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15.レン高原

 土地勘のないところで夜間にうろうろするのは危険極まりない。このため、安全が確保できそうなところで野営することにした。森の中で安全に野営できそうな窪地をリサリアが目ざとく見つけてくれた。さすがは森の民である。

 小さな携帯用テントに3人が入り込み、かなり窮屈な状態ではあったが、これなら気温が下がる森の中でも暖かい。しかもこれは、ハーレム・・・なのか?

 テントに入ってパジャマパーティーなどではなく、さっき手に入れた地図を広げた。詳細な地図であり、いろいろと記号や書き込みも入っている。記号には凡例もついているが、どれも魔界語で書かれているため、読めない。


「うわっ、魔界語で書かれてたら読めないじゃん」

 

 不満を漏らすノーデンスにリサリアが言った。


「あっ、あたし魔界語なら読めるよ」


「えっ、そうなのか?」


「うん、魔物退治に役立つかと思って、学園にいた頃に勉強したんだよ」


 えらいぞ、リサリア。


「この、黒い三角記号は駐屯地で、白い三角が集積基地って書いてあるよ」


「結構、たくさんの拠点が魔王城との間にあるようだな」


 渋い顔をしながらノーデンスが地図をにらんでいたので、こいつの考えを聞いてみた。


「魔王城はこんなに奥にありますけど、これからどう進めていきますか、ノーデンス」


「そうだな、各拠点を迂回して、一気に魔王城に乗り込もうかな」


 やっぱりこいつは脳筋だ、何も考えていない。


「それだと、後方の無傷な拠点からの兵で挟撃(きょうげき)されますよ」


「あっそうか、じゃあ、敵の基地を1つずつ(たた)いていくしかないかな」


「基本は各個撃破ですからそれでいいのですが、全部順番につぶしていくとなると、かなり大変です。

 それに順番にやっていったら、敵に次の攻撃対象を知られるので、奥から援軍が来て各個撃破できなくなります」


「うん、なるほど」


「ですから、各拠点の配置や規模を考慮して、飛ばせるところは飛ばしていった方がいいです。

 どれを選ぶのか、作戦を充分に練る必要がありますね」


「よし、そうしよう」


 お前はなんでもいいのか、と頭の中で突っ込んでいると、リサリアが地図の中のある三角印を指さして言った。


「ねえ、ここって、こっから一番近い拠点だけど、逃げた敵はみんなここに帰っていくのかな。

 ここって、たぶん2日ぐらいの距離の、レン高原ってとこにあるみたいだけど」


「おそらくそうね。

 あっそうだわ、たぶんこれが前線基地だから、今はかなり手薄になっているはずね。

 つまり、敵の敗残兵が帰りつくまでであれば、落とすのは比較的簡単かもしれないわ。

 それで、帰ってきた敵をその制圧した基地から迎え撃つと、ずいぶん楽かも」


「そりゃいいや、それでいこう」


 ノーデンスはやる気満々である。

 この基地を落とすのに手間取ると、逃げてきた敵に背後をとられるのだが、そんなことはノーデンスは考えもしないのだろう。まあいいや。

 とにかく、翌日のうちに敵を追い越して、さっさと基地を制圧する必要がある。かなりハードな一日になることが考えられるため、俺たちはさっさと寝ることにした。



 翌日、俺たちは何度か風魔法を使って近道をし、敗残兵が帰りつくよりもずいぶん前に前線基地にたどり着いた。基地は思ったより小規模なものであり、守備も手薄であったため、比較的簡単に制圧できた。とはいいながらも、最後はどうしても白兵戦となってしまったが、ここはノーデンスがとても活躍してくれた。うん、ハサミは使いようである。


 ほぼ無傷で手に入れた基地の見張り台で、敗残兵が南から来るのを待ち構えた。ここはレン高原と言うだけあって見晴らしがきく。だが、予想時間になっても誰も近寄ってこなかった。


「来ないね」


「うん、来ないね」


 などとぼやいていると、ノーデンスが別の方向を指さした。


「あっ、あそこ。煙が上がってる」


 見ると、東の方向から大規模な煙が上がりつつあった。

 リサリアが急いで地図と見比べて言った。


「距離と方向からして、このカダス村ってとこみたいだよ。

 亜人の村って書いてあるね」


「ヌトセ、どうする?」


 なんだかすっかりノーデンスに頼られるようになってしまったみたいだ。


 それはさておき、俺たちはどうするべきなのだろう。

 魔界のことはよく分かっていないが、亜人はどちらの世界にも住んでいると聞いたことがある。亜人は魔物ではないので、普通の住民として暮らしているのだろう。

 待てよ、魔物達は食料などをほったらかして逃げていった。それに、この基地にもあまり食料は残っていない。となると、敗残兵が食料を求めて村を襲うことは充分に考えられる。しまった、なぜもっと早く気づけなかったのだろう。

