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26:二度目の儀式とこれからのこと


 翌朝ティアは昨日より少し早い時間から時間から身支度をし、アイリスとリリアナ、護衛のアクティスを伴って、祈りの間へと続く廊下でオーケヌスを待っていた。


「ティア様、お加減はいかがでしょうか?」


 仕事モードのアクティスが、声をかける。


「問題ありません。リリアナの特製ドリンクのお陰でとても体調がいいです」

「特製ドリンク、ですか?」


 そうなのだ。リリアナは、侍女としてはまだ見習いであるものの、食材や薬草についてとても詳しく、若くして調薬師の資格を持っている。それも、一級の。


 (なんていうか、知識と技術は間違いないのよね)


「はい!『ティア様専用、元気いっぱいジュース』ですよ!」


 ニコニコとリリアナが訂正する。


 (……うん。とてもわかりやすいし、効果は抜群だし、間違ってはいないんだけど)


 その名前を聞いた時に、『専用じゃなくて誰が飲んでも同じでは?』とか、『子ども用ですか?』とか、思ってしまったティアだった。

 ……実際には栄養剤のようなもので、急激に魔力を使ったことにより消耗した、体力の回復を助ける効果があるというものだ。効果についても問題なく、よく効いたのは間違いない。

 

「……ずいぶんと可愛らしい名前ですが、効果は素晴らしいようですね。顔色がとても良くなっています」

「そうでしょう?……私の愛情がたっぷりとこもっていますから!」


 リリアナがふふふんと言わんばかりに胸を張っていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 全員がサッと元の位置に戻り、首を垂れる。


「オーケヌス殿下。おはようございます」

「随分と早いな。……待たせてしまっただろうか」


 オーケヌスは頭を上げるように言うと、少し困った顔をする。

 

「私がお願いして早く連れてきてもらったのです。殿下をお待たせするわけには参りませんから」


 そう言ってティアはニコリと微笑むと、オーケヌスは更に複雑な顔になる。


「……そうか。気を使わせてしまったな」


 そろそろお時間です。とシェナが促し、ティアはオーケヌスの後について祈りの間に入った。


 

 ◇◇◇


 

「……うん。これなら続けられそう」


 魔力の光が弾け、降り注ぎ、魔法陣に吸い込まれる。(まぶた)をそうっと開いて立ち上がると、ティアは頷いた。

 

 二度目の儀式は、あっさりと終わった。一度目の時にはぐんぐん魔力が吸われるような勢いであったものが、今日は調節出来ていた。


「たった一度訓練しただけでこれ程変わるものなのか」


 予想以上に訓練の効果が出ているのか、驚き感心するオーケヌスに、ティアはニコリと微笑む。

 

「はい。自分でも驚いていますが、とても身体が楽です。魔力の流れも、昨日はどんどん吸い出されていくようで恐かったのですが、今日は大丈夫でした。訓練の機会をいただき、ありがとうございました」

「……すまなかった。本来なら先にさせるべきであった」


 目を伏せ、謝罪するオーケヌスに、慌てるティア。


「あ、あの。そう言うことではなくって……」

「いや。何度もいうが、これはこちらの落ち度だ。……君に命の危険と恐怖を与えてしまったのだ」

「……と、とにかくですね。これなら、一日二回でも出来る気がします!」

 

 魔力の満ちた魔法陣を眺めながら満足げに答えるティアに対し、オーケヌスはまたしても複雑な表情になっていた。


「……君は、無理をしなくていい」

「え?」


 唐突な言葉に、ティアが振り返る。


「でも、これはリュリュイエの都を護るための、とても大切なお役目だと」

「……そうではあるが」

「私は、私に出来ることをしなくてはなりません」

「……なぜ」

「だって……」


 だって私、元の世界に帰るまでの、期間限定聖女ですから。と答えかけ、スイっと目を逸らす。


「行く当てのない私を、置いてくださるのです。望まれた役割を、きちんとこなさなくては」


 働かざるもの、食うべからずと教えられて育ちました。と笑う。


「ですから、やらせてください。……お祈りのほかに、聖女様がなさっている事を教えていただけますか?」


 オーケヌスは、少し難しい表情(かお)をしたまま、ミオティアルが日常している事を思い浮かべる。

 朝食の後、昼食の時刻までは病や怪我を負った人々に癒しの魔術を施す。その後は、書庫や資料庫でよく調べ物をしていて、その間に来客があればその対応もしていたはずだ。と説明した。


「癒しの魔術に、調べ物……」


 ふむふむ。と頷いて、呟く。

 調べ物はまた考えるとして、癒しの魔術に関しては、訓練が必要なのかなと考える。


「……まさかそれもやろうとしているのか?」

「はい。……出来るかどうかという問題が先にありますが、もしどうにかなるものでしたら……」

「……」

「む、難しい、でしょうか……?」


 険しい顔で黙ってしまったオーケヌスに、ティアは少し慌てた。


 (ちょっとでしゃばり過ぎかな?)


「いや、無理ではないだろうが……」


 オーケヌスも、昨日行われたティアの訓練の様子について報告を受けていた。

 物事をイメージする力に長けているようで、恐らく魔力の扱いもすぐに慣れるだろうと言うこと。飲み込みが早く、好奇心も旺盛なので様々な技術を身につけることもできそうだと言うこと。

 なんでも器用にこなす彼がそういうのだ。まず間違いはないだろうと考えている。


 (なるほどな……しかし、まずは自分の身を護る方法を知るべきであろうな)


「何か問題があるのでしょうか……?」


 考え込むオーケヌスの様子に、ティアは恐る恐る尋ねる。


「そうだな、あると言えばある」

「あるのですね……」


 答えるオーケヌスに対し、しおしおと俯くティア。


「が、聖女による癒しもまた、民にとって必要なことだ。……それも踏まえて、優先順位の高い技術から学べるように手配しよう」

「……はい。よろしくお願い致します!」


 わかりやすくパァッと表情を変え、喜ぶティア。


 ではまた夜の儀式の時に。と、二人は祈りの間を後にした。


 

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