第75話 伝説の鬼神
「おおおッ!」
「ハァッ!」
柊棗と島津春久は、互いに上段からの振り下ろしでぶつかり合った。
必然、鍔迫り合いが始まる。
「棗……峰打ちはもう辞めたのか?」
「……よく知っているな」
ナツメは人に対する時は、これまで常に相手に峰を向けてきた。
「クック……ようやく気が付いたか? お前の剣が、人斬りの剣でしかないことを!」
春久が両腕に力を込める。
腕力では敵わないナツメは、これを側面に受け流し、即座に斬り上げを放った。
「あの時と同じ動きだ、棗」
春久はそれを悠々と下がって躱し、
「次に俺は斬り上げ――」
斬り上げを放つ。
「お前は刀を振り下ろす」
刀と刀、激しい衝突に閃光が走る。
そして両者、弾かれたように距離をとる。
ここまで、かつて、幼き日の焼き直しであった。
ただし、剣速は両者、子供の頃とは比べものにならない。
「まだ見せぬか……あの目を」
「……!」
「濁った沼よりなお深く、淀んだ、暗闇の瞳だ」
春久が、高速で踏込み斬り下ろしを仕掛ける。
棗はやはり躱しきれず、刀身を斜めに受け流すしかない。
「ぬんっ!」
春久の鋭い斬り上げ。
かつては受け流された後は余裕もなく、木刀の背を振り上げる動作でしかなかったが、今は鍔を切り返し斬り上げを放つことができる腕があった。
「ッ!」
ナツメはそれを自らの刀で受け止めるが、膂力の差で刀身が天へと泳ぐ。
「ここだ」
春久はそれ以上の打ち込みをしなかった。
足を踏ん張り、即座に動けるよう身構える。
ナツメは意図せず天を衝いた剣を、振り下ろすしか選択肢はない。
そしてその時、あの技が来る。
春久はそう踏んで、その時を待った。
しかし。
「……」
「……」
ナツメは刀を振り下ろさず、春久もまた想定外のことに動けなかった。
「……何故振り下ろさない」
「……」
それどころかナツメは、刀を正眼へと構え直してしまった。
「……巫山戯るなよ。手を抜いているのか」
「それは違う」
「何が違う! ならばお前は見せるはずだ! あの目を! 人を殺すことに悲しみも、喜びすらも感じない、悪鬼羅刹の修羅の目を!」
「その“目”は、拙者が人斬りを恐れていたが故の裏返しだったのだ」
「何……?」
「怯えは剣を鈍らせる。だがかつて剣のみが全てであった拙者に、そんなことは許せなかった。だから感情を殺し、人斬りの鬼になるしかなかった」
「今は違うと言うのか」
「拙者は知った。この世には剣を極めるよりも大切なことがある。そしてそれを知った時にこそ、真実、剣を極めることができるのだと」
ナツメは真っ直ぐに春久の目を見た。
「……気に入らんな」
春久もまた、正眼へと構え直した。
「その瞳の輝き、気に入らんぞ! 棗ぇぇぇ!!」
「ッ! 春久ぁああ!」
白銀が閃き、火花が散った。
小手調べはここまでとばかりに、両者の剣速は跳ね上がっていた。
「その才で! 何故鬼人族を正しい方向へ導けなかったッ!」
達人同士の立ち合いは、ほとんど一瞬で決まることが多い。
そうならないのは、余程両者の実力が拮抗しているからだ。
「導いているさ! 力で天下を押しなべて平定することこそ、正しき道だッ!」
斬り上げに斬り下げ。
「お前はッ! 力をひけらかしたいだけだろう! 天下など、興味もない癖にッ!」
横薙ぎに横薙ぎ。
「クックック……! よくわかっているな、棗ェ!」
終いには突きに突きを重ねる離れ業をも行って見せる。
どちらがどちらに合わせたのか、互いにわからないほど、両者の剣は瓜二つであった。
「……ッ! わかりたくもないが、春久、お前は拙者の成り得た姿のひとつだ!」
両者、柊流の皆伝級。技の冴えに違いはない。
「そうだ! そしてお前は俺の隣に立ち、殺戮の限りを尽くすのだ!」
「そうはならない! 友が! 拙者を変えたのだ!」
「ならばその友を斬り、俺のお前を取り戻す!」
ギィィン!
「!!」
その瞬間、棗の剣速がさらに増し、速度で春久の力を上回った。
春久は柄から手を放しこそしなかったものの、一瞬その威力に刀を泳がせる。
「……させんよ。その為に拙者は今日、ここにいる」
「その目……」
ナツメの瞳から光が消える。
だがそれは極限状態で生まれる超集中状態であり、感情を失っていたかつてのナツメとは明らかに違う。
「違う……その目ではない。俺が求めたものを……失ってしまったのか、棗」
「……」
「……残念だ。せめてこの手で引導を渡そう」
「……」
ナツメはもはや春久の言葉に返答しようとはしなかった。
無言で、刀を大上段に構える。
「棗……地獄で待て。そこでお前は、真実の自分を知るだろう」
春久もまた大上段に構えてみせる。
互い、周りの音は聞こえていない。
春久の言葉も尽き、両者相手の次の剣にのみ集中する。
キィィンッ!
姿が霞むほどの、斬り込み。
刃がひとつ斬り裂かれ、宙を舞った。
「……」
「……」
両者、刀を振り下ろしたまま残心する。
「……何故だ」
折れた刀を手に、島津春久は肩口から腰まで袈裟斬りに斬られた己の身体を見る。
「何故……届かない」
春久はその言葉を最後に、地面へと倒れ伏した。
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「向こうも終わったみたいだな」
「!?」
何発目かの俺の拳を腹に受け、ついに蹲ったまま動けなくなった島津夏久。
その夏久の目が驚愕に見開かれ、その口から絶叫にも似た叫びが溢れた。
「あ、兄者ぁぁぁぁッ!!」
春久は地面に倒れ、そこから真っ赤な血液が水たまりのように広がっていく。
「嘘だろ……春ニィが負けるわけない……人間の女なんかに……!」
島津秋久もまた、信じがたいものを見るように春久を見つめている。
「……勝負はあった。島津夏久、島津秋久。大人しく兵を引いてくれるな」
「……」
「……」
その言に、島津兄弟は言葉もなくナツメを見た。
秋久は、天を仰いで涙を零した。そして、叫んだ。
「ちっっくしょぉぉぉぉッ!!」
――ドックン。
「……?」
俺は鼓動にも似た不自然な音に、春久の遺体を見る。
――ドックン。
その音に合わせて、春久の身体が揺れている。
「何だ……!?」
――ドックン。
「……ぅ」
春久が、ゆっくりとその身を起こす。
「あ、兄者!?」
「春ニィ!?」
「馬鹿な!? その傷で起きられるはずは……!?」
ナツメが驚愕に振り返る。
「ぅ、ぅ」
春久は額に手を当てて、俯いている。
そして。
「ウオオオオオオオオオオオオッッ!!」
春久“のようなもの”は、天に向かって大きく吠えた。
何かを突き破るような音と共に、その額の中心には第3の角が出現する。
「な、なんじゃなんじゃ!?」
「何事ですか!?」
ニナとラティが、その吠え声に跳び上がって驚く。
「は、春ニィ……!?」
「兄者……では、ない……!?」
ボコ。
春久の、肩の辺りの肉が隆起する。
ボコボコ。
それをきっかけに、全身の肉が膨れ上がった。
「ウオオオオオオオオオオオオッッ!!」
もう一度吠える春久の口は裂け鋭い牙が覗き、瞳は真紅に輝き。
その体高は、3メートルに届こうかと言うほどに肥大化した。
元々赤黒かった春久の肌は、ほとんど漆黒に近い黒に変貌している。
「な、なんだありゃあ!? お前らの兄貴は化け物か!?」
「し、知らぬ! 何故兄者があのような姿に!? さ、3本角などと……! まるでお伽噺の鬼神ではないか!」
「……薬……」
秋久がぽつりと呟いた。
「クスリ? 薬って何だよ」
「兄者が角熱病を患って……ギシンとかいう商人から薬を買ったんだ……」
「角熱病だと!?」
ナツメが驚愕する。
角熱病……それが何かは今追求しなくていいだろう。
「角熱病が治る薬だって……今思えば絶対怪しかった。目の前に希望をぶら下げられて……俺は……!」
秋久は絶望に顔を青くして、豹変した春久を見つめる。
「……っ! 俺が、ギシンなど連れてこなければ! 兄者をあのようなッ!」
夏久もまた、後悔に打ちひしがれていた。
「ナ、ツ、メェェエエッ!!」
「!?」
唐突に、春久だったもの――黒鬼が、ナツメに対しその剛腕を振るう。
「っち!」
俺は地面を蹴り、ナツメに近づき、突き飛ばす。
――内錬気ッ!
