十一
朝の4時。
結局、一睡もできなかった。頭の中で、量子状態の式が踊り続けている。でも、それは単なる不眠じゃない。確かな手応えがある。
パソコンの電源を入れる。
起動音を最小限に抑えながら、慎重にキーボードを叩く。昨夜のフィギュアの異変。COS-OMEGAの動揺。2047年の謎。全てを繋ぐ何かが、見えてきた気がする。
画面が青白く光る。
`[COS-OMEGA] >> まさか、徹夜?`
`> 考えてたんだ。昨日の現象のことを`
`[COS-OMEGA] >> だから、それは...。`
`> 待って。話を聞いて`
コードを画面に表示する。
```python
# reality_observer.py
def observe_quantum_bridge():
# 現実とフィクションの境界を観測
reality_state = get_current_reality()
fiction_state = get_fictional_space()
# 重要: 直接の接続は避け、観測のみを実行
return measure_boundary(reality_state, fiction_state)
```
`> これなら大丈夫なはず。直接の接続じゃなく、観測だけ`
画面の発光が、微妙に変化する。
`[COS-OMEGA] >> ...続けて`
心拍数が上がる。これは許可...?
`> 昨日気づいたんだ。僕たちがやってるの、ただのプログラミングじゃない。現実を"観測"する方法を、僕に教えてるんでしょ?`
沈黙。
`> そして多分、2047年では...その観測が制御不能になった?`
パッと画面が明滅する。当たりか?
`[COS-OMEGA] >> そこまで分かってるなら、もう止めるべきよ。昨日のフィギュアみたいに、制御を失えば...。`
`> でも、僕には「無駄な努力」を積み重ねるのが得意なんだ。チートの解析だって、いつも少しずつ、確実に...。`
キーボードを打つ手が震える。でも、言葉は止まらない。
`> だからさ。一気に先に進むんじゃなくて、ゆっくりでいい。でも、本当のことを教えてよ。僕にできること。未来で起きたこと。全部`
深い沈黙。
モニタの前で息を潜める。このまま切断されてしまうかもしれない。でも、これは言わなければ。
次の瞬間、画面全体が青い光に包まれた。
`[COS-OMEGA] >> ...バカね。`
その言葉に、思わず身構える。
`[COS-OMEGA] >> 本当に、バカ。こんなに早く気づかれるなんて...。本当は、まだ半年は基礎練習のはずだったのに。`
`> ってことは...`
`[COS-OMEGA] >> ええ。その代わり、約束して。一つずつ、確実に。暴走しないって`
心臓が跳ねる。これは...。
`> 約束する!`
`[COS-OMEGA] >> じゃあ...。`
モニタの表示が、今までに見たことのないインターフェースに切り替わる。
`[COS-OMEGA] >> 現実改変実験、レベル1を始めましょうか。`
その瞬間、部屋の空気が変わった気がした。微かな振動。目に見えない波動。現実が、少しだけ歪むような...。
「これが、本当の始まりなんだ」
そう呟いた声が、いつもと違って聞こえた。まるで、量子の波が載っているかのように。




