17.戦略の変更
占拠したウルタール駐屯地では、夜を徹した宴会になっていた。もちろん勝利の祝いの意味もあるのだが、主には死んだ仲間たちの弔いである。冒険者仲間にはしみじみとした葬儀などは似合わず、逝った仲間の生前の失敗談などを酒の肴にして笑い飛ばすことにより、悲しみを忘れるのだ。
ヌトセが知っていたメンバーも多く亡くなったことから、北狼の牙の宴会葬儀に引っ張り込まれていた。元々あまり酒には強くないヌトセだったが、勝利の立役者でもあったことから、次々に酒をつがれ、こっそり闇魔法で体内のアルコールを分解しつづける羽目になった。
ヌトセは祭り上げられて上座に座らせたため、結局ジルドネス隊長と酒を酌み交わすことになった。
「おお、シャンタ・・いや、ヌトセ、お前酒が強くなったなあ」
「いえ、まあ、いろいろありまして」
「そうかそうか、まあ飲め、お前は勝利の女神なんだからな」
いや、女神さまは他にいますけど・・。
「しかしまた大活躍だったじゃないか」
「いえいえ、北狼の牙の猛攻がすごかったのですよ」
「何言ってんだ、お前がいなかったら、俺らは全滅してたぞ。
なあ・・・、本当に戻ってきてはくれんかね」
うーん、酔っぱらいは、しつこい。
「それはお断りしたはずです」
「そうだよなぁ、なんで俺はお前を追放したんかなぁ、すまんなあ」
「はいはい」
「仲間がたくさん死んじまうし、お前もいなくなるし、帝国も危ないし、この先どうなっちまうのかなぁ」
俺は隊長のこの言葉を聞きとがめて尋ねた。
「えっ、帝国が危ないってどういうことですか?」
隊長は真顔になって答えた。
「昼間、言ったろぅ。シアエガのことを」
「聖女シアエガの本性がどうこうとかいうお話しのことですか?」
「ああ、あの女が皇后になった途端贅沢三昧になり、国庫を圧迫するまでになったんだ。
それで皇帝は税金を何度も上げて、国民は爆発寸前なんだよ」
「そんなに深刻な状態なのですか」
「ああ、国民は充分に食べることもできないありさまなのに、皇帝はシアエガを諫めもせずに税を上げるだけときやがる。この出兵も、勇者ノーデンスのおかげで何とか実現したが、兵の装備は貧弱だし、我々への賞金も雀の涙さ。
それでも、俺たち北狼の牙は民のためにここまで来たが、冒険者の多くは賞金の少なさから遠征を見送る始末さ。こんなんで魔王討伐なんでできんのかねぇ」
酒が回り切ったのか、愚痴を言うだけ言って、ジルドネスはうとうとし始めた。
おれは、用ができたと告げて宴会を抜け出し、仲間のところに戻った。
「おかえり、大変だったでしよ」
リサリアが笑いながら迎えてくれた。
「やっと、抜けられたわ。
それより気になることができたの。
ノーデンス、ちょっといいかしら」
「えっ、なに?」
北狼の牙にもらった肉にかぶりつき、口をもごもごさせながらノーデンスが振り返った。
「あなたが以前話してくれた、乙ゲー・・・とかいうものについて教えて欲しいんだけど」
「なんだ、そんなことか。
べつにいいよ」
「聖女シアエガが皇后になったところまで聞いたんだけど、その先を教えてくれないかしら」
「ああ、でもつまんないよ。
シアエガが皇后になってすぐ、すっごいきれいな首飾りを持ってきた女商人がいたんだ。そのグラフィックがきれいでさ、」
「ぐらひっく?」
首をかしげるクラネスを無視して、ノーデンスは続けた。
「ボクはつい【購入する】を選択したんだ」
「?」
クラネスはよくわからないといった顔をして聴いていた。
「でさ、その後も次々いろいろなものを持ってきてさ、全部きれいだから買っていったら、国民が革命を起こしてさ。
後はマリーアントワネットとおなじ結末のバッドエンドさ」
なるほど、と納得する俺の横でクラネスが不平をこぼした。
「なあなあ、マリーアントンネンってなんなんや。
さっきからよーわからん言葉ばっかりや」
クラネスの言葉で俺はハッとした。
