プロローグ 勇者、襲来
<緊急警報、正体不明の魔力反応を確認しました。緊急警報――>
突如、魔王軍司令室に、警告が鳴り響いた。
オペレーターを務める魔族の兵士が、額に汗をにじませながら報告する。
「場所が特定できました! メインモニターに映します!」
司令室の前面にある巨大な魔動モニターに、地図が表示される。
西側の国境付近に、青い点が点滅していた。
「――やはり、予言は本当だったようですな」
司令室の中央に立つシロクマの獣人が言った。
彼の目の前には、深紅の長髪を持つ少年が座っている。
少年はまだあどけなさの残る顔つきだが、この場の誰よりも落ち着いた声で答える。
「ああ……間違いない。勇者であろう」
少年は机に並ぶ予言書を一瞥する。
それは、異世界『日本』から召喚された『らのべ』という書物だ。
シロクマの獣人が顎に手を当てる。
「一体、どのような『ちーと能力』を持っているのやら……」
「たとえどんな力を持っていたとしても、戦うしかあるまい」
少年が立ち上がると、羽織っていた漆黒のマントがなびいた。
右手を勢いよく伸ばし、透き通った声で告げる。
「総員、対勇者戦闘配置! 準備が出来次第、我と共に出撃せよ!」
兵士たちは「御意!」と短く答え、慌ただしく動き出した。
少年はマントをひるがえし、司令室を後にする。
「――『ちーと勇者』たちよ。我の野望の邪魔はさせん」