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8.事件の後

 俺が目を覚ましたのは医務室だった。夜警の人がガス研究室を見回った際、気を失った俺を見つけて医務室に運んだとのことである。

 その発見状況から、今回の件は実験中の事故によるもので、ガス先生は実験中の殉職ということになっていた。俺も色々と状況を聞かれたが、先生の名誉を汚してまで真実を言うつもりはなかったし、そもそも真実を告げるには俺の能力を公開する必要があるため、それはありえなかった。


 俺は妙にすっきりした気分だった。先生の死はもう悲しいとも思わなかったし、自分のせいだとも思わなかった。そう、例えば、扇情的な格好をした女性が痴漢に会ったとしても、悪いのは痴漢の方であり、決して扇情的な格好をした女性の責任ではないのだ。先生の恩には感謝しているが、先生は自業自得で死んだのでしょうがないと割り切っていた。これは闇魔法の効果なのかもしれない。先生を痴漢に例えて考えたことに、俺は薄笑いすら覚えていた。

 ただし、自分の安全のために扇情的な格好を避けることは選択肢として間違えてはいない。要するに、今後は自分の能力を隠すために、より慎重になるよう気を配る必要がある。


 俺は医務室のベッドの中で冷静に今後どうするかを考えた。

 俺のレベルは既に525に達している。この学園の教師ですら、100を超えている者は片手の指の数にも届かない。昨日までは、そろそろこの学園を後にして実戦を積むことを考えていた。しかし、昨日の出来事は、レベル45のガス先生でも、俺を出し抜いて窮地(きゅうち)に追い込むことができるということを示したのだ。まだまだ実戦には早い。


 その時、医務室にリサリアが飛び込んできた。


「ヌトセ、無事なのかな?

 ああ、よかった。事故にあったって聞いて、びっくりしたよ」


「心配かけたわね、リサリア。

 わざわざ来てくれてありがとう」


「あたりまえだよぉ。

 痛かった?怖かった?びっくりした?」


 いつもの機関銃トークだ。


挿絵(By みてみん)


「ねえ、ガス先生はどうなの?」


「亡くなったわ」


「ええっ、そうなの?

 って、ヌトセ、本当に大丈夫?」


 リサリアの驚きは、先生の訃報(ふほう)を聞いたことだけではなく、俺があまりに淡々とそれを言ったことにあったようだ。俺は急いで取り(つくろ)った。


「先生が亡くなって、私、どうにかなってしまったみたい。

 どうしたらいいの」


 などと言いながらも涙は出なかったので、手で顔を(おお)った。


「気をしっかり持ってよ、ヌトセ」


 気を使わせてすまんな、リサリア。

 その後、しばらく沈黙が続いたため、リサリアに申し訳なく感じていた俺はなんとか別の話題を振ってみることにした。


「ところで、リサリアの魔法修行の進展はどんな感じなの?

 以前、魔力を貯めておくのがなかなかできないって言ってたけど」


「うん、今はもうそこは乗り越えていて、順調だよ。

 だいたい中級魔法の習得が終わりかけていて、もうちょっとしたら高等魔法を教えてくれる先生に代わるつもりなんだよ」


「すごいじゃない」


「えへへ。

 なんか、あたしって魔力量がどんどん伸びてる感じなの。あと半年もがんばったら、村に戻って魔物退治できるようになるかもしんないんだ。

 村のみんなのためにも、気合入れないとだね」」


 会話の空気が変わったため、その後は楽しくおしゃべりしてリサリアは帰っていった。


 一人になった俺は、リサリアに中断されていた今後についての考えを再開した。

 とにかくもう人を信用してはだめだ。すべて慎重に行動しなければならない。

 気持ちの持ちようは別として、具体的にこの学園であと何を学べばよいだろう。

 魔法が使えない状況でものをいうのは、体術や剣技だ。

 ここは魔法学園と言う名前だけど、体術や剣技の講座もある。トノサマバッタという名前でも殿様ではないように、神戸電子専門学校だって、電子の授業だけではないのだ。

 体術や剣術も身に着ける必要がありそうだ

 

 そう考えていると、ナシュトがやってきた。


「ヌトセ、大変だったね。

 君を寮の部屋まで連れ帰るようにと連絡を受けたんだけど、大丈夫なのか」


「ナシュト先輩、ご足労ありがとうございます。

 もう一緒に帰れます」


「そうか、歩けるか?」


 ナシュトは俺の手を引いて立ち上がらせ、もし倒れたらすぐに支えられるよう両手を構えながら俺に沿って歩き出した。抱擁(ほうよう)がなかったのは残念だった。

 俺のしっかりした足取りに安心したのか、ナシュトは普通に俺の横を歩きながら、話しかけてきた。


「ガス先生・・・残念だったね」


「はい」


「これから君はどうするんだい?」


「ガス先生が亡くなってすぐの今は、先のことは考えられないのですが。

 そうですね・・、今度は剣術とかも身につけようかと思います」


「君は剣術の経験はあるのかい」


「いいえ、全くの素人です」


「うーん、まずは基礎からみっちりやったほうがいいのかな、それとも、付け焼刃でもお手軽にいろいろな技を覚えた方がいいのかな」


 できればあまり時間をかけたくない俺は、後者がいいと答えた。


「それならハイオグー=ヤイ先生かな。

 彼はテクニックに優れた剣士なんだ。

 おそらく初めてヤイ先生と戦う剣士は、先生には勝てないと言われてるんだよ。

 ただ、手の内を知っているこの学園の他の剣士の先生には、逆にヤイ先生が勝てないということらしいけどね。

 まあそんな感じで、率直な言い方をすれば、小手先の技をあまり細かいことを言わずに教えてくれる先生だね」


 それは都合がよさそうだ。

 ヤイ先生に教えを乞うことにしよう。

  

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