表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どらごん・ぐるーむ  作者: 雪見 夜昼
<竜鱗の章>
6/81

第5話 挑むは黒竜の王子

 白竜城の謁見の間は、騒然としていた。

 当然っちゃ当然だが。


「客人。そなたがニナを賭けて、ゲオルグと決闘すると申すのか?」


 ニナの親父、白竜王バルトロメウス・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイは、俺の予想とは大分違っていた。

 髭もじゃの、いかにも王様! って感じの人を想像していたんだが。

 実際には、背中まで伸びるニナと同じ白金の髪、すらっとした長身、そして涼やかな美貌。下手したら、女と間違えそうだ。

 それにしても、せいぜい20歳くらいにしか見えんぞ。


 王様の問いに、俺は答える。


「ああ」


 ざわざわ!


 あ、つい敬語を忘れていた。

 なんと不敬な! とか大臣っぽい人々が騒いでいる。

 横の方に立っている、ゲオルグと思われる肌の浅黒いイケメンは、顔をしかめてこちらを睨んでいた。


 王様はそんな彼らを、手を掲げて制す。


「そなたは、黒竜人か? それとも白竜人か?」


 ニナにも似たようなことを聞かれた。

 どうやら、俺の見た目は、そのどちらの特徴も合わせ持っているらしい。


「いや、人だ、です」


 ――なんだと! 馬鹿な! 死ぬ気か!


 外野がうるさい。

 バルトロメウス王は外野と違い、あくまで優しく諭すよう言う。


「人の身では、竜人には勝てまいぞ? 命を粗末にするものではない」


「その心配は無用じゃ!」


 俺の隣で静かにしていたニナが、突然声を張り上げる。


「リュースケはわらわに勝つほどの実力を持っておる。人だと思って甘く見ると、痛い目を見るのはゲオルグのほうぞ」


 ざわ!


 あ、コラ。余計なこと言うなよ。

 油断させときゃ楽に勝てたかもしれないのに。

 いや、そんな「どうじゃ、言ってやったぞ!」みたいな顔でこっち見られても。


 周りはそれを聞いて、ますます喧騒が増している。


 ――まさか、あの姫様を……。人の身でありながら……。化物か……。


 言われてる、言われてる。

 大臣共は気味悪がっているようだが、なんか兵士たちは俺に尊敬の眼差しを向けていた。

 ……苦労してるんだろうな。ニナに。


「う、む。にわかには信じがたい話であるが……」


 王様は迷っているようだ。


「いいではありませんか」


 王様の隣に座っていた、王妃様が言った。

 王妃の名前は、エルザ・フォン・ヴァイス・ドラッケンレイ。

 ニナにそっくりだが、背は160センチくらいはある。

 長い髪は頭の上で何回か折りたたみ、髪留めで留めていた。

 というか、この国の大人はどうなってんだ。

 全員若すぎる。この人も20歳くらいにしか見えない。

 竜人の特性、なんだろうな。


「しきたりに従うなら、決闘を許可することに何ら問題はありません。ニナが良いと言っているのですから。人が挑んではならない、などという決まりもありませんしね」


 話がわかるな、王妃様。美人だし。巨乳だし。

 ニナがこっちを睨んでいる。ホント鋭いなあ……。


「しかしエルザ……」


 王様はなおも渋る。

 そりゃあなあ。

 黒竜人との関係改善が目的の婚約に、まったく関係ない人間が割り込んできちゃあ、困るだろうよ。

 だが俺の明るく楽しい未来のために、頷いてもらうしかない。


「わかりました。お受けしましょう」


 これまで黙っていたゲオルグが、とうとう声を上げる。


「ここまで言われて引き下がっては、黒竜第2王子の名が廃るというもの」


「む、しかし、ゲオルグ殿下」


 王様が喰い下がる。


「ご心配なく。勝っても負けても、国際問題にするつもりはありません。まあ、人が僕に勝てるとは、到底思えませんが」


 フン、と鼻を鳴らして、こちらを見下すように見てくる。

 あー。こういうヤツか。

 小物っぽい。


「よろしい。では決闘場へ移りましょう」


「あの、エルザ? 王様は余なんだけど」


 仕切り始める王妃に、王様が困ったように言う。


「見学も許可します。証人として必要ですからね」


 王妃は王様を無視した。

 王様はがっくりと肩を落としている。

 王妃つえー! 王様よえー!


________________________________________

 

 外から控えのスペースに流れ込む空気は、やや冷たい。

 ドラッケンレイはかなり北に位置する国らしいからな。

 日射しは、まだ明るい。明らかに昼間だ。

 俺がこっちに飛ばされたとき、向こうでは夕方だったんだけど。

 時差とかあるのかな。


 場所は移って決闘場。

 まさしく決闘場、コロシアムだな。

 円形の広場と、周りには観客席。

 観客席は超満員。

 さすがに、第3王女の婚約者決定戦ともなれば、注目されるようだ。


「さて、行きますかね」


「頼んだぞ、リュースケ!」


 ニナに頷いて、控えのスペースから中央へ進む。

 正面の控えスペースから、ゲオルグも出てきた。

 動きづらそうな、気障気障しい王子っぽい服のままだ。舐めとんのか。

 あ、俺も学ランのままだけどね?