 魔界の村の住人と言えど、一般庶民を見殺しにするのは目覚めが悪い。俺は決断した。


「救出に行きましょう」


「えっ、救出ってなんのことだい」


 意味を理解していないノーデンスに俺は説明した。


「あの煙は、おそらく敗残兵が食料を求めて村を襲っているものだと思うわ。

 村の人たちを助けてあげないと」


「なんだって!それは急がなきゃ」


 我々はとりあえず城門を破壊して基地を放棄し、煙の方向に急行した。

 村の近くまできたとき、敗残兵の集団と出くわした。にやにやと笑いながら、血まみれになった荷物を担いでいた。村を襲撃したのは明らかだった。

 怒りにかられた俺は、つい全力のファイヤーボールで奴らを()ぎ払ってしまった。ノーデンスも次々に奴らに切りかかり、リサリアですら怖い顔をして水魔法をぶっぱなし続けていた。

 ことごとく奴らを打ち払った俺たちは、村まで行ってみた。家々は全て燃え盛っており、至る所に亜人たちの死体がころがっていた。ノーデンスは立ち尽くし、リサリアは顔をおさえてしゃがみこんだ。


「遅かった・・。もっと早く気づいていたら・・」


 俺は脱力感で一杯になっていた。

 その時、1つの死体が少し動いたように見えた。まだ生きている者がいる。

 俺は一人の亜人に駆け寄り、白魔法で回復を試みた。

 まだ中学生ぐらいの年齢に見える、狐の亜人だった。

 ススで顔も真っ黒だったが、女の子のようだった。

 その子はうっすらと目を開け、俺を見た途端、体を縮めて小声でなにかしゃべりだした。魔界語だ。

 駆け寄ってきたリサリアが教えてくれた。


「たぶん、殺さないで、って言ってるみたいだよ」


 このリサリアの言葉に、亜人の少女も驚いているようだった。


「帝国語・・あんたら、魔物とは違うん?」


 少女は(なまり)りはあるものの、帝国語で話しだした。

 よくわからないが、言葉が通じるなら話が早い。

 

「大丈夫よ、私たちは魔物じゃないわ、助けに来たのよ」


 少女は安心したのか急に震えだし、しゃがみこんで泣き出した。


「ぁ、あああ・・・村が焼けてしもた。

 村のみんなも、みんな魔物に殺されてしもた・・、うち、独りぼっちになってしもぉた」


 大声で泣く少女にノーデンスももらい泣きしていた。


挿絵(By みてみん)


 しばらくして、少し落ち着いた少女にいろいろと話を聞いてみた。

 少女の名はクラネスといい、急に魔物たちが村を襲い、それぞれの家から食料や財産を略奪していったとのことである。

 俺は疑問に思ったことを聞いてみた


「クラネスはどうして帝国の言葉をしゃべれるの?」


「うん、うちの村はもともと帝国からの移民らしいんよ。

 そやから、村ん中では普通帝国語でしゃべってるんや。

 魔界でおるんやから、外では魔界語も使えるんやけど」


「そうなの、分かったわ。

 それで、クラネスはこれからどうしよっか。

 なかなか急にそんなこと決められないかもしれないけど」


「んー、うちはもう、どっこも行くとこないんです。

 あんたがたは、どないしはるんですか?」


「詳しくは言えないけど、魔物たちとたくさん戦うことになるから、あなたを連れて行くことは・・」


「いや、連れてってください。

 うちも魔物たちと戦いたい。うち、弓は得意なんよ。

 みんなの(かたき)をとらせてください」


 これは困った。俺たちは魔王討伐に向かうのだ。こんな子供を連れて行くのは危険すぎる。

 しかし、一旦この子を帝国まで連れて帰るのは大きな時間ロスとなる。

 俺が困っていると、リサリアが言った。


「連れていってもいいんじゃないかな。

 この子をこんなところに放置できないよ。

 それにあたし、魔界語の読み書きはできるけど、会話はあまりできないから、クラネスがいるととても助かるよ」


 確かにそうだ。さらに、魔界内での自然や常識なども知っている人材はとても有用だ。

 そこで俺は、クラネスのステータスを確認した。


  氏名: クラネス

  総合レベル: 21

  魔力量: 0/0 → 220

  体力値: 3/55 → 180

  弓技能 5/160 → 325

  ・・・・


 今は疲労のため、体力も弓技能も落ちているが、万全の状態なら弓技能が160とかなり高い。それにまだまだ伸びる余地もある。これなら連れて行っても大丈夫かもしれないので、俺も同意することにした。


「そうね、分かったわ。

 ノーデンスもそれでいいかしら」


「もちろんさ、仲間が増えるのは大賛成だ」


 また女の仲間か、と思うかもしれないが、察してほしい。筆者は男のイラストなんて、できるだけ描きたくないのである。

とにかく、こうしてクラネスが仲間になった。


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