11:相談と疑問
本日2話目です。
何を聞かれるのだろうかと身構えるティアに、女王は語りかける。
「そう怖がらなくても良いわ。まず、貴女の名前から教えていただけるかしら」
「……ティア、と呼んで下さい」
「そう。では、そう呼ばせていただくわ」
アクエリアムは特に問い詰めることもなく、次の質問に移る。名前など、この際何でも良いのだ。彼女の様子から、恐らく真名は名乗らないのはわかっている。それならば偽名でも構わないと考えていた。
「ではティア、もう一つ。貴女のその衣装は、この都のものではありませんね?つまり、貴女は、ここではない何処かから、ここへ来た。……違いますか?」
「……先程も説明しましたが、気がついたらここにいました。だから、ここが一体どこなのかもわかりません」
アクエリアムは、微笑んで、頷く。
「そう。貴女は、気がついたらここにいた。……嘘ではないけど、全てを説明してはいないわね?」
「……」
(……もしかして、何か気づかれている?)
ティアは、キュッと唇を噛み締める。アクエリアムは何を知っているのか。実は全てを知っていて、ただ、確認をしているだけではないのか。むしろ、自分さえ知らない事を知っているのかもしれない。
ミオティアルは、自分の事を話してはダメだと言っていた。それは何故なのか、教えてはもらえなかった。でも、わからないのならやはり話すべきではないのだろう。それなら、このまま色々聞き出されるのは良くない。そう考えたティアは、口を開く。
「……女王陛下。あなたは、何をご存知なのでしょうか?」
すると答えたのは隣に座って様子を見ていたウラヌセウトだった。
「アクエリアム、この少女は、私達が考えているよりも聡いようだぞ」
「……そのようね。随分と警戒心もある様ですし」
苦笑いするアクエリアムの代わりに、ウラヌセウトが問う。
「単刀直入に問う。其方は、自分の意思とは関係なく、ここに召喚されたのではないか?」
「……そう、ですね。……召喚、と言う表現は正しいのかはわかりません。でも、経緯までは、聞かないでいただけると助かります」
「……それは何故か聞いても?」
何と答えるべきか、足の上で握りしめた両手を見つめる。
「……帰りたいんです。私は、ここで役割を果たしたら、元の場所に帰りたい」
それから、顔を上げ。
「帰れなくなってしまう気がするんです。話してしまったら」
アクエリアムは暫くティアの顔を見つめる。
我が子より少し幼く見えるこの少女は、歳の割に聡い様でもあるし、また年相応に不安を感じてもいるのだろう。敵意が無いのは明らかで、こちらの予想が正しければ(ほぼ間違い無いのだが)、今後必要な存在となる。ただ、お互い明かせない事情を抱えつつ、上手く関係を築くことが出来るのか……。
「……わかりました。それについて、今はこれ以上詮索しない事にしましょう」
「……ありがとう、ございます」
ティアは胸を撫で下ろすと、ふと先程のシェナとのやりとりを思い出す。ミオティアルとの約束を守るために、自分が元の場所に戻るためにも必要な事だ。
……女王陛下になら、相談できるだろうか。よくよく考えてみたら、畏れ多い事ではあるのだが、他の誰に相談したら良いのかなんてわからない。
「……あの……相談があるのですが……」
「うん?相談、とは?」
そろりそろりと二人の様子を伺いながら、ティアが切り出すと、ウラヌセウトが反応する。
「……私、帰ることが出来ないので、居場所が無くて」
「そうであろうな」
頷くウラヌセウト。
「ええと、その。持ち合わせも無いので、宿に止まることも出来なくて」
「……そうね?」
アクエリアムが相づちを打つ。
「わ、私に出来ることは何でもしますので、住み込みのお仕事とかあったらと……!」
それを聞いたウラヌセウトは、一瞬驚いた顔をしたあと、ふむ。と顎に手をやり、考える様なそぶりをする。
「……なるほど」
「えと。そ、その。身の証もたてられないままで図々しいのもわかっています。でも……」
(本当は聖女様に頼まれた事をしないとだけど。先ずはここに置いてもらわなければ)
必死に言い繕うティアに、アクエリアムが答える。
「大丈夫ですよ。それについては、この後試験を受けてもらいますので、結果を確認してからに致しましょう」
「試験……ですか?」
突然の試験宣告に、頭に疑問符が浮かぶ。内容もさることながら、何故、決定事項になっているのかも気になっていた。
「ええ。貴女の役割を確認するための試験です」
「それは……」
「貴女にも、話せない事情がある。私達もそれは同様です。……とりあえず、貴女に害意がない事はわかりました。ですからお互い様、という事で、今はいいかしら?」
そう言ってアクエリアムはニコリと微笑む。
「それと、貴女のためのお部屋もきちんと用意する事になるでしょうから、心配しなくていいわ」
と言い残し、ウラヌセウトと共に部屋を去って行った。
(確認するための……部屋も用意……って、やっぱり私の事、気づかれている……?)
残されたティアは、ただ茫然と二人が出ていったドアを見つめていた。




