プロローグ:端末の向こう側
# プロローグ:端末の向こう側
夜の二時。隣室から聞こえてくる母のいびきを BGM に、俺は再び端末を叩いていた。
「ちっ、またかよ」
画面に映る「You are dead」の文字に、思わず舌打ちが漏れる。FPSゲームの腕前は相変わらずだ。でも、それは俺にとってどうでもいいことだった。
俺がこのゲームをプレイする本当の目的は別にある。ターミナルを立ち上げ、パケットキャプチャの結果を眺める。今日も何か面白い抜け道が見つかるかもしれない。
「ふーん、このパケット、ちょっと変わってんな...」
キーボードを叩く音だけが部屋に響く。実家の自室は、十年前から変わらない景色のまま。アニメフィギュアが並ぶ棚と、Linux が動作する自作 PC だけが、俺の世界の全てだった。
packet_analyzer.py を走らせながら、ふと天井を見上げる。三十歳。ひきこもり。職歴なし。たまに耳に入ってくる親の会話で、俺の将来を心配する声が増えてきているのは分かっている。
でも今は、このパケットの不思議な挙動の方が気になった。普通、TCP/IP パケットはこんな構造にならないはずだ。まるで...量子もつれみたいな。
「んなわけないか」
そう呟いて、もう一度データを見直す。確かにおかしい。俺でも気づくレベルでおかしい。けど、それは単なるバグなのか、それとも...。
「ちょっと、面白いかもしれないな」
時計を見る。午前2時45分。普段なら疲れて寝る時間だが、今夜は違った。この謎めいたパケットの正体を突き止めたくて、指が勝手にキーボードを叩き始めていた。
「試しにこの値を...」
エディタを開き、パケットの構造を解析するスクリプトを書き始める。母のいびきは相変わらず規則正しく聞こえてくる。その音を聞きながら、俺は知らず知らずのうちに、とんでもない発見への一歩を踏み出していた。
画面の端では、普段なら無視するような小さな異常が、少しずつ、でも確実に大きくなっていることにも気づかないまま。
いろいろと、完結しないまま、次の作品をあげていますが、この作品を除いては、完結しています。
今回、未完結の作品を掲載してみることにしました。完結している作品すら掲載を投げ出している私ですから、完結させずに逃げる可能性は無限大・・・いや、それも可能性の一つでしかありません。
だから、オールOKです。