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18.監獄都市イラーネク

 イラーネクへ向かう道中、俺たちは無用な戦いを避けるべく都市を避けて森や砂漠を通っていった。こういった辺境では、低級な魔物に出会うこともあったが、俺たちにとってそんな奴らはなんの障害にもならない。出会い頭になぎはらって、順調に進んでいった。

 途中で一度だけゴブリンの群れにも出くわしたが、リサリアは後方で恐怖の表情で固まっていたものの、もう頭を抱えてしゃがみ込むなどの激しい反応は見せなかった。徐々にトラウマを克服しつつあるようだ。


 ウルタールからイラーネクは距離があるため、順調だったとはいえそれなりに時間がかかった。ただ、その単調な旅を描写すると読者が退屈するので、ここはばっさり省略する。断じて書くのが面倒だったからではないのだ。


 イラーネクが見える丘にたどり着いたとき、ノーデンスがつぶやいた。


「オープニング画面で見たイラーネクとおんなじだ」


 やはりそうか。これは先の展望に期待が持てる。

 俺はノーデンスに確認した。


「ねえノーデンス、前魔王のアザトースが捕らわれている場所の見当がつくかしら」


「うん、そのオープニング画面でさ、イラーネクの全景から地下牢の中のアザトースまで、ずっと連続でカメラが寄っていくシーンがあったんだ」


 うーん、面倒だが聞いとくか。


「カメラ?シーン?」


「あっ、ごめんごめん。要するに、ここからアザトースのいる地下牢までの道筋を視覚的に見られたんだ」


「すると、どこにアザトースが捕らわれているのか分かるのね」


「うん、記憶通りに道を辿(たど)っていけば、たぶんわかると思う」


 町に侵入するために、クラネス以外の3人はフードで顔を隠して亜人一行のふりをし、クラネスを先頭にして、町の入口に近づいていった。門番は一人だけであり、武装も槍を持っているだけである。魔界のこんな奥に帝国側の俺たちが来ているとは思っていないようで、全然警戒はしていないようだ。ここまでの道程で、戦闘を行わずにこっそり来てよかった。

 結局、クラネスが門番に何か聞かれ、それに少し答えただけで、あっさりと通してくれた。


挿絵(By みてみん)


「何て聞かれたのかな、クラネス」


 リサリアの問いに、クラネスが答えた。


「うん、目的を聞かれたんやけど、食料の買い出しって答えただけでしまいや」


「クラネスがいてくれてよかったわ」


 俺の言葉にクラネスはうれしそうだった。


 この町においては、町の大通りの突き当りに監獄の正門があり、その奥が大きな監獄となっている。大通りに沿って商店やら飲み屋街が広がり、結構にぎわっている。監獄といえど大規模な国の施設があるので、それに関連する商売を中心として発達した、いわば監獄城下町になっているわけである。

 我々4人は監獄の正門近くの飲み屋の屋外テーブルに陣取り、お茶を飲みながら門を見張っていた。おそらく、監獄への食料や衣類などを運んでいると思われる荷馬車が、時々門を出入りしていた。よく観察していると、監獄に向かう馬車は、御者席の横に小さな赤い旗を立てていることが分かった。また、馬車が門を入るときは御者が懐から出した何かを見せるとそのまま入れているが、出るときには荷台を入念にチェックしていた。まあ、脱獄対策として当然のことである。


「これは、馬車の荷台に(まぎ)れ込めば簡単に入れそうね」


 俺の言葉にみんな(うなず)いた。

 我々はさっそく行動に移り、一旦監獄から離れた人気(ひとけ)の少ない場所まで戻り、赤い旗を立てた馬車を待った。

 それほど時間が経たないうちに、一匹の魔物が御者をしている赤い旗をつけた馬車が来たため、クラネスがふらふらと馬車の前に出て行った。あわてて、馬車を止めた御者は、クラネスになにかわめきちらしていたが、その隙にノーデンスが荷車の後ろから忍び込み、御者を羽交い絞めにして荷車に引きずり込んだ。縛り上げた御者の懐を調べると、なにやら書類が出てきたので、リサリアが確認すると、荷物の明細と入構許可証であるとのことだった。それを懐に入れたクラネスは御者となり、残りのメンバーは荷物の陰に紛れ込んだ。


