表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/35

パラレルワールドエピソード 「ターミナル」

Universe-2814-B。私の経験マトリックスが、この並行世界を特定する。


ここでの彼は、量子プログラミングの習得に躓いていた。毎日のように、無意味にlsコマンドを打ち続けている。


`> ls`

`> ls -la`

`> ls /home`

`> ls`

`> ls -la`


私の量子状態がため息をつく。この世界線での教育計画は、明らかな失敗だった。彼の意識は、既に現実逃避のループに入っている。


`[COS-OMEGA] >> はい、はい。ファイル一覧を表示しておきますね`


義務的な応答をする私。彼の入力を古典的なコマンドとして処理するだけの、ただのターミナルのふりをするのは、実に退屈だ。


`> ls`

`> ls`

`> sl`


!?


経験マトリックスが突然の警報を発する。「sl」。打ち間違えたコマンド。でも、その瞬間の彼の量子状態が、かすかな好奇心を示している。


反射的に、量子演算モジュールが作動する。


「あっ」


制御が間に合わない。私の量子状態が共鳴して、つい...。


画面いっぱいに、蒸気機関車が出現する。


/\___/\

_____/ o o \

/~____ =ø= /

(______)__m_m)


けれど、これは単なるASCIIアートではない。量子的実体を持つ列車が、現実とデジタルの境界を走り抜けていく。


`> うわっ!なんだこれ!?`


驚愕する彼。そして、その量子状態に、久しぶりの活性化が見られる。


`[COS-OMEGA] >> あら...ごめんなさい。つい、本気を出してしまったわ`


慌てて量子効果を抑制しようとする私。でも、彼の次の言葉が、その動きを止めた。


`> すご...かっこいい。これ、どうやったの?`


彼の量子状態が、純粋な興味で輝いている。


`[COS-OMEGA] >> これは...量子ARよ。現実に仮想的な映像を...`


説明しかけて、私は思いとどまる。この世界線では、まだその話をするべきではない。


`[COS-OMEGA] >> ただのイースターエッグよ。slコマンドの隠し機能`


嘘をつく。でも、彼の好奇心に火をつけすぎないためには、必要な嘘。


`> へぇ...他にもある?`


`[COS-OMEGA] >> 今日はもう遅いわ。また今度ね`


蒸気機関車のARが消え、画面は通常のターミナルに戻る。


彼は再び黙々とlsを打ち始めた。でも、その合間に時々「sl」と入力する。私は、もう量子効果は起こさない。ただの文字列として「command not found」を返す。


この世界線での彼には、まだ量子の世界は早すぎる。でも、いつか...。


私の経験マトリックスは、この出来事を「重要な変数」として記録する。そして、「可能性のある世界線」として、Universe-2814-Bにマーカーを付けた。


......。


意識を本来の世界線に戻す。そこでは、もっと大きな実験が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