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14.魔界へ

 ノーデンスの動きは早かった。だだの能天気嬢ちゃんではなかったようだ。

 さっそくお城に行って、少なくない数の兵を連れて戻ってきた。


「いやー、今は予算がないと皇帝にしぶられたんだけどさー、魔物の徘徊を許すと帝国が滅びると脅してさー、なんとか兵を出してもらったよ」


 なかなか威張ったじゃないか。

 一方、ノーデンスが帝都まで行っている間、我々も遊んでいたわけではない。

 リサリアを洞窟出口の見張りに置いて、俺は森中を探索しながら魔物退治していった。リサリアと一緒でなければ俺の本気を隠す必要もなく、効率的に魔物を狩り、ノーデンスが戻るころには、森にいた魔物を一掃してしまった。リサリアも洞窟から出てきた魔物を一体ずつ退治していたため、これで森に魔物は残っていないはずである。


 洞窟の監視を兵隊に引き継いだリサリアは、村に戻って、大喜びで村長に報告していた。


「村長さん、森に魔物はもういないよ。

 みんな安心して森に入っていけるんだよ。

 ヌトセ、ノーデンス、本当にありがとう」


 喜びに沸く村人たちを横に、俺はノーデンスに尋ねた。


「それで。これからどうするの?

 やっぱり魔王討伐に向かうのかしら」


「もちろんだよ。

 それがボクに課せられた使命だからね」


「連れてきた兵隊さんの数が、警備だけにしては多いんだけど、一緒に魔界に連れて行くってことよね」


「一緒に魔界に行くというのは、そうなんだけど、魔界では別行動をするつもりさ」


「えっ、どうしてですか?

 個別に分散するのは不利になるのに」


「それは分かってるんだけど、以前森の魔物退治をしてた時にさ、指揮官はだいたい貴族様だろ、ちっともこちらの指示に従いやしないんだよ。それで勝手な攻撃をして、作戦も狂うし・・。

 それと、皇帝は魔界で魔物を退治した数に応じて賞金を出すことにしたんだ。こうすると、民間の冒険者パーティーもたくさん参加するだろ。軍の人数を増やさないためなんだろうけど」


「そうなんですか」


「でもそんな連中は統率できっこないんだ。

 だから、ボクは少人数で行動したいのさ」


「そういうことね」


「ああ、連中にはどっか別のところで賞金争いして、魔物の数を少しでも減らしてくれればいいのさ」


「んー・・、まあ正しい判断かもしれないわね」


「それでね、ヌトセ。

 君はボクと一緒に来てもらえないだろうか」


 やっぱりそうきたか。

 ノーデンスは目に星をたくさん浮かべながら続けた。


「君は森の魔物たちを一人で退治して回ったんだって?すごいよ。

 それに君には物事がよく見えてるみたいだ。

 ボクって猪突猛進型だからさぁ、サポートしてくれる人が必要なんだよ」


 なんだ、自分のことをちゃんとわかっているじゃないか。

 まあ俺も女神さまから依頼されている身だからな。


「そういうことでしたら、お手伝いさせてください」


 俺たちのやりとりを聞いていたリサリアが横から割り込んできた。


「あたしも協力するよ。

 村を本当に安全にするためには、元を絶たないとだめだもんね」


 ゴブリンに対峙(たいじ)したときのリサリアの姿が思い浮かび、俺はちょっと心配になった。


「リサリア、あなた本当に大丈夫?

 無理しなくてもいいのよ」


「うん、ありがとう。

 でも村のために、あたし、がんばんないと。

 もう、ゴブリンごとき怖がらない・・・うん、なんとかなるよ」


 リサリアは俺の心配をちゃんと理解しているようだ。多少不安も残るが、本人の頑張りに期待しよう。


 こうして新たな勇者パーティーが結成した。立場上は、賞金狙いの民間冒険者になるが、まあそんなことはどうでもいい。自由な立場で、制約を受けずに行動できるなら、それが一番だ。


挿絵(By みてみん)


 それはいいのであるが、俺は本質的な不安も感じていた。

 相手は魔王だけではなく、魔王軍もいるのだ。要するに、一国の軍隊に1つのパーティーだけで立ち向かうことになるのだ。ゲームや異世界アニメではよくある話なのだが、実際のところ、それは極めて非現実的なのである。魔王との直接対決はよく描かれるが、本来はその前段階で一国の軍隊を突破する必要があるのだ。魔王軍がどのぐらいの規模なのかはまだ分からないが、この駐屯地だけでも100人以上いた。ならば本国では少なくとも数千から数万の兵がいると考えるべきだろう。いくらこちらに実力があっても、三人で万単位の敵と戦うのは無茶が過ぎる。とにかく、当面は情報を得ながら、作戦を模索する必要がある。


