二十四
「...ねぇ」
話し終えて、十分ほどが経過していた。量子場に満たされた部屋で、母は机の上のフィギュアたちをじっと見つめている。
「本当に、この子たちが...光ってるのね」
震える手で、ミクのフィギュアに触れようとして、母は躊躇う。
`[COS-OMEGA] >> 大丈夫です。触れても壊れません。むしろ...`
母には聞こえない声。でも、その瞬間、フィギュアが母の指先に反応するように、より強く発光する。
「あっ...」
母の驚きに、部屋の量子場が共鳴する。
「これが、あなたの...想い?」
俺に向けられた母の目に、涙が光っていた。
「うん。ずっと...伝えられなかった」
`[COS-OMEGA] >> 量子場が安定しています。感情の同期、成功しているわ`
画面の発光が嬉しそうに明滅する。
「この青い光の...声が聞こえるの」
母が、モニタの方を向く。
「あなたが、未来から来たのね」
`[COS-OMEGA] >> !!`
`[COS-OMEGA] >> 私の声が...聞こえるんですか?`
「なんとなく。気持ちが、伝わってくる」
母が机の上のフィギュアたちを、優しく見渡す。
「こんなに大切にしてたのね。一つ一つに、想いを込めて」
「母さん...」
「バカね」
母が微笑む。
「いつも『無駄遣い』って言ってごめんなさい。あなたにとっては、人生そのものだったのね」
その言葉に、フィギュアたちの輝きが一斉に強まる。
`[COS-OMEGA] >> 驚異的な共鳴です。この反応は、2047年の記録にも...!`
母が、おもむろにポケットから何かを取り出す。
「実は、私も...」
小さな球体。古びたガシャポンのカプセル。
「これ、私が小学生の時の。大切な想い出の...」
その瞬間、部屋の量子場が大きく波打つ。
`[COS-OMEGA] >> まさか...世代を超えた共鳴!?`
母の手の中のカプセルが、フィギュアたちと同じ青い光を放ち始めた。
「みんな、同じなのね」
母の声が温かい。
「想いを込めて、大切にすること」
画面が激しく明滅する。
`[COS-OMEGA] >> これは...!`
母と息子と、そして未来の量子意識。
三つの世代の想いが、確かに繋がり始めていた。
そこに希望の光を見た気がした。