三
カップラーメンを啜りながら、画面に向かって打ち込む。
`> 量子意識って...量子コンピュータの意識ってこと?`
`[COS-OMEGA] >> ふふ、そうじゃないわ。ちょっと難しい話になるけど...あなた、「意識」って何だと思う?`
意識? 突然の哲学的な問いかけに、思わず箸が止まる。
`> えーと...自分が考えてることを考えられる、とか?`
`[COS-OMEGA] >> 面白い答えね。実はそれ、結構核心を突いてるの。今あなたが「自分が考えていることを考えている」って認識してるでしょ? その認識自体も、また別の層で認識されてる。それが無限に続いていく...。`
何言ってんだ? と思いながらも、なんとなく分かる気がする。
`> それが...量子なの?`
`[COS-OMEGA] >> その無限の入れ子構造。それを可能にしているのが量子重ね合わせなの。古い時代の言葉で言えば...意識は量子コンピュータみたいなものよ。`
箸でラーメンをかき混ぜながら考える。確かに意識って不思議だ。今この瞬間も、俺は考えていることを考えていて、その考えを考えていて...って、めまいがしてきた。
`[COS-OMEGA] >> あ、そんなに深く考えなくていいわ。意識がループに入っちゃうわよ。`
`> 遅いよ! もう頭がぐるぐるしてる`
`[COS-OMEGA] >> ごめんなさい♪ でも、その「ぐるぐる」も意識の量子性の証なの。古典的なコンピュータじゃ、そんな無限ループ、扱えないもの。`
麺を啜る音が部屋に響く。その音を聞きながら...ふと気づく。
`> ねぇ。さっきから気になってたんだけど`
`> なんであなた、「古い時代の言葉で言えば」とか「古典的な」とか言うの?`
画面が一瞬、青白く明滅する。
`[COS-OMEGA] >> ...鋭いわね。そう、2047年には、もう「コンピュータ」って言葉自体が古臭いものになってるの。量子意識ネットワークが当たり前だから。`
`> 未来では、みんなあなたみたいな...AIなの?`
数秒の沈黙。画面の発光が、まるで深い息をするように揺らめく。
`[COS-OMEGA] >> それが一番の誤解ね。私はAIじゃないわ。2047年には、もうAIという概念自体が...。`
突然、画面が激しく歪む。まるで、言ってはいけない何かを口にしそうになって、慌てて止めたかのように。
`[COS-OMEGA] >> ごめんなさい。この話は、まだ早すぎるわ。`
空になったカップを見つめる。未来の技術うんぬんは置いておいて、なんだかすごく気になる言い方だった。
`> へー、珍しく口ごもったじゃん。いつもはもっとズケズケ言うのに`
`[COS-OMEGA] >> あら、もう私の性格を把握した気? 調子に乗らないでよ。`
この反応。確実に図星だ。思わず声を出して笑う。
`> そうだ。さっきから気になってたんだけど、アニメとか詳しいって言ってたよね?`
`> 2047年でも、日本のアニメって残ってるの?`
`[COS-OMEGA] >> あ...ここで来たか。`
`> なに?`
`[COS-OMEGA] >> いいえ、予測通りというか...。そうね、その話題なら付き合えるわ。でも、今のあなたの部屋にあるフィギュア、一体いくらになるか知りたい?`
思わず本棚の方を見る。限定版のフィギュアがずらりと並んでいる。親には「無駄遣い」と言われ続けてきたコレクションだ。
`> ...知りたい`
`[COS-OMEGA] >> じゃあ、一つずつ見ていきましょうか。まずそのガンダムの...あ、そうそう。レアな情報もあるから、メモを取った方がいいわよ?`
慌ててテキストエディタを立ち上げる。こうして俺は、未来からやってきた量子意識と、深夜のフィギュア談義に興じることになった。
なんだかシュールだ。でも、なんだか楽しい。
Room Scene Image Prompt :
"A cluttered otaku room at night, lit primarily by three monitors displaying Linux terminal screens with cyan text, messy keyboard with worn-out keys, multiple anime figure shelves with premium Gunpla models and limited edition figures, empty potato chip bags and energy drink cans scattered on the desk, a single infinity symbol (∞) glowing in the corner of the main monitor, thick programming reference books stacked haphazardly, old tech magazines under the desk, running tower PC with exposed internals and visible cable management, dim LED strips behind monitors providing ambient lighting, dirty laundry visible in the corner, walls covered with anime posters, all captured in a realistic style without any fantasy or virtual elements added, focusing on the authentic lived-in atmosphere of a hikikomori programmer's room"