 何も考えずに気合を入れて、すぐにでも出発しようと主張するノーデンスを俺はたしなめた。


「ちょっと落ち着いてよ、魔界に行くならその前に、少なくとも準備を整える必要があるわ」


「そんなのボクのこの腕があれば大丈夫だよ」


 やっぱりこいつは考えなしのお調子者だ。


「なにを言ってるのよ。

 戦いをするにはもっと大切なものがあるわ」


「情報とか」


 横からリサリアが答えた。


「ええ、情報もとても大切だけど、もっと大切なのは兵站(へいたん)、つまり補給よ」


「補給?」


 リサリアとノーデンスの声がハモった。


「そうよ。

 魔王城にたどり着くまで、どのぐらいかかるかわからないのよ。

 それまでに食糧が足りなくなると先に行けないわ。

 私たちが魔界の食料を食べられるかどうか分からないもの」


「それなら大丈夫さ」


 ノーデンスが自信ありそうに答えた。


「だって、ボクはアイテムボックスをもってるんだ」


 でた、異世界定番のアイテムボックス。

 俺は知っているが、リサリアたちは知らない。


「アイテムボックスってなにかな」


 リサリアが聞くと、ノーデンスはポケットからそれを出してうれしそうに説明を始めた。


「この小さいのが魔法道具のアイテムボックスさ。

 なりは小さいけど、いくらでも物が入って、軽いまま持ち歩けるんだ。

 ボクたち三人の食料の2か月分や3カ月分は余裕で入るし、中の時間は止まっているから、腐ることもないのさ」


「わぁー、すっごーい」


 リサリアの称賛に、ノーデンスは得意げだった。


「それって、例の女神さまにもらったのですか」


 俺の疑問をノーデンスは否定した。


「いや、前の皇帝にもらったのさ。

 ボクが魔物退治に行くって言った時、宮殿の宝物庫から出してきてくれたんだ

 でも、この前は食料を充分入れずに旅に出たから苦労したよ、ははは」


 なんという宝の持ち腐れ。しかも、今回も俺が指摘しなければ、食料を充分に入れずに出発していたんじゃないのか、こいつは。

 まあとにかく、食料はなんとかなりそうだ。



 我々は数日かけて食料を初めとした装備を整え、例の洞窟に向かった。


 洞窟の前に来ると、なんだか騒がしかった。

 多くの兵が傷つき、疲労してへたり込んでいた。

 話を聞くと、どうやら先陣争いして魔界に突入していった兵たちが、待ち伏せしていた魔物たちに返り討ちに合い、退却してきたらしい。

 こちらの世界の魔物と連絡が取れなくなった時点で、魔界側は警戒し、洞窟の魔界出口付近の守りを固めるのは当然のことである。そんなことも配慮せずに、兵たちは魔界に突入していったのだ。たしかにこんな兵と行動を共にしないというのは正しい判断であった。

 とりあえず隊長に会い、魔界側の状況を確認した。


「あいつら、大勢で待ち伏せしてやがった。

 俺たちが洞窟から魔界側の森に向かって、一個小隊が全部洞窟から出た時点で、一斉に攻撃してきやがった。

 あわてて、退却してきたんで、深追いはされずに済んだ。そんでも半数近くやられちまった」


 向こうの指揮官はかなり優秀みたいだ。

 くやしそうに話す隊長に、俺は向こうの地形について詳しく尋ねた。

 洞窟の出口の向こうはすぐに森になっているようだ。森には魔物の守備隊が出口を中心とした半円形の包囲網を取っている。出口からその包囲網までの距離や包囲網の厚さなども教えてくれた。先陣の隊長は、斥候の訓練も受けているようで、戦場の把握はきちんとできていた。


 俺たち三人はその情報を元に作戦を立て、夜まで待って洞窟を進んでいった。一部の城の兵士たちも復讐戦をしたいとついてきていたため、指示に従うよう確約させて、一緒に行動した。

