
「そうです。……それがあれば、滅多なことはないはずなのです」
ここでシェナは、トゥエリラーテの顔を覗き込んだ。
「姫様。たとえどの様な経緯があったとしても、聖女継承は、古くから守護女神テティスの意思によるものです」
「……わかって、いますわ……」
「……お会いしてみますか?新しい聖女様に」
姫様のお気持ちが少し落ち着いたら、お時間をつくりましょう。とシェナは微笑んだ。




