23:護衛兼、教師アクティス
朝方に、手違いで本日12時の分を投稿してしまいました……(汗
本日二話目です。
アクティス=ノル=セレストルは、女神セレーネを祖とする由緒正しき家の生まれだ。兄が二人、姉が一人いて、アクティスは末っ子として伸び伸びと育った。
アクティスも含め四人とも、魔力や学業の才に恵まれたが、アクティスは身体を動かす事が好きで、人懐こい性格であったため、年上の騎士達に可愛がられ、皆の中に混ざって稽古をつけてもらっていた。
騎士を目指す様になったのは、姉の存在が大きい。姉は、その身に抱える膨大な魔力の扱いに長けており、それを生かした魔法騎士となった。現在はリュリュイエの一の姫であるトゥエリラーテの専属護衛騎士として活躍している。
幼い頃のアクティスは、六つ歳の離れた姉が訓練するのをよく眺めるのが好きだった。
スラリと伸びた手足と、適度についた筋肉。舞うような剣技で年上の騎士達を圧倒していく。身体の成長が止まると、どうしても埋められない純粋な力の差は、魔力を操作する事で補なうようになり、今では都で五本の指に入る実力者だ。
姉の様な騎士になりたい、美しい剣技を身につけて、自分が剣を捧げる相手と巡り会いたいと願う様になった。
学園を主席で卒業した後は、念願の騎士となり、とにかく稽古に打ち込んだ。
その実力は確かなもので、騎士達の間では、姉の存在を抜いても一目置かれるようにまでなった。
ただ、肝心の剣を捧げる相手が見つからない。その事に若干の焦りを抱えつつ、日々を過ごしていた。
そんなある日、突然女王陛下から直々に命令を受けることになった。
水の司祭であるシェナからの呼び出しに従い、メルグリア神殿内の指定された部屋に向かう。
そこには変わった衣を纏った少女が居た。驚いたのはその容姿、三週間ほど前から行方がわからなくなっている聖女ミオティアル様とよく似ていた。
もう一つ驚いた事は、その身体からじんわりと魔力が漏れ出ていること。
通常、子供の頃に魔力操作の訓練を行うことで、魔力滲出はおさまるようになる。訓練を受けていないのか、それとも抱える魔力が膨大過ぎるのか……。
(この少女は一体……?)
少女は不安気な表情をしていて、緊張もしている様だった。
少し観察し過ぎたかと反省し、持ち前の人懐こい笑みを浮かべて、声をかける事にした。
(緊張をほぐして、情報を得るところから始めるのが正解か)
おそらくそのために自分が抜擢されたのだろうと理解し、距離を縮めていくことに決める。
(剣を捧げる相手を探すのも大事だけど、まずは自分に与えられた仕事を熟すことにしよう)
そう思って砕けた口調で自己紹介をし、冗談まじりに、ペロリと下を出して見せる。
すると、緊張で固まっていた少女の肩の力がフッと抜け、思いの外可愛らしい笑顔で答えた。
「私の事はティアと呼んでください」
◇◇◇
その日の午後、アクティスは信じられないものを見ることになる。
住む場所を確保してもらう代わりに、働きますと願い出たティアのために、神殿で働くものが皆受ける事になっている、精霊の加護の試験をする事になったのだが。
そこで目の当たりにしたのは、ティアの持つ圧倒的な魔力量と、属性値の高さ。あの様子では精霊からの加護どころか、契約までいったのではないだろうか。更に驚くべきことは、女神テティスの加護を受けるという、聖女の継承まで起きてしまったのだった。
驚きのあまりに呆然としているうちに、アクエリアム、ウラヌセウト両陛下が現れ、驚き慌てるシェナと共に、何かを話し込んでいる。
そうしているうちに、試験は終わりを迎え、ティアはきょろきょろとあたりを見回した後、両陛下の存在に気がつき、今起こったことの詳細を話している。
(自分は今、何かとてつもない事に関わってしまったのではないのか……?)
その後、新たな聖女の誕生ということで、急ぎこれからの支度が行われる。聖女に与えられる部屋、生活用品、衣服、諸々の小物……
それらの支度に、アクティスは護衛としてついて回る。その間もずっと彼女の様子を伺っていたが、とても高貴な生まれの様には見えない。そう見える様に振る舞ってはいるものの、ふとした時に見せる表情は、その辺りにいる普通の少女だ。
都を護るための結界の維持という、突然降りかかった重積と、目まぐるしい変化に、押しつぶされそうになっている……と、アクティスの目には見えた。
(本人はうまく取り繕っているつもりだろうけど……相当無理をしているだろうな。あれではまるで……)
……何かを胸にずっと秘めている、自分の姉のようだ。とアクティスは感じていた。
次の日の朝。
翌朝から儀式が再開されると聞いた時には、アクティスは驚いた。大丈夫なのかと。
(彼女は、魔力操作をした事がない様だったが)
女王陛下も無茶を言う。と思いながらも、自分の身分では進言できるはずもない。
納得のいかない顔のまま、早朝の人気のない静かな廊下を、ティアの護衛をするために彼女の部屋へ向かう。
夜番の騎士と引き継ぎをして、中に入って扉付近で待機する。
(あんな普通の女の子が、急にこんな豪華な部屋を与えられて、侍女までつけられて。落ち着かないだろうなぁ……)
「おはようございます、アクティス様。お待たせいたしました」
儀式の支度を終えたらしいティアの声がかかる。
気がついたアクティスが朝の挨拶をしようと頭を下げ、再び顔をあげたところで動きが止まる。
(!!)
