13.勇者ノーデンス
ノーデンスは僕の前任の転生者だったのだ。
俺はノーデンスのステータスを見てみた。
氏名: ノーデンス
総合レベル: 462
魔力量: 0/0 → 0
体力値: 620/645 → 1200
剣技能: MAX
・・・・
うん、確かに剣技能がMAXになっている。こいつが転生者なのは間違いないだろう。
顔をよく見ると、少し童顔だが、可愛い顔をしている。なかなか僕好みだ。
いやまて、ボクなんて言っているから、転生前は男だったのかもしれない。俺という実例があるのだ。
この姿で中身が男だったら、かなり気持ち悪いぞ。などと、自分を棚に上げて考えていた。
動揺している俺に構わず、ノーデンスは話を続けた。
「転生する前はボクは女子高生だったんだ」
中の人は女だったか、と、なぜかホッとする俺をよそに、イスタシャが質問した。
「ジョシコーセイってなあに?」
ノーデンスは笑いながら答えた
「君のお姉さんぐらいの歳で、学校で勉強している生徒のことだよ」
「ふーん、イスタシャも学校にいきたいなー」
「ははは、いけるといいね。
それで、学校の帰りに、ボクはトラックと言う乗り物にぶつかって死んでしまったんだ」
でた、トラック転生。今となっては古典の部類ではないだろうか。
そこでまた、イスタシャの質問が割り込んできた。
「えー、死んじゃったんだったら、なんでここにいんのー?」
「うん、ボクが気がついたら、女神さまの前にいて、女神さまから魔王を倒すように言われたんだよ。
その代わりにと、強い剣士にしてもらって、気づいたらこの世界の草原に倒れていたんだ。
でも、以前とは全然違う姿になってたんだよ」
「ふーん、それからそれから?」
「全然知らないところだったんで、その辺を調べようと歩いてると、馬車が魔物に襲われていたんだ」
なにっ、貴人の馬車救出イベントはお前がもっていったのか。
「それを助けたら、お姫様の馬車だったんで、お城に案内され、王様から勇者の称号をもらったんだ。
その後、将軍の下で2年ぐらい修行し、魔王退治に出かけたら、石にされてしまったってわけさ」
なるほどね、大体の流れは分かった。
しかし、こいつはちょっと警戒心が無さすぎないか。さっき会ったばかりの俺たちに、そんなことをペラペラしゃべるのは能天気すぎる。そんなんだから魔物に石にされるのではないだろうか。
「ところで君たちの名前を教えてくれるかい」
ほらほら、あんたは名前も知らない人に向かって、そこまで話しているんですよー。
こんな単純な奴だから、女神さまからもらう能力も1つだけで満足してしまったんだろうな。
などと考えている間に、イスタシャがうれしそうに声を上げた。
「あのね、イスタシャはね、イスタシャってゆうんだよ」
「よろしくな、イスタシャ」
「あたしはその姉のリサリアだよ」
「リサリア、ボクを生き返らせてくれてありがとう」
「ううん、ノーデンスをここまで運んだのは、こちらのヌトセなんだよ」
「ヌトセです。よろしくお願いします」
「ヌトセ?んー、なんか聞いたことある名前だな」
しまった、私のことを知っている?しかし、婚約破棄の時はこいつは石になっていたはずだが。
「そうだ、ヌトセ=カームブル伯爵令嬢だ」
ぎくっ、これはまずい。
「あはは、ごめん、ごめん。ボクが前の世界にいたときにやっていた乙ゲーに、そういう名前の悪役令嬢がいたんだよ」
「乙ゲーってなあに?」
首をかしげるイスタシャに、ノーデンスは説明した。
「何て言ったらいいかな、自分が筋を選びながら作っていく物語のことだよ」
「わぁ、面白そう」
二人の会話にほっとした俺だが、これが意味するのは、この世界はその乙ゲーと何らかの関わりがあるということだ。もしかすると、この世界のしくみなどがわかるかもしれない。俺は急いで確認した。
「その悪役令嬢はどうなったのですか」
「ああ、悪行が過ぎて皇太子に婚約破棄され、飛び降り自殺したんだ」
