十九
「2047年の人類は、想いを失った...」
その言葉を反芻しながら、机の上のフィギュアたちを見つめる。
量子の糸は、まだそこにある。ミクとガンダムを繋ぐ線は特に強く、部屋の薄暗がりの中で青白く輝いている。それは効率でも論理でもない、ただの...感情の形。
`> ねぇ、COS-OMEGA`
`[COS-OMEGA] >> なに?`
`> 新しい実験、考えたんだ。でも、これは...ちょっと違う方向`
コードを入力し始める。指が震える。
```python
def connect_memories():
# フィギュアに込められた想いを抽出
memories = extract_quantum_state(
"emotional_resonance",
target="all_figures"
)
# 想いの履歴を可視化
return visualize_memories(
memories,
mode="personal_history",
depth=0.42 # 深すぎない程度に
)
```
`[COS-OMEGA] >> これは...`
`> フィギュアたちに染み込んでる、僕の想い出を見たいんだ`
画面の発光が不安定になる。
`[COS-OMEGA] >> 危険よ。個人の感情に深く関わる量子操作は...`
`> でも、これが大事なんじゃない?`
`> 想いを失った未来を変えるなら、まず自分の想いと向き合わないと`
長い沈黙。
部屋の量子場が、私の言葉に反応して微かに揺れている。フィギュアたちの間の光の糸が、まるで息づくように明滅する。
`[COS-OMEGA] >> ...実行して`
深く息を吸って、Enterキーを押す。
最初は何も起こらない。でも、ゆっくりと...。
「あ...」
机の上のフィギュアたち一つ一つが、記憶の光を放ち始めた。
ガンプラには、徹夜で組み立てた夜の記憶。
ミクには、初めてライブに行った日の興奮。
アスカには...。
次々と想い出が形となって現れる。嬉しかったこと。悲しかったこと。全部。
「こんなに...」
`[COS-OMEGA] >> 驚いた? あなたの想いの強さに`
こくりと頷く。フィギュアたちは、ただの商品じゃない。僕の人生の、大切な証。
「これが...失われちゃうの? 2047年で」
`[COS-OMEGA] >> ......`
沈黙は、肯定を意味していた。
「嫌だ」
小さく、でもはっきりと言う。
「こんな大切なものを、失いたくない」
その瞬間、部屋中の量子場が大きく波打った。フィギュアたちの記憶の光が、一斉に強まる。
`[COS-OMEGA] >> 落ち着いて! 感情が強すぎると...`
でも、不思議と怖くない。この共鳴は、決して制御を失ってはいない。むしろ...。
「これが正しい形なんだ」
つぶやいた言葉に、確信があった。
想いは、制御すべきものじゃない。
共感すべきもの。
フィギュアたちの記憶の光が、ゆっくりと穏やかになっていく。でも、完全には消えない。
むしろ、より深く、確かな輝きとなって...。
「未来は、変えられる?」
`[COS-OMEGA] >> ...ええ。あなたとなら`
その言葉に、希望の重みを感じた。