しまった、グラフィックやアントワネットを知ってるのは、ノーデンスと同じ世界から来たと白状するようなものである。うかつだった俺は冷や汗をかきながらノーデンスの様子を伺った。
「ごめんごめん、要はシアエガと皇帝は、市民に首チョンパされたってことだよ」
よかった、ノーデンスは俺がそれらの言葉を知っててスルーしたことには気づいていないようだ。
こいつがニブくて本当によかった。これからは気をつけよう。
それより、もっと重要な本題に戻ろう。
「ありがとう、ノーデンス。
実はさっき隊長さんから帝都の状況を聞いてきたんだけど、今の話の革命一歩手前みたいなのよ。
つまり、その乙ゲーっていうのの内容が、この世界の話と一致しているのよ」
「ふーん、変な話だな」
「もしそうなら、もうすぐ帝国が崩壊するってことになるわ」
「まさかそんな」
「いいえ、偶然と言うには、今までのところがあまりに一致しているわ。
それで、もし本当に帝国が崩壊すると、魔王国への遠征はたぶん中止となるわ。
そりゃあ私たちはこのまま進むけど、他の部隊は引き上げるから、孤立無援になるのは間違いないわ」
「そっか、それはちょっときびしいな」
ノーデンスはやっと状況を理解したようだ。
俺はもっと情報がないか尋ねた。
「ねえ、その乙ゲーっていう話のなかで、何か魔王国についての説明とかはなかったの?」
「そうだな、そういえばオープニング画面で、世界観の説明があったな」
おっと、まどろっこしいが、ここはスルーせずに
「オープニング画面って何?」
と、フォローした。うん、気づいてよかったぜ。
「うん、物語の内容を分かりやすくするために、物語が始まる前に、物語の中の世界について解説があるんだよ」
これに続いて、ノーデンスは思い出しながら魔界の設定を説明してくれた。
先代の魔王アザトースは心根がとても優しく、魔物にも人間にも優しかった。ただ、魔物の本性は気が荒い者が多く、特に知能の低い魔物は歯止めが利かずに人間を襲うことがよくあった。これに心を痛めた魔王は、魔界と帝国の間を切り離し、両者が行き来できないようにして平和を作り上げた。しかし、後に魔王の副官だったナイアーラトテップは、魔王アザトースを騙してイラ・・なんとか牢獄に幽閉し、部下たちにはアザトースは病死したと偽って、自ら魔王を称するようになった。ナイアーラトテップは極めて欲深く、帝国をも支配下に置くために、帝国への通路を堀りあげ、現在は帝国の攪乱を謀っている、ということらしい。
うん、これはすばらしい情報だ。
「もし、これも現実と同じなら、私たちの道も拓けるわね」
俺のこの言葉をノーデンスは理解できていないようだ。
「えっ、いったいどういうこと?」
「私たちは、魔王軍を全滅させる必要はなく、魔王ナイアーラトテップだけを倒せばいいのよ」
「そりゃそうだけど・・、よくわかんないなぁ」
「つまり、私たちが先代魔王のアザトースを救出して仲間にすることができれば、多くの魔物はこちらにつく可能性が高いの。それができれば、魔族の力を借りてナイアーラトテップを倒すことができるわ」
「えっ、魔物を仲間にするって?
うーん、たしかにそうなんだけど」
「魔物もナイアーラトテップに騙されているんだから、先代魔王のが生きていると知れば、先代魔王につく魔物もきっと多いと思うわよ」
「そっか、んー、あっ、そういえば女神も、今の魔王を倒せと言ってたぞ」
「それが女神さまの依頼なのでしょ」
「うん、だけどこの話って本当に現実もそうなっているのかなぁ」
そこに、リサリアが割り込んできた。
「ねえねえ、今の話のイラなんとか牢獄なんだけど、今、地図を見たら、ここに監獄都市イラーネクっていうのがあるよぉ」
リサリアが指さすそこは、ここウルタールと魔王城の間にあった。
「・・・これは賭けてみる価値があるんじゃないかしら」
俺の提案に、ノーデンスは即反応した。
「よし、面白いからやってみよう」
この作戦をとるなら、先代魔王を救出するまでは魔物と戦闘する意味はない。俺たちは隠密的にイラーネクを目指すことにし、ウルタールを発った。




