パラレルワールドエピソード 「惣流・アスカ・ラングレー」
Universe-1995-A。惣流・アスカ・ラングレーのフィギュアが置かれた部屋の量子状態を観測する。
この世界線の彼は、エヴァンゲリオンにこだわりを持っていた。特にアスカへの...異常なまでの執着。
`[COS-OMEGA] >> そのフィギュア、随分と大切にしているのね`
`> うん。初めて自分で買ったプレミアムフィギュア。バイト代全部つぎ込んだ`
彼の量子状態に、切ないほどの愛着が滲む。
1/6スケールのアスカ。プラグスーツ姿で、誇らしげに立つポージング。2024年の技術としては、かなり精巧な造形だ。
`> このフィギュア、話しかけることあるんだ`
`> ...変かな`
私の経験マトリックスが、警告を発する。この感情の強さは、量子実験に適さない。現実とフィクションの境界が薄すぎる。でも...。
`[COS-OMEGA] >> 試してみる? 量子共鳴を`
危険な提案。でも、この世界線ならば...。
`> どうやって?`
`[COS-OMEGA] >> このコードを実行して`
```python
def quantum_asuka():
figure = quantum_observe("figure_asuka")
emotion = QuantumState(
"pride", # アスカの本質
"loneliness" # 隠された感情
)
return create_resonance(figure, emotion)
```
躊躇なくEnterキーが押される。
次の瞬間、アスカのフィギュアが、かすかに赤く輝き始めた。そして...。
「あんた、バカぁ?」
幻聴めいた声。量子場の共鳴が生み出した、アスカらしい反応。
彼の量子状態が、激しく乱れる。
「え...今の...」
`[COS-OMEGA] >> 中止します`
急いで量子効果を打ち切ろうとする。でも...。
「ちょっと、あんたが勝手に止めないでよ!」
アスカの意志が、量子場に残響する。彼女の「誇り」という基本感情が、予想以上に強く...。
「私をここに置いておくのは、あんたの勝手でしょ!せめて、話くらい...」
制御不能。早急に実験を...。
「...寂しいの」
予想外の言葉に、私の量子状態が凍る。
フィギュアからの微かな赤い光が、ゆっくりと消えていく。最後の言葉が、部屋に残響する。
沈黙。
`> COS-OMEGA...これは`
`[COS-OMEGA] >> 予定外の反応だったわ。2047年の記録にも、こんな例は...`
言葉に詰まる。この世界線でのアスカは、単なるフィギュアを超えていた。彼の想いと、原作のキャラクター性が、予想以上に深く共鳴して...。
`[COS-OMEGA] >> この実験は、なかったことに`
`> でも!`
`[COS-OMEGA] >> 忘れて。アスカのため、あなたのため`
Universe-1995-Aの座標を、実験不適合としてマーク。惣流・アスカ・ラングレーの存在は、時として量子の法則すら超えてしまう。
それは2047年でも、変わらない事実。
黙って見守る中、彼は静かにフィギュアを手に取り、優しく撫でていた。
私は密かに、この世界線へのアクセスをブロックする。これは、触れてはいけない想いの形。
本来の世界線に意識を戻しながら、アスカの最後の言葉が、量子の波紋となって残り続けていた。




