竜の巣
「はぁはぁ・・・」
俺はエリア6へ逃げ込んでいた
このエリアは記憶上ではあるが、たまにブルファンゴがいる程度で比較的安全なエリアだった気がする
「もう走れねえよ・・・」
数ある岩の中で座り心地が良さそうな岩を選んで座り込む
凄まじい脱力感と手からじわじわ痛みを感じる
そういえば岩壁を無理に登ったせいで手がボロボロだ
己の情けなさと痛みと疲れで俺は頭を抱えてうつ向いていた
「もうイヤだ、もういい、帰りたい」
俺の今の思考はどうやってここから無事に脱出するかしかなかった
大丈夫だ、このエリアにはランポスはこないはずだ、落ち着け。
どうにかランポス以外のモンスターにも接敵せず、ここから抜け出すにはどうすればいいか考える
こんなところでいつまで時間をくってるわけにはいかない・・・いや待てよ
「時間・・・クエスト・・・そうか!!」
そうだよ、クエストには制限時間があるじゃないか
制限時間が過ぎてクエスト失敗になれば自動的に村に帰れるはずだ。
それならここで隠れながら待ってるだけでいい
「あぁ、よかった帰れる・・・」
心の底から安堵に浸かる、必死でここまで頑張って逃げてきたのは正解だった
村に帰ったらどうやって現実に戻るかを考えようと俺は決心した
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それから約1時間くらい経過しただろうか
「なんでだ、絶対1時間以上経ってるはずだ!!」
そう制限時間などという概念がこの世界にはなかったのだ
そして待っている間に空を眺めてわかったこともある
太陽が全く同じ位置から移動していなかったんだ
そもそも俺が村から出てかなり時間が経っているのにずっと昼間である
「ここでは夜とか朝とかはないんだ、ずっと昼間なのか」
タイムアップが望めない
つまりこの地獄から抜け出すにはベースキャンプまで戻る必要が出てくるわけだ
わざとランポスに3回やられてクエストを失敗させるという手もあるにはあるが
この世界では痛みを感じる、肉を引き裂かれる痛みもということだ
「3乙するという手は絶対に使えない、冗談じゃねえ・・・」
乙って実際に死んだらどうする?もう俺はこの世界を夢の中とは思えなくなっていた
あまりにリアリティがありすぎる
ならどうする?ここから逃げるにはどうすればいい・・・
ここから移動できるエリアは2つ
ランポスのいるエリア2とここから岩壁を登り、その先にあるエリア5だ
しかし確かエリア5竜の巣なんだ
リオレウスとかリオレイヤがたまにいて、卵の運搬クエストで行った記憶がある
「エリア2には絶対いきたくねえ・・・それなら」
もうランポスに囲まれるのはイヤだ、次は足が竦んで動けなくなるかもしれない
逆にエリア5に関しては竜の巣ではあるがそこまで飛竜に遭遇する可能性が高いとも言えない
エリア間をあっちこっち飛び回ってイライラさせられてもんだよ・・と思い出し笑いをする
1時間以上休んだおかげなのか少し気持ちが落ち着いていた
「大丈夫、なんとかなるはずだ!ここは夢の中なんだ!!」
自分に暗示をかけるようにゆっくり岩壁を登っていく
こんな高いところを自力で登ったことなんて生涯一度だってないが、生き残りたい一心で登っていく
帰る、絶対に帰るんだ
それだけを考え登り続けた
「はぁはぁ、意外となんとかなるもんだな・・・」
俺はなんとか岩壁を登り切った
横には竜の巣への入り口がある、中は洞窟のようになっているが天井に穴が開いているので中は比較的明るいはずだ
ゲームでの知識ではあるが・・・
「中から生き物の声は聞こえない、大丈夫そうだな」
俺の五感は敏感になっていた、物音ひとつでも振り返ってしまうほどに
なにもいないとわかっていても忍び足で入口へ歩き出す
もう情けないもへったくれもない、どうせ誰も見てないんだし構わない
そうして俺は脱出への第一歩を踏み出したんだ