「本日もよろしくお願い致します」
動かないアクティスを不思議に思ったのか、ティアが改めて挨拶をする。
(……衣装のせいだけじゃない。佇まいや身のこなしまで、全て洗練されている……昨日までの不安や戸惑いは、何処へ行った?)
「…………あ、あぁ。こちらこそ。……聖女の護衛という誉高き任務、責任を持って務めさせて頂きます」
そう返事するのが精一杯で、ややうわずった声になってしまったのは否定できない。顔が熱くなったのがわかり、少し目を逸らし、「……反則だ」と周囲に聞こえないようにぼそりと呟く。
(ダメだ、早く部屋を出てしまいたい)
「アクティス様、お加減でも悪いのですか?お顔が……」
「リリアナ、聖女様が出られます。扉を」
「え、あっ、はい!」
余計な事を口走りかけたリリアナを制したアイリスに内心拍手を送り、安全の確認を理由に開いた扉から逃げるように飛び出す。
(……顔が熱い。心臓が煩い)
移動中、アクティスはティアや侍女達の後ろを護りつつ、バクバクと煩い心臓を落ち着かせるのに必死になっていた。
その後も、突然の王子の来訪にも動じることなく儀式に向かったティアだったが、その王子の腕に抱えられて祈りの間から出てきた時にはやはりなと思った。
険しい顔をした王子の説明によると、儀式は無事に終えたものの、魔力を一気に使い過ぎた事による疲労のせいだという。
(……こうなる気はしていた)
王子は気がつかなかったのかと多少落胆しつつ、共に入ってくれた事には感心していた。
ティアはこれから、大変な立場になるだろう。彼女の出目はわからないまま、都の最重要な聖女という立場に収まらなければならない。
今回の王子のように彼女のために動いてくれる存在が必要だろうと思うが、彼がどのような思惑でティアを気にしているのか、アクティスにはわからない。今後ミオティアルが見つかった後、ティアの扱いをどうするつもりであるのか……
ティアを部屋に運び休ませた後、オーケヌスはアクティスと侍女達に告げた。
「私から母上に進言する。ティアにまず必要なのは、安定して魔力を扱えるようになる事だ。そうでなければ彼女が危険だ」
「……訓練が必要だという意味でしょうか」
(訓練もなしに膨大な魔力を扱わせたと)
オーケヌスは薄寒い笑みを浮かべ続ける。
「……正直母上が何を考えているのかはわからぬ。だが、私が言えば彼女に教師をつけることは出来るはずだ」
侍女の一人――リリアナといったか――がその姿を見てビクビクとしている。
まぁ、あれだけ殺気を放っていれば無理もないだろうとは思う。
「先に教本を届けさせる。体調が良くなり次第渡してくれ。……今日の夜の儀式の時間を訓練に充てられる様に調整するつもりだ」
「……かしこまりました」
了承の返事をすると、王子は去っていく。
「アクティス様。ティア様の体調が戻りましたら、お伝えいたします」
そう言ってアイリスは、リリアナと共にティアの寝室へ戻っていった。
ティアの体調が戻ったと知らされたのは、夕食の少し前、風の刻頃。
部屋で早速教本を読んでいると聞いて、アクティスはアイリスに許可を貰い、様子を見に向かう。
コンコン
控えめにノックをする。返事がない。
「ティア様?アクティスです」
声をかけるが、やはり返事はない。
少し戸惑ったものの、何かあったのではないかと扉を開く。アクティスの心配をよそに、ティアは読書に集中していて、魔力の操作に挑戦している様だった。
(普通は一人でやるものじゃないんだけど)
危険がないように、そっと見守る。ティアの身体からじわじわと漏れ出ている魔力がスッと収まるのが見え、ホッと胸を撫で下ろす。
(……少し気を張りすぎだ。解しておくか)
「熱心だね〜?」
「ひゃうっ!?!?」
アクティスはそっと近寄ると、覗き込んで声をかけた。ティアは驚いて声をあげ、ガタリとその場に立ち上がる。
(こっちが本来のティアだね)
ニコニコとしているアクティスに対し、何やらティアが抗議をしているが、適当な返事を返しておく。元気になったようで何よりだ。
この後、ティアの教師の話になり、途中でオーケヌスが現れ不穏な空気になったりもしたが、彼女なりに自分の立場を考えたり、周りにも配慮したいという考えを聞く事ができた。
(落ち着いて見えるけど、本当は不安だらけなんだろう)
気がつけば、立場の難しいティアの教師役に、アクティスは立候補していた。
王子が何やら言いたそうにしていたが、結局は何も言わずに飲み込んだので良いとする。
(ティアを見ていると、何かしてあげたくなる。それに、彼女はとても興味深い)
この夜からアクティスは、聖女ティアの専属護衛兼、教師となった。