「降参するか、気を失うか、死んだら負けとします。竜化はしてもいいですが、ブレスは禁止です」


 ゲオルグと向き合うと、審判をする精悍な顔つきの白竜人が、ルールを説明してくれた。


 あ、やっぱ死ぬ事あるんだ……。

 てか竜化って何? ブレス?


「心得た」


「あー、わかった……」


 しぶしぶ了解すると、後方でニナが「気合いを入れろー!」とか叫んだ。


「ゲオルグ・フォン・シュヴァルツ・ドラッケンレイだ」


「リュウスケ・ホウリュウイン」


 名乗られたので、名乗り返す。


「生きて帰れると、思うなよ」


 なんか滅茶苦茶怒気を込めて睨んでくる。

 すげえプレッシャーなんですけど。

 でも、楽しみだな。

 今度こそ、本気の本気で、()れそうだ。


「一瞬で、潰す」


 おお怖。


「では、初め!」


 轟音。

 開始直後、俺が寸前まで立っていた場所に、ゲオルグの拳が突き刺さった。

 地面が陥没して、小さなクレーターができている。


「おおう! すげえな」


 俺はその3メートル程横手に移動して、舞い上がる土埃を眺めていた。


「! 貴様!」


 躱されたことが腹立たしいのか、ゲオルグはますますその赤い瞳に憎悪を燃やす。


 ――……ワアアアア!


 遅れて、歓声が響いた。

 まさか本当に人間が竜人と戦えるとは、といったところか。


「ガァァァ!!」


 ゲオルグは雄叫びを上げて突っ込んでくる。

 確かに、ニナよりかなり速いし、強いな。


 ゲオルグの右ストレートを横にいなし、追って来る左フックを、身体を後ろに倒して避ける。


「避けてばかりでは、勝てぬぞ!」


 そりゃ、そうだな。

 楽しいからもうちょい続けたかったんだけど。

 軽くバックステップで距離をとった。


 ゲオルグがまた馬鹿正直に突っ込んでくる。


「ガアア!」


 竜人ってのは力が強い分、技を磨かないのかもな。

 真っ直ぐ頭に伸びてくる右手を、身体を捻るように躱しつつ、ゲオルグの懐に入る。

 同時に、その右腕を俺の両手で巻き込むように掴み、肩と背中でゲオルグを持ち上げるように浮かせる。


「そぉい!」


 爆音。


 いわゆる、一本背負い。

 面白いように決まったな。

 先程ゲオルグが作ったクレーターよりも、いくらか深い穴ができた。

 背中で削岩する羽目になったゲオルグは、完全に意識を失っていた。


 場内が静まり返る。

 あれ? 何この空気?


「あのー。俺何かまずいことした?」


 審判に尋ねる。


「あ、いや…………しょ、勝者、リュースケ・ホウリューイン!!」


 ――ワアアアアアアアアアアアアア!!!!


「うおっ! びっくしたなーもう!」


 審判が俺の勝利を宣言すると、黙っていた観衆が突然大歓声を上げた。


「リュースケー! よくやった!!」


 俺は、跳びついてきたニナを、両手でがっしりと受け止めた。


「リュースケ! リュースケ! 信じておったぞー!」


 ニナは俺の肩に、頭をぐりぐりと押し付ける。

 よしよし、可愛いやつ。

 頭を撫でてやると、嬉しそうに身じろぎした。


 ヒューヒュー、と冷やかしの口笛が聞こえる。

 人も竜人もこういうところは変わらないんだなあ。


「ぐ、はっ!」


 大観衆の冷やかし中ニナの頭を撫でていると、目を覚ましたのかゲオルグが咳き込んだ。

 身体をうつ伏せにし、手をついて立ち上がろうとしている。


「お、おい、大丈夫か?」


 せっかく気を使って声を掛けてやったのに、ゲオルグは赤い瞳をギラギラさせて、俺を睨みつける。


「ぎ、貴様ぁ……よくも、恥を……!」


 あれ!? 勝っても負けても恨みっこなしって話じゃなかったっけ!?


「ゆ、許さんぞぉぉぉァァァァアア!!」


 叫びながら、ゲオルグの身体が一瞬にして巨大な黒い竜の姿に変貌した。

 見た目は、日本とか中国っぽい細長い「龍」ではなく、西洋風の脚で立つタイプの「竜」、ドラゴンだ。

 全長10メートルくらいか?

 尻尾を抜いた頭胴長(とうどうちょう)は、6メートルくらい。


「ギャァァァオオオウ!」


 黒竜の雄叫びが、俺の鼓膜を震わせる。

 何か完全に我を失ってるっぽいなあ。


「あわわ……」


 俺の腕の中で、ニナが若干びびっている。


「あれ? こいつの服はどうなってんの? 巨大化したんならそのへんでビリビリに破けてるはずじゃね?」


 だが見当たらない。


「気にするところはそこじゃなかろうが!」


 ニナの突っ込みももっともではあるが、気になったんだから仕方ないだろう。


「ガァァァァ!!」


 黒竜ゲオルグが赤い瞳を爛々とさせ、鋭い牙の隙間から黒い靄みたいなモノを洩らしながら、こちらに突っ込んでくる。

 人型でも竜型でも、猪突猛進なヤツだな……。


「お、おい! リュースケ! どうするんじゃ!」


 さて、どうするかねえ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