12:少年騎士
「シェナ様、お呼びと伺い参りました」
部屋に一人残される事になり、不安げな表情を浮かべるティアの前に、神妙な面持ちの一人の若い騎士が現れた。少し前下がり気味でショートボブ風に綺麗に切りそろえられた髪は淡いグレー、瞳は青に近い紫色に見える。身長は170センチ以上あるだろうか、ティアと同じくらいか少し年上の、まだ少年と呼べるような見た目で、騎士服と軽鎧で身体は隠れてはいるが、細身で身軽そうな騎士だった。
「アクティス。アクエリアム陛下からの命で詳しい説明は省略させていただきますが、風の刻に私がここへ戻るまで、こちらの部屋の警護をお願い致します」
「拝命致しました」
「あぁそれと、今回少し事情がありますので、部屋の外ではなく、内側で待機していただきたいのです」
「かしこまりました。お任せください」
アクティスと呼ばれた騎士は、シェナの前で恭しく頭を下げると、そのままシェナを見送った。
ぱたりとドアが閉まると、頭を上げてティアの方に向き直り、興味深げに彼女を観察する。
形は整っているが、見たことの無い作りの衣装だ。彼女は一体何処からやってきたのであろうか。
「あ、えっと。よ、よろしくお願い致しますっ」
突然見知らぬ異性と二人にされたからか、明らかに動揺しているティアを見て、騎士は少しジロジロと観察し過ぎたか、と反省し、
「初めまして。僕はアクティス=ノル=セレストル。アクティスって呼んでくれていいよ。キミの名前は?」
先ほどとはうって変わって、年相応の少年の様な顔つきと口調になる。
急な豹変ぶりに目を瞬かせるティアに、
「いやぁ、家の関係もあるし、仕事柄、畏まらなくちゃいけないのはわかってるんだけど、どうも苦手でさ。キミも、あまり得意じゃなさそうだし、誰もいない時は楽にしたらいいよ」
などと言いながら、チロリと舌を出してみせる。先程までの緊張感も一瞬で消えて、堪えきれずにティアはぷぷっと吹き出してしまった。
「私のことは、ティアと呼んでください」
◇◇◇
「あの、試験って、一体何をするんですか?」
並べられていく昼食を眺めながら、ティアは目の前の騎士に問う。
アクエリアム達が部屋を去った後、相談の際に部屋を出されたオーケヌスは、そのまま自室へ返されたらしく、戻っては来なかった。シェナについても、自分の仕事があるという事もあり、ずっとティアについているわけにもいかない。昼食後に試験を行いますとだけ告げて神殿の本館へと戻ってしまい、その代わりにアクティスが護衛として残された。
昼食まで休んでいるようにと言われたものの、丸二日間も眠っていたティアは、流石にもう眠ることはできず暇を持て余していたのだが、そんな彼女を見兼ねて、アクティスが相手をしてくれていた。
彼は、神殿警護の騎士の中で新人ではあるものの、セレストル家は昔から王家を支えている家系だと言う。
その様な理由もあり、今回他言無用であるティアの警護の任務に就く事になったようだ。
ティアの事も色々聞かれたが、のらりくらりと答えを誤魔化しつつ、その場を凌ぐ。
昼食が届いたと連絡がきた時には、助かったとほっとした。
ちなみに食事は、給仕さんが部屋のすぐ前まで持って来て、アクティスがカートごと受け取り、テーブルに運ばれてきた。
ちょうど良いので、話題を変えるために試験について尋ねたのだ。
「神殿で働く者が受ける試験の事だよね?……それなら、それ程難しい事はしないよ。自身のもつ魔力の強さや相性のいい属性を確認するだけだから。」
「魔力……ですか」
「そう。属性を確認して、それぞれの配置に付くんだ。……例えば、風の属性を強く持っていたら、風の精霊殿の神官、巫女、護衛、その侍女や侍従、それらの見習いや、下働きに就く。火の属性が強ければ、火の精霊殿に配属される」
ティアは自分の両手を開き、じっと見つめる。ミオティアルとのやり取りを思い出すと、不思議な事にあの時の温かな感触が蘇ってくる。
(うーん。気付くだろうなぁ……。いや、女王様達は、全部わかっていそうなんだよね……。ミオティアルさん、もうちょっと説明して欲しかったなぁ。)
「……何やら考え込んでいるみたいだけど、冷めてしまう前に、きちんと食べて」
「あ、はい。ありがとうございます。……いただきます」
いまいち食欲が湧かなかったものの、目覚めたばかりのティアに配慮してくれたのか、消化に良さそうなものばかりが用意され、ゆっくりとしたペースではあるが、半分程度は食べることが出来た。
食後に出されたお茶をちびちびと飲んでいるティアを見て、アクティスが再び声をかける。
「そういえばティア。キミは神殿や精霊殿の事はあまり知らないのかい?」
「……はい」
「ふーん?じゃあ、僕が教えてあげようか?」
「!?えっと、あのっ」
言うなりずずいっとその綺麗な顔を寄せてくるアクティスに、ティアが驚き思わず身を引いたその時、ドアの向こうから声がかかる。
「シェナです。失礼致しますね」
「は、はいっ。どうぞっ」
ティアは慌てて声の主に返事をする。
(近い!近いの!心臓に悪いからっ!)
アクティスの方はというと、いつの間に移動したのか、何事も無かった様な顔をして所定の位置に戻っていた。
「……どうかされましたか?」
「い、いえ。ぼんやりとお茶を頂いていたところだったので、少し驚いてしまっただけ……です……」
誤魔化しながら、シェナが入って来た扉の右側に立っているアクティスの方をチラッと見ると、彼はティアのほうを見てニヤリとした後、口をパクパクと動かす。『また今度』と言っている様だった。
「お食事は召し上がれましたか?」
「わざわざ準備してしていただき、ありがとうございます。あと、残してしまって申し訳ありません」
ティアは礼を述べつつ、ペコリとお辞儀をすると、シェナは微笑む。
「大丈夫ですよ。足りないことのない様、多めに準備する習わしですから。……それでは、動けそうでしたら、予定通り試験をしましょう」
「はい。もう大丈夫です。よろしくお願いします」
シェナの後について、ティアは隣の部屋へと向かった。