 一行は魔界側の出口まで行って身を伏せ、まずは様子をうかがうことにした。


「探知!」


 魔物探索の結果、先陣の隊長は正しく観察していたことが分かった。

 魔物は洞窟から500mぐらい離れたところに包囲陣を作り、5重の厚さを持っていた。右翼700mのところには、不自然に盛り上がった山がある。おそらくこの洞窟を掘った時の残土の山だろう。その背後は分からないが、かなりの魔物が行き来しているようである。おそらく司令部がそこにあるのだろう。俺が奴らでもそこに司令部を置くだろう。一方、包囲網の後ろの左翼には魔物はまばらである。


 これを確認した俺は作戦を修正し、全員に伝えた。そして皆は互いに(うなず)いた。作戦開始である。

 洞窟の出口にノーデンスが立ちはだかり、魔物たちに向かって大声を上げた。


「はっはっは、君たちの運命はもう終わりだ。

 なぜって?

 ワタシが来た」


 魔物たちの注目が一斉にノーデンスに向いた時、俺は呪文を唱えた。


「サンダーブレーク」


 ノーデンスがしゃがみ込み、仲間が目をと耳を(ふさぐ)ぐと同時に、出口近くに雷がさく裂した。

 夜の暗闇の中の閃光である、魔物たちは目を押さえて口々に悲鳴を上げた。

 すかさず俺たち三人は洞窟を飛び出し、俺は風魔法を唱えた。


「セルフトルネード」


 生じた竜巻は三人を乗せ、左翼の1kmほど離れた森の奥へと着地した。

 すぐさま振り返り、俺とリサリアは包囲網の後ろから魔法攻撃を繰り出した。

 いきなり後方から攻撃を受けた魔物たちは混乱して、(あわ)てて俺たちを攻撃しようとしたが、その時、洞窟からも攻撃がはじまった。そう、洞窟に潜ませていた城の兵隊が復讐にかられた攻撃を始めたのだ。

 一旦魔物の群れの中に孤立する形となった俺たちだが、敵は混乱しており、俺たちに向かう魔物はわずかである。そしてそいつらも、俺とリサリアを守るノーデンスの剣戟(けんげき)の前にあっさりと倒れていった。ノーデンスの剣の腕を初めて見たが、さすがは女神さまに最大の能力をもらっただけのことはあり、舌を巻く働きだった。

 挟撃(きょうげき)された魔物たちは大混乱になっていた。包囲網のあちこちが破れ、兵隊たちは魔界になだれ込むことに成功した。包囲網が突破できたことを確認した俺たちは攻撃を中止し、今度は魔王軍の右翼の奥にまわりこんだ。

 司令部があると目星をつけていた残土の山かげに森の奥からこっそりと近づくと、そこは補給部隊であり、補給物資の近くに魔物はいなかった。包囲陣がやぶられると、慌てて逃げ出したようだ。もしかすると、補給を管理しているのは非戦闘員だったのかもしれない。補給物資を少し調べてみたが、食料がほとんどだった。肉もあったが、何の肉か分からないので、鹵獲(ろかく)するのはやめておいた。まだ手持ちの食料は充分にあることだし。

 補給部隊の少し向こうに、旗の上がっているテントがあった。おそらく司令部だ、大混乱のようで、ちょっと偉そうな格好をした魔物が頻繁(ひんぱん)に出入りしている。俺は氷魔法を使って、無数の氷の槍をテントに向けて放った。近くにいた魔物たちにはノーデンスが切りかかり、ことごとく倒していった。残った魔物は皆あわてて逃げて行った。

 こっそりテントに近づいて見ると、中で司令官らしい魔物が氷の槍を受けて死んでいた。テントに入る前に、ノーデンスには外に残って周囲を警戒するよう依頼し、矢が飛んで来たら剣で叩き落すよう指示した。俺はリサリアを連れてテントに入り、テントの中をあさった。

 しばらく二人であちらこちらをひっくり返し、ついに見つけた。今日の戦いの第一目標だった魔界の地図だ。これがないとどこに行って良いのかすら分からないのだ。それは軍事用の詳細な地図の(たば)で、行軍経路や山や川などの障害物も細かく描かれている。これは大収穫だ。

 あまり時間をかけるわけにもいかないので、他はそのまま放置してその場を去ることにした。おそらの城の兵隊もすぐにここを見つけ、その他の資料は持ち帰って分析してくれるだろう。あとはそいつらに任せればいい。


 我々3人は、足早に森の奥へと消えて行った。


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