 門を通過するときはさすがに少し緊張したが、馬車は何事もなくスムーズに通過できた。

 門から死角になるところまで少し進んだ後、クラネスは馬車を止めた。ここで馬車を降りて、アザトースを探しに向かうわけだが、このまま馬車を放置した場合、必ず不審に思った誰かが馬車を調べ、我々の侵入が発覚する。騒ぎにならないようにするため、クラネスが俺に指示された通りに、縛られている魔物に伝えた。 (以下、魔界語)


『今からあんたを開放するけど、その後は本来の仕事に戻るんや。

 もし騒いだら、あんたはうちらをここに連れて入ったことで罪を問われるんやで。

 そんでもし、うちらが捕まったら、あんたも仲間やって言い張るで。

 黙っとったら、あんたが連れて入ったことは、誰にも分からへんのやからな』


 気の弱そうな魔物はこくこくとうなずいていた。

 これで当面は秘密裏に行動できるだろう。


 御者との別れ際、申し訳なく思ったのか、ノーデンスが御者に声をかけていた。


「悪かったな、じゃあな」


 くそっ、ばかノーデンス。

 帝国語ではどうせ相手に意味は通じないし、侵入者が帝国の人間だということがバレるではないか。

 よほど文句を言おうかとも思ったが、大事な作戦行動中であり、ノーデンスのやる気をそいでもいけないことから、俺はぐっと我慢した。

 こちらの気持ちなどとは無関係に、ノーデンスは上機嫌で進んでいった。


「うまくいったな。よし、こっちだ」


 いや、お前のせいでうまくいかなかったらどうするんだ。

 まあとにかく、馬車は何事もなかったように進みだしたので、御者は黙り込む選択をしたようだ。やれやれ。

 ノーデンスは我々を地下に通じる道に案内していった。不思議なことに、途中、見張りに合わなかった。

 いくらなんでも、全然見張りがいないのは変である。ここの責任者がよほど間抜けなのか、それとも、この先に強力な看守がいて目を光らせているのか。

 しばらく階段を降りていくと、両側に柱が並んでいる広い通路になっていた。まるでダンジョンみたいだ。


「もうすぐだ」


 明るい声を上げるノーデンスと対照的に、おれは両側の柱の陰を注意深く見ていった。すると、あちこちに彫像があるのに気付いた。これは・・アレだ。


「みんな気を付けて、石にされた人がころがっているわよ」


 俺はそう言いながら、急いでカバンからある私物を取り出した。

 その時、後ろから頭の中に響く声がした。


『こっちを見ろ』


 おっ、来たな。

 俺は目を閉じ、先程取り出した手鏡を後ろに向けた。

 しばらく目を閉じてじっとしていたが、なにも起こらない。

 10秒ほどして、おそるおそる後ろを振り向くと、石になった魔物がいた。

 メドッサだ。こいつの姿を見ると石になってしまう。こいつはおれの手鏡に映る自分の姿を見て、石になってしまったようだ。はっはっは、俺はギリシア神話を読んでいたので、対策を知っていたのだ。


「みんな大丈夫?」


 と聞きながら見回すと、リサリアはまだ目を閉じて手で顔を(おお)ったままだったが、ノーデンスとクラネスは・・・・石になっていた。

 いや、クラネスはともかく、ノーデンスよ、お前はまた振り向いたのか。素直な奴め・・・。

 あきれながらも、俺は聖水を取り出し、ノーデンスとクラネスにかけた。


「ぷはー、ボクってまた石になってた?」


 目を覚ますなりノーデンスは、悪びれもせず平然と声をあげた。

 まあ、こいつはこういう奴なので、許すしかない。


「いやぁ、うちもびっくりしてしもたわ」


 クラネス、君は何も知らなかったので、しょうがない。誰かとは違ってな。


「ようし、この先を下ったら、そこにアザトースが捕らわれているぞ」


 切り替えの早いノーデンスは元気に我々を先導し、ずんずん進みだした。

 そして、我々は地下牢の最下層に来た。


 そこは、階段の突き当りが狭い独房になっており、鉄格子の向こうに、一人の幼女がいた。

 うん、幼女なら間違いない。こいつが魔王アザトースだ。


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