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25:魔力の扱い方(2)

本日二話目です。


「魔法陣?」


 (祈りの間にあったものより、ずっと小さい)


 白い床に黒い線で描かれた魔法陣は四畳程度の大きさで、先日の祈りの儀式で見たそれよりも、かなり単純な構成のようだ。


「ここを見て」


 アクティスは魔法陣の外側をとんとんっと指で叩く。そこには手のひらサイズの小さな魔法陣が描かれていて、そこから延びた細い線は大きな魔法陣と繋がっていた。

 

「小さい方に魔力を込めると、ここを通って大きな魔法陣へと流れていく。魔力が流れた所は色が変わって目視できるから、速さや量の調整を訓練出来る」


 説明を聞き、ティアは小さく頷く。

 

「……試していいですか?」

「もちろん。お手本は必要?」

「……やってみます」


 (儀式の時みたいで良いんだよね。でも、あの勢いはちょっと怖かったから……)


 あの時の身体の中にある魔力の流れはとてつもなく速く、制御どころではなかった。訓練を受けてなかった事もあるが、それ以上に魔法陣そのものが魔力を必要としていたため、半ば強制的に引き出されることになった結果だったのだが。


 (さっきの流れをイメージして、量を調整すれば、大丈夫)


 ティアは小さな魔法陣に指先をのせると、体の中心部から腕を通って指先まで魔力を流していく。そこから糸を出すようにイメージしてみる。すると指の触れている部分から少しずつ光が灯り始め、やがてそれは小さな魔法陣全体に行き渡った。


「良い調子だね。そのまま流し続けて」

「はい」


 言われた通りにすると、二つの魔法陣をつなぐ線を光が伝っていく。


 (周りからぐるぐる中心に向かって……)


 ティアがイメージした通りに、魔力の光は、大きい方の魔法陣に到達した後、一番外側に並ぶ文字(の様に見えるもの)をなぞりながらぐるりと一周し、そのままゆっくりと渦を巻くように中心に向かっていく。ティアは面白くなって流す量に変化を加えようと試みた。

 今度はホースから出る水をイメージしてみる。触れているのが指先だけでは足りないかもと思い、ペタンと手のひらをつけた。


 (わぁ、速い速い!面白い!)


 ティアのイメージするまま、魔力の光は速さを増し、魔法陣を輝かせる。そのまま一気に中心近くまで光らせると、ふと思い直して流すのを止めた。そうしてから、またゆっくりとした速度に戻して中心まで行き渡らせた。


「出来ました!すっごく面白いですね!」


 ティアがバッと興奮気味に振り返ると、アクティスは何故か動きを止めて魔法陣の方を見つめていた。

 

 (……完全に制御できているんじゃないのか?魔力を流す方向、量、速さ。自分の意思で調整しているようだったし、ブレも全く無かった。)


 もしかして教師役の僕の出番がないのでは?ということに気が付いてしまい、アクティスはなんとも苦い顔でティアの方に向き直る。


「あ、あれ……?もしかして、こういうことではなかったのでしょうか……?」

「!あ、いいや、それでいいんだ。それでいいんだけど……なんていうか。今から順を追ってやろうとしていた訓練を、一度で全部やってしまったから、僕が出る幕が無かったなぁと」


 不安になって尋ねるティアに対し、アクティスは慌てて取り繕ってニッコリと微笑む。

 

 せっかくだから手本を見せれば良かったかなぁ。とか、『わー!すごーい!』などとちょっと言われたかったなぁ。とか内心では思っていたりもしたのは彼だけの秘密だ。


「……そうなんですか?」

「うん。今キミがやったのは、魔力を少しずつ流すこと、流す量を増やすこと、魔力を思い通りの方向に流していくこと、自分の思った所で流れを止めること。この四つをおこなったよね?……この魔法陣で覚える全ての事を一度でやり終えてしまった。これは中々初心者では難しい」

「そうなんですか」


 すごいという実感が湧かないのか、ティアの反応はイマイチだ。


「まぁ……その。僕よりずっと優秀な気がするよ、正直。ははは」

「えっ……」


 乾いた笑いに、二人の間に気まずい空気が流れる。


「あの……」

「でも、キミがとても優秀だから、今日は早く終われそうだ。次の段階に行きたいけど、それはまた明日にしようか。今日はもう休むといいよ」


 アクティスは、戸惑うティアの頭をぽんぽんっと叩き、そのまま訓練場をを出る様に促す。


「あ、あの」


 訓練場を出たところで、ティアはアクティスに向き直る。


「ん?どうかした?」

「あ、えっと……今日はありがとうございました。次からもよろしくお願いします」


 そう言ってティアはぺこりと頭を下げる。


「……」


 それを見たアクティスは、じっとティアを見つめ返す。


 (……見ない形の挨拶だな。彼女がどこから来たのか、手掛かりになるか?……でも、あまり周りには知られない方がいいのか?)


「……ティア」

「はい?」


 アクティスの真剣な顔に、首を傾げる。その様子に、苦笑して告げた。


「アイリスに、一通りの挨拶と儀礼を習った方がいい。……キミ自身を守るために」

「……え?」


 唐突の指摘に戸惑い、考える。


 (あ……。私もしかしてやっちゃった感じ?)


「さぁ、部屋に戻ろう。僕もそろそろ夜番の護衛と交代しないと」


 アクティスはそう言ってニコリと笑うと、部屋の扉を開けて戸惑い顔のティアを見送った。



 ◇◇◇

 

 部屋へ戻ると、アイリスの手により就寝の準備がされ、そのままベッドへ直行させられた。


「訓練が早めに終わって良かったです。今日はお疲れになったでしょうから」

「?どちらかというと、とても楽しかったけれど……」


 心配顔のアイリスに、心配し過ぎだと笑う。でも、彼女はふるふると首をふった。


「ティア様。今は興奮していらっしゃるので、疲れを感じにくいのだと思います。ですが、明日もありますから。……お身体を大切になさってください」

「明日?」

「……はい。大変、不本意ではありますが、暫くはオーケヌス殿下の立ち合いの元、儀式を行うということになるようです」


 ティアが目をぱちくりとすると、アイリスは眉を顰め、『大変』の部分を強調しながら、答えた。


「……そんな顔をしないで下さい。働かせてほしいと言ったのは私ですから」


 ……何より家に帰りたい。帰る方法が見つかる前に、見限られるようなことになっては困るのだ。と胸の内で呟く。


 くれぐれも無理をしないようにと念を押されながら、天幕が降ろされる。


 

 (あ、そうだ。明日の朝、アイリスに挨拶についてきかなくちゃ。それから……)


 

 色々と考えたい事もあったが、アイリスの言う通り思っているよりも疲れていたらしく、程なくしてティアは眠りに落ちた。


 

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