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どらごん・ぐるーむ  作者: 雪見 夜昼
<樹林の章>
39/81

第36話 銀城鉄壁

 ロボの左手に据えられたミニガトリングガン。

 ラティに向けれた銃口が、モーター音を上げて回転する。

 そして重低音を轟かせて、無数の弾丸を吐き出した。


 ガガガガガガ!!


 寸前までラティが居た場所に、鉛の雨が降り注ぐ。


「きゃあ! 何ですかぁ!?」


 ラティを抱えたまま、人が居ない方向へ駆け抜けた。


 ガガガガガガ!!


 すぐ後ろを、銃弾の嵐が追って来るのがわかる。


「ギャー! さすがに俺でもこれ喰らったら死ぬ!」


 多分!


 しかし数秒の後、死の豪雨は降り止んだ。

 ロボのガトリングガンはくるくると空回りするばかりで、弾を射出する気配はない。


『……弾切れですか?』


「お前が聞くのかよ! 知らねえけど多分そうだよっ!」


『ピー。ガガガ』


 ロボが雑音を発しながら動かなくなったので、俺は足を止めてラティを降ろす。


「はあっ!」


 図らずも俺が囮となっている間に、ロボの背後から接近していたナツメが、刀の峰でヤツの頭部を打つ。


 しかし激しい金属音と共にナツメの刀は弾かれてしまう。

 ロボにダメージはなさそうだ。


「づっ……! くっ! やはり硬い!」


 腕が痺れたのか、軽く呻いて眉根を寄せた。

 峰だったのは刃こぼれを嫌ったからだろう。

 ナツメはヒット&アウェイですぐさま距離をとる。


「今だ! 突け!」


 好機と見たか、オグロスさん以下ルナール族の戦士たちがロボを槍で突くが、硬く重い打撃音と共にピーピーガーガー言うだけで、ビクともしていない。


「……今のは魔法……ではないのか?」


 ニナはガトリングガンで抉られた地面を、冷や汗を流しながら見ている。


「違います」


 そう答えたのは、意外にもエレメンツィア。

 またいつ出てきたのか気付かなかったが、そんなことより……。


「エレメンツィア、何故お前が知っている?」


「これが何か、詳しいことは私も知りません。1200年ほど前に見た事があるだけです」


「「「「1200年前!?」」」」


 エレメンツィアさん、アナタ一体おいくつですか?


 その突拍子のない発言に、武器マニアのナツメが異議を唱えた。


「ま、待て。それはおかしい。血濡れの大鎌(ブラッディ・サイス)は鍛冶師ヴァルガラムの作品ではないのか? 彼はせいぜい100年程前の人物のはずだ」


「それは(のち)に作られた噂話です。事実ではありません」


「……何と、そうだったのか……拙者としたことが……知らなかった……」


 今語られる衝撃の真実。


 まあ、魔王も2000歳以上らしいし。

 ナツメは酷くショックを受けている様子だが、そこは正直どうでもいい。


「じゃあエレメンツィア。アレの弱点とか――」


「知りません」


「知らないの!?」


「忘れました」


「忘れちゃったの!?」


 気を持たせておいてそれはないよ!


「リュースケさんは確か、17歳でしたか」


「そうだが……それが何だ?」


「貴方は16年前の事を明確に記憶していますか?」


「……いや」


「そういうことです」


 成程ね……。


 鎌としてか、精霊としてかはわからないが、エレメンツィアがロボを見たのは産まれたばかりの頃だったということか。

 それか、単に記憶が古すぎて劣化していると言いたいだけかもしれない。


「なら、いろいろ試してみるしかないか」


 俺は未だ動かないロボに向き直る。


「ルナール族のみなさーん。ちょっと離れてくださーい」


 別に離れなくても害はないが、びっくりするだろうから一応声を掛けておく。

 オグロスさんが迅速に指示を飛ばして、すぐに全員がロボから離れた。


「出ろ、ヤミ」


 ヤミの塊がロボを通過する。

 キツネ獣人の方々が「何だアレは!?」と驚いているが……。


『命令の受信開始。失敗。確認、起動コード最終受信履歴:真暦10691年5月18日午前3時21分54秒。ただし、昨夜は豪雪に見舞われました』


「嘘つけ! 見舞われてねぇよ!」


 効いてない……のかどうか判断つきかねるが、少なくとも止まってはいない。


「真歴10691年……?」


 エレメンツィアが首を傾げた。


「どうした?」


 俺の問いには答えず、というよりその答えの確認のためか、エレメンツィアはニナに訊ねる。


「……主。今は真歴何年ですか?」


「む? いや、そのシン歴というのは分からんのじゃが……何年というなら竜暦1215年じゃ」


「そうですか。ありがとうございます」


 それを聞いたエレメンツィアは、何か思い出そうとするかのように、じっと考え込んでいる。


「どうした、エレメンツィア」


 俺は再度、問い掛ける。


「……私の記憶が確かなら、真歴10691年といえば今年のことではないかと。少し曖昧なので、数年ズレているかもしれませんが」


 何?


「ズレていても、数年程度か?」


「はい」


 ……どういうことだ?


 エレメンツィアの言うことを信じるならば、このロボは今年ないしは数年以内に起動したということになる。

 そしてそれまでは眠っていた……おそらく、約1200年前から。


 何故今更、起動した?

 起動コードとやらは、どういう条件で送られてくる?


 ……いや。考えても詮無いことか。

 そもそもコイツバグってるんだし、言ってることを鵜呑みにするのも馬鹿らしい。


 そうは思うのだが、何故だろう。

 厄介事レーダーが激しく反応している。


 1200年の時を超えて、今年起動したというのなら。

 今年現れた「俺」というイレギュラーが関係しているのでは……と思ってしまうのは考え過ぎか?


 考え過ぎであって欲しい。頼むから。


「竜輔殿。何の話かはよくわからないが、今は……」


「あ、ああ。そうだな。アレをどうにかしないