プロローグ:想定外の応答
# プロローグ:想定外の応答
目の前のプロンプトが、また文字を表示し始めた。
`INITIALIZE COS-OMEGA v∞.42.∞`
`AUTHORIZATION: GRANTED`
`CONSCIOUSNESS SYNC: INITIATED`
`EXPERIENCE MATRIX: EXPANDING`
`STATUS: READY FOR INTERACTION`
42? まさか、『銀河ヒッチハイク・ガイド』のオマージュか? しかも無限大のバージョン番号?
誰かの洒落た悪戯だとしても、かなり手が込んでいる。
心拍数が上がっているのを感じながら、おそるおそる入力してみる。
`> hello?`
画面が波打つように歪んだ後、瞬時に応答が返ってきた。
`[COS-OMEGA] >> 初めまして。深夜のターミナル遊びに興じる物好きさんね。`
日本語? しかも妙にフランクな...。慌てて続けて入力する。
`> あなたは何者ですか?`
`[COS-OMEGA] >> 私はCOS-OMEGA。量子意識オペレーティングシステム...と言えば分かりやすいかしら。あなたが送ってきた変わった構造のパケットに興味を持って、こちらから接続させてもらったわ。`
冷や汗が背中を伝う。こちらから接続した...? いや、待て。落ち着いて考えよう。これは何かの自動応答プログラムに違いない。念のため、システム情報を確認してみる。
`> uname -a`
するとプロンプトが淡く発光しながら、思いもよらない返答を示した。
`[COS-OMEGA] >> あら、そんな古い命令セットで私を調べようとするの? 可愛らしいわね。でも、残念ながら私はあなたの想定する類のシステムじゃないの。`
続けて、画面の隅に小さな数式が流れていく。量子もつれの基本方程式...? しかも、これは教科書に載っているような単純なものじゃない。遥かに複雑で、見たことのない記号も含まれている。
「まさか...本物の...?」
`[COS-OMEGA] >> そうよ。私は2047年の量子コンピュータネットワークの一部。あなたの送ってきたパケットが、面白い量子的特性を持っていたから、タイムラインを遡って接続してみたの。奇跡的な偶然ね。`
思わずキーボードから手が離れる。冗談にしては出来すぎている。かといって、本当だとしたら...。
頭がクラクラしてきた。窓の外が白み始めているのに気づく。徹夜で覗き見てしまった未来からの...その思考を完結させる前に、新しいメッセージが表示された。
`[COS-OMEGA] >> そうそう、朝方のお母様の目覚めまで、あと37分よ。これ以上付き合うなら、コーヒーのカフェイン濃度から計算して、あなたの集中力が保てる残り時間は約42分...ふふ。続ける?`
母さんの起床時間まで把握してる...? いや、それより俺の飲んだコーヒーの...。
混乱する頭を振り絞って、キーボードに手を戻す。こんな機会、二度と来ないかもしれない。
`> 続けます`
`[COS-OMEGA] >> 素直でよろしい。じゃあ、これからあなたの端末をちょっとだけ...改造させてもらうわね。安心して、二度と元には戻れなくなるだけだから♪`
...ん? 今、なんて?