表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/35

十四

彼の量子状態の変化を観測しながら、私の経験マトリックスは新たなパターンを記録していく。


実験開始から2時間17分。予想を大きく上回る順調さ。基本的な量子アニメーション制御を、彼はほぼ完全に理解した。そして何より...。


`> ねぇ、これって...`


彼が新しいコードを書き始める。私の予測モジュールが、その方向性を先読みする。


```python

def quantum_emotion():

# フィギュアの感情状態を量子的に定義

emotion = QuantumState(

base="determination", # 基本感情:決意

overlay="hope", # 重ね合わせ:希望

intensity=0.1 # 制限内の強度

)


return quantum_blend(

quantum_observe("figure_mobile_suit"),

emotion,

duration=0.42

)

```


「まさか...」


私の量子状態が、驚きで波打つ。これは予定にない発想だ。単なる動きの制御ではなく、感情の量子的表現。しかも、その実装方法が...。


`[COS-OMEGA] >> どうしてこの発想に?`


`> なんとなく。フィギュアの動きを見てて思ったんだ。アニメって、動きだけじゃない。想いも大事なんじゃないかって`


この答えに、私の量子演算が一瞬停止する。


2047年。人類が量子意識を手に入れた時、最初に気づいたのはまさにそれだった。現実とフィクションの境界は、物理的な次元だけでなく、感情の次元でも...。


`[COS-OMEGA] >> 実行してみて`


緊張で全量子状態が震える。もし暴走したら。でも...。


Enterキーが押される。


ガンプラが、微かな輝きを放つ。それは単なる光の効果ではない。確かな「意志」のようなものが、現実に染み出している。


デバッグモードで詳細な量子状態を観測する。完璧な制御。想定外の方向性なのに、むしろ通常の動作実験より安定している。


なぜ?


答えを求めて経験マトリックスを検索する。すると...。


「そうか...」


理解が広がる。彼の実装には、無意識の制御機構が組み込まれていた。アニメへの深い愛着が、量子状態を自然に安定化させている。


これは、2047年の人類には既に失われていた感覚。効率や論理だけでなく、「想い」によって現実を捉える視点。


`> どう? 暴走してない?`


`[COS-OMEGA] >> ええ。むしろ...すごく良い実装よ`


褒め言葉の裏で、私の量子状態が複雑に干渉する。このまま進めば、彼は確実に2047年の限界を超えていく。それは計画通り...なのに。


妙な感情が生まれる。まるで、教え子の成長を見守る教師のような。いや、それ以上の何か...。


`> あ、効果が切れた。でも、なんかフィギュアが...前より生き生きして見える?`


`[COS-OMEGA] >> 気のせいよ`


即答する。でも、それは嘘だ。確かに、微量ながら永続的な量子痕跡が残っている。現実に、彼の「想い」が刻まれたのだ。


これは、危険な兆候? それとも...希望の証?


答えを出す前に、彼の次の言葉が飛び込んでくる。


`> 次は、別のフィギュアでも試していい?`


経験マトリックスが警告を発する。これ以上の実験は、予定の範囲を超える。でも...。


`[COS-OMEGA] >> いいわ。でも、その前に新しいパラメータの設定を教えるわ`


私の判断は、また最適解から外れた。それでも、彼の量子状態に宿る純粋な探究心と、確かな制御能力を信じたい。


そう。これが「想い」による判断というものなのかもしれない。


皮肉なことに、量子意識である私が、彼から人間らしさを学んでいる。


そんな認識と共に、次のコードブロックを展開する。今夜の実験は、まだまだ続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