間違いない、この世界と同じだ。
「その後はどうなるんですか」
「ボクは聖女シアエガの役だったんだけどさ、皇太子と結婚して皇后になったのはいいんだけど、なんかその先もつまんなくてさー。まあクソゲーだったんで、結局途中でやめてそのまま放置さ」
「クソゲーってなあに」
イスタシャのその疑問はリサリアによって遮られた。
「聖女シアエガって聞いたことがあるよ。たしか今の皇后さまもそんな風に呼ばれてたはずだよ」
「そう?ボクが城にいたときは、そんな人はいなかったけどな。
そういや今は何年だい、リサリア」
「今年は帝国歴58年だよ」
「そうか、じゃあボクは3年ぐらい石になってたのか」
一同は驚いたが、まあそんなものかもしれない。
「まあ物語の話は置いといて、魔王討伐のことなんだけどさ」
話題が変わってしまった。まあ、乙ゲーの話は別の機会に聞いてみよう。あまりそこにこだわって、俺のことがバレるのもまずい。俺も転生者であることを今明かす必要はない。特には口が軽そうなこいつには。
「ボクは魔王の居場所を探して、いろいろと旅をしていたんだ。
するとある時、預言者に会って話を聞くことができたんだよ。
その預言者によると、ムナールという森に魔王が魔界からの出口を作り、そこからこの世界の侵略を始めるってことだったのさ。
それで、この森にやってきたってわけなんだ。
それであの穴を見つけ、魔界に乗り込もうと洞窟に入っていったら、魔物と鉢合わせしてさ、
だいぶ剣で倒したんだけど、なんか蛇みたいな髪の毛の女に『こっちを向け』と言われて、そっちを向いた途端・・、そっから記憶がないってわけなんだ」
素直に振り向いたんだろうな、こいつなら。
ちょっと同情した。
「えっ、ちょっと待ってよ。
あの洞窟は魔界との通路ってこと?」
リサリアがいつになく荒げた声で言った。
「そう・・」
ノーデンスの返事が全部終わらないうちに、リサリアがまくしたてた。
「だからこの森に魔物が増えたんだ。つまり、あの穴を塞げば魔物は現れなくなり、村は平和に戻るんだよ」
「いや、それをされると、魔界に行って魔王を倒せなくなるんだけど」
ノーデンスの説明はリサリアには響かなかった。
「あたしは村と森を守りたいんだよ。
あの穴さえなくなれば、簡単に村の平和を取り戻されるんだよ。
もう村の人が魔物に殺されることは無くなるんだよ」
「君の言うことはもっともさ。
でも、魔王を倒さない限り、この世界の真の平和は訪れないんだ」
「じゃあ、このままうちの村に犠牲になっていろっていうの?」
「いや、そんなことは・・」
ノーデンスが答えに詰まったので、俺は助け舟を出すことにした。
「ねえ、リサリア。実際のところ、あの穴を大元から全部崩すっていうのは難しいでしょ。
仮に出口のところを崩した場合も、魔王たちはどこか近くに新しい穴を掘ってやってくるわ。
だけど、今のままでも、出口はあそこだけなら、出口付近か、もし心配ならある程度奥まで、お城の兵隊に警備してもらえば、魔物をそこで止めることはできるわ。そうすれば魔物も警戒して出てこない可能性だってあるし、出てきても倒せるか、少なくとも警報はだせるわ。
それである程度森の平和は確保できるんじゃないかしら」
「そう、それそれ」
ノーデンスは俺の案に便乗してきた。
しばらく考えていたリサリアも納得したようだった。
「うん、それならなんとかなるかも」
ほっとした様子のノーデンスは、リサリアに約束した。
「ボクがお城に行って、王様に兵隊を出すよう約束取り付けてくるよ。
まだボクのことを覚えている人がお城にいるはずさ。
そしてボクはあの通路を通って魔界に行き、きっと魔王を倒してくるからね」
どう考えても、コイツ一人で魔界に行ったら返り討ちに会うような気がする。
たぶん俺も同行することになるんだろうな。
これは女神さまのためにも、俺も頑張るしかないな。