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15:ティアと侍女姉妹

本日二話目です。


「お食事はお口に合いましたでしょうか?」

「はい。とても美味しく頂きました」


 夕食を終え、ようやく落ち着いたティアに、アイリスが声をかける。

 

「それは何よりです。ティア様は、お食事のマナーをどちらかで学ばれていらっしゃるようですね。安心いたしました」

「一通りは、習いました。姉がとても優秀なので、鍛えられましたし。……中々厳しかったですが、こうなってみると、姉に感謝ですね……」


 ティアは、少し歳の離れた姉のことを思い出す。自分より四つ年上で、成績も優秀で整った顔立ちでありながら親しみやすく、一人で家を養う忙しい母に替わって家事もこなす。面倒見も良くて、優しくて皆から慕われる、自慢の姉だ。


「……むしろ姉の方が、『聖女様』に相応しい気がします……」


 思わずポツリと呟く。


「……ティア様?」

「ああそれ、わかります!お姉様が優秀だと、そう思っちゃいますよね!でも、お姉様のことは大好きだから、それでも全然構わないって言うか!」

「リリアナ。言葉が乱れていますよ」


 リリアナと呼ばれた少女は、慌てて、あっ。と両手で口を塞ぎ、しゅんとしてみせる。ふわふわのオレンジ色のその頭には、あるはずのない犬の耳があるのではないのかとティアは思ってしまった。

 彼女は、アイリスと歳の離れた異母妹だという。見習い侍女で、明るく人懐っこく、その見た目の幼さも手伝ってなのか、守ってあげたくなるような少女だ。

 見習い侍女としての期間は、通常二年間。身内か、親戚、もしくは知り合いのベテラン侍女に付き、働きながら学ぶ。その後は、正式に侍女として認められるために試験を受け、合格した者は各自役割を与えられる。今回、アイリスがティア付きの侍女になったことで、彼女に見習いとして指導を受けているリリアナもセットで付いてきた。


「ふふ。可愛らしい妹さんですね。お姉さん大好き!が溢れてます。私も、姉の事は大好きなので、同じですね」

「ティア様……」

「ただ、私の姉には決定的な弱点一つ、あったのです」

「決定的な弱点……?」


 人差し指をピッと立てると、にっこり笑ってティアは言う。


「……可愛い妹のおねだりです」


 ごほっごほっ!


「おっ、お姉さまっ?!」

「だ、大丈夫よ。……ティア様、リリアナにおかしな事を吹き込まないで下さいませ。

「あら?私は、自分の姉の話をしただけですよ?……アイリスがそうだとは一言も……」


 慌てて取り繕うアイリスに、すました顔で答えるティア。リリアナはと言うと、指を(あご)に当てて、考えるそぶりをしている。


「……そういえば、お姉様は私のお願いは大抵きいてくれますね……」

「……リリアナ?」

「この前お使いに行った時も……」

「……課題を増やしましょうか」

「はいっ!もう黙ります!」


 アイリスのひんやりとした声に、リリアナはピシッと音が聞こえるかのように姿勢を正し、そそくさと「お仕事、お仕事」と空になったティーセットを乗せたカートを押して、部屋を出る。


「本当に、仲良しなのですね」

「……そうですね。ありがたい事です」


 そう言うとアイリスは、たった今リリアナの出て行ったのドアの方を見た。


「私は、幼い頃に母を亡くしました。父は、母親が必要だと、後妻を娶りました。私は反発しましたが、彼女は、私という人間に正面から向き合ってくれて、とても大切に育ててくれました。それどころか、すぐに自分の子を作ろうとはせず、私の心がきちんと整理されるのをずっと待っていてくれたのです」


 思いがけない打ち明け話に、ティアは目を丸くする。


「きっかけは、そのままになっていた母の部屋を片付けていた時でした。几帳面だった母は、日記をつけていたのです。そこには、自身の死期を悟った母が、『最も信頼できる親友に、娘を託すことにする。』と書き遺していて。それが、リリアナの母の事でした。彼女は、母との約束を、守ってくれていたのです。……今思えば、亡くなった母の部屋が長い事そのままになっていたのも、私が時折母を想って部屋に出入りしていたのを知っていたからかもしれません……。真実を知った私は、父と、彼女に言いました。「弟か、妹が欲しい」と。

 そうして産まれたのがリリアナです。あの子が産まれた時に、私達は本当の家族になりました。継母(はは)は、今までと変わらず、私を慈しんでくれました。今こうして私達姉妹がいられるのも、二人の母のおかげです」

「……素敵なご家族ですね。でも、そんな大切なお話を、私にしてしまって良かったのですか?」


 会ったばかりの自分に、どうして話してくれたのだろうか、とティアは首を傾げる。そんな彼女をみて、アイリスは微笑みながら答えた。


「……ティア様には、話しておきたくなりました。それから、妹を可愛がって欲しいと思う姉心かも知れませんね」

「……やっぱり、私の姉と同じでは?」

「否定は、しません。二人の母から受けた愛情を、今度は私があの子に、とも思うのです。……でも、あの子には内緒です」


 そう言って人差し指を唇にそっと当てる。


『ふふふっ』


 二人で顔を見合わせ、笑う。その表情は、ティアが澪里であった頃、姉が自分に向けてくれていた顔と、よく似ていた。




 

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