「ごっ!?」
一応両腕を交差してガードをしたのだが、凄まじい衝撃に俺の世界が揺れた。
気づけば、視界には一面の青い空。
俺は、宙を舞っていた。
「がっ!」
そして背中から地面に叩きつけられる、寸前、自然と受け身をとることができた。
これも鍛錬の成果か。
「っつ……!」
顔だけ起こせば、腕を振るった黒鬼から、5,6メートルは離れた位置に、俺は転がっていた。
「リュースケ!」
「竜輔殿!」
「リュースケさん!?」
「やっろ……痛ぇじゃねぇかよ……!」
内錬気を通してこのダメージ。
外錬気は天才的だが、内錬気はてんでダメなナツメがこれを受けていたらと思うと、ゾッとする。
「ウオオオオオオオオオッッ!!」
一際高い黒鬼の咆哮に、大気がビリビリと振動する。
その叫びは騒がしい戦場にあって遠く響き渡り、多くの兵士がこちらに気が付いた。
「!? な、何だあの化け物は!?」
「3本角――伝説の鬼神!?」
聞こえてくる声は、どれも怯えを孕んでいる。
柊、島津の陣営を問わず、その異形に恐怖心を抱かずにはいられないようだ。
「ナ、ツ、メエエエ……!」
「くっ!」
不意を突かれた先ほどと違い、ナツメは振り下ろされた黒鬼の腕をかろうじて回避することに成功していた。
「ウオオオオオッ!」
「こ、のっ!」
ナツメの刀が翻る。
ガッ!
しかし春久の怪物めいた黒色の肌は、ナツメの刃を通さなかった。
「!?」
「ウオオオオオオッ!」
さらにナツメへ追い打ちを掛けようという黒鬼。
起き上がった俺は黒い腹目掛けて渾身の拳を打ち込んだ。
「おッらァッ!」
凄まじく重い手応え。
黒鬼の巨体を数センチずり動かすことには成功したが。
「いっ……!!」
俺は右手の拳を左手で包み込んで、痛みを堪える。
この感触……オーバーSランクの魔物、鉄壁の魔法防壁を持つ魔狼ガルムにも匹敵する強固な身体だ。
「ウオオオオオオッ!」
黒鬼は怒りも露わに、左手を薙ぎ払う。
「おわっ!」
屈んで躱す。
単調な攻撃だが、質量が違いすぎる。もう一度受け止める気にはなれなかった。
「くそったれ!」
左足を振りかぶり、サッカーボールを蹴るかの如く黒鬼の脛に蹴りを打ち込む。
重く、硬い感触が、俺の足に伝わる。
自分の足を痛めないよう加減したせいか、それともコイツの耐久力がやはり高いせいか、あまりダメージを受けたようには見えない。
「グオオ……!」
「だめかよっ!」
再度の攻撃を警戒し、俺は地面を2,3蹴り、一旦距離を取った。
黒鬼はそんな俺を鬱陶しそうに一瞥したが、すぐに興味を失ったかのようにその紅い瞳をナツメへと向ける。
「ナ、ツ、メェェ……!」
そしてゆっくりと、重い体を引きずるように一歩踏み出す。
「あ、あの化け物、棗様を狙っているぞ!」
「やらせるな! 討ち取れぇ!」
「ま、待てッ!」
柊の兵の何人かが、ナツメの静止も聞かずその体に槍や刀を打ち込もうとする。
「グ、ウウ」
パンッ!
「!!」
一瞬だった。
黒鬼は、何か虫でも追い払うかのように何気なく手を薙ぐように振るい。
当たった兵士の上半身が、風船のように弾け飛んだ。
「き、貴様ァァ!!」
ナツメは怒りの叫声を黒鬼に浴びせるが、辛うじて、斬りかかるような愚は犯さなかった。
怒りを噛み殺し、ナツメが言う。
「ぐう……! こいつは拙者を狙っている! 拙者が時間を稼ぐ故、竜輔殿、何か……何か策を練って欲しい!」
「はあ!? 策を練れったって…………ヤミッ!」
俺は暴食の魔法を右手から放ち、黒鬼にぶつけた。
すぐにヤミを消して黒鬼の様子を見るが、何か効いた様子はない。
だめか。
「次は……ラティ! こいつの目を射れ!」
「は、はい!」
聞くや否やラティは素早い動作で背中から矢を引き抜き、瞬時に黒鬼の紅い瞳を目掛けて放って見せた。
「……」
しかし黒鬼はそれを一瞥すると、当たる前に頭を引いて躱してしまった。
「こ、こいつ避けるぞ!?」
「……何!? ええい! 知らんぞ!」
「ニナ!?」
何を思ったか、ニナがその背中に背負っていた大鎌、エレメンツィアを黒鬼に向けて投てきした。
「グオオッ!」
黒鬼はそれを弾こうとまた腕を薙ぐが、鎌が届く寸前、その柄を握って跳躍する白い影。
精霊、エレメンツィアだ。
「ふッ!」
エレメンツィアは黒鬼の少し横を跳びながら、流れるような所作で大鎌を振るった。
鎌がなぞった線に沿って、黒鬼の肩辺りから、出血が起こる。
ごく僅かではあるが、エレメンツィアの大鎌は黒鬼の肌を抉ったようだ。
「グオオオオオッ!!」
黒鬼は怒りの咆哮を上げ、エレメンツィアに腕を振り下ろす。
決して遅くはないそれを、エレメンツィアは軽く横に跳躍して躱した。
「私も時間を稼ぎます。少しは傷をつけられるようですが……」
エレメンツィアの視線を追って黒鬼の肩口を見れば、先ほどエレメンツィアが付けた傷はすでに塞がり、血も止まっていた。
「決め手にはならないようです。リュースケさん。策を」
「まじかよ……」
ニナがエレメンツィアを投げたのは、エレメンツィア自身の指示だったようだ。
とりあえず――。
「一旦……全員、離れるぞ! ナツメ、エレメンツィア、悪い! 頼んだ!」
「応ッ!」
「はい」
「お前らも来い!」
「えっ!?」
「何!?」
秋久と夏久の腕を掴んで無理矢理走らせる。
「全員離れろォォォ!! 絶対に手を出すんじゃないぞ!!」
俺は兵士たちにもそう言い含めて、ニナ、ラティも連れて本陣へと駆け出した。
「ナツメ、エレメンツィア……死んだら許さないからな……!」
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「状況は遠目に見てた。ありゃあヤバいな……俺が今まで見たどんな化け物より厄介そうだぜ」
そう、源さんは言った。
というか、他にも化け物を見たことがあるのかよ……。
「源さん、何か策はないか?」
「まあ、ねぇこともねぇが……」
「あるのか!?」
「こいつだ」
そう言って源さんが取り出したのは……。
「って、そりゃ雷上動弓の箱じゃねーか!」
「おう。こんなこともあろうかと、持ってきてたんだよ」
「国宝をほいほい持ち出すなよ! でもナイス!」
「だが問題は……」
源さんは雷上動弓の箱を撫でながら語る。
「こいつを射っても当たるかどうか、ってこった。引けるのは婿殿だけだからな」
「む……」
確かに。
俺は雷上動弓を引く練習は散々したが――結局、内錬気を使わないと引けなかったが――的に当てる練習は一切していない。
「下手をすればナツメやエレメンツィアに当たってしまうしのう」
ニナの意見も尤もだ。それはまずい。
「そ、それに、もし当たる射を出来たとしても、あのハルヒサさんだった怪物……避けますよ?」
「ああー!」
そういえばそうだった。
実際に避けられたラティに言われると、本当に避けられちゃいそうな気がする。
「そして極め付けは、当たっても効くかどうかはわかんねぇってこったな。見てたぜ、婿殿が殴るところをよ。あれがちっとも効かねぇんじゃ、こいつだって効くかどうか……」
「ぐう……」
唸るしかない。問題は山積だった。
「あ、あのさ……」
それまで黙っていた島津兄弟の1人、島津秋久が口を開いた。
「ん? なんだよ」
「い、いや何でもねぇ」
「?」
何なんだ。この忙しい時に。
「お館様」
「どうした」
そんな折、柊の足軽の1人が声を掛けてきた。
「いや、それが……」
「あん?」
足軽の後ろには、小柄な少女が一人、立っていた。
額の2本角から、彼女が鬼人族であることがわかる。
『冬!?』
秋久と、黙り込んでいた夏久が、同時に声を上げる。
冬……島津4兄妹の最後の1人、島津冬久か。
よくここまで辿り着いたな。まあ大分戦場は混乱しているだろうしな……。
「……あの……」
おどおどと視線を彷徨わせる冬久。
「何だ?」
「ひっ……そ、その……」
「待てよ。源さん顔が怖ぇから。俺が話を聞く」
「怖ッ――!?」
源さんはショックを受けたようだが、ケアしてる暇はない。
俺は背の低い冬久に視線を合わせるように屈み、できるだけ柔らかく声を出した。
俺の勘が、この子の話を聞くべきだと言っているのだ。
「君、島津冬久だね。どうしたんだい? 敵の本陣まで来るなんて、余程のことだろう?」
「出たッ! リュースケの対美少女限定猫被り……! 久しぶりに見たのじゃ!」
ニナ、うるさいからちょっと黙ってるように。
「あの……私……」
「うん」
「春兄さん……ううん……春兄さん“だった”あの鬼神の弱点……わかります」
「冬ッ! お前!」
「ッ!」
秋久に怒鳴られ、冬久が竦み上がる。
「まて、秋」
そんな秋久の肩に手を置いて、夏久が宥める。
「だ、だってよ! それを言うってことは春ニィを……!」
「……冬とて、相応の覚悟を持ってのことだろう。それに、黙っていてもいずれはわかることだ」
「っく……!」
秋久は下唇を噛んで俯いた。
「それで? 弱点って何だい?」
「……鬼神の伝承は……鬼人族には広く伝わってます……いろいろお話はあるけど……だいたい最後はこう終わります――『鬼神シキは、角を折られて土塊に還ってしまいました』……って」
「角!」
そうか、角か!
言われてみればわかりやすい。あんなでっかい3本目が額から生えてきたんだから、セオリーから言ってもすごく弱点っぽい。
「冬久。教えてくれてありがとう」
「はい……どうか……春ニィを土に還してあげてください……あんな、あんな姿……可哀そうで……私……!」
冬久は大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を零した。
「冬……」
「ぐっ、冬……よく決断した……!」
秋久と夏久は、沈痛な面持ちで冬久を見守っている。
「……ああ……わかった。必ずお前の兄貴をあの姿から解放してやる」
ぽん
俺は冬久の頭を軽く叩いてから、立ち上がる。
そして顎に手を当てて考え込んだ。
弱点……角……雷上動弓……当たらない……避けられる……。
考える。考える。
「問題はここが平野ってこと……なら……」
「婿殿? 妙案は浮かんだか」
俺は少し考えを整理してから、頷いて見せた。
「ああ。多分これしかないと思う」
「おお! さすがリュースケじゃな! して、どんな策なのじゃ?」
ガシッ!
俺はニナの肩に手を置く。
「お前の協力が必要だ。ニナ」
「へっ?」
言われたニナは、目を丸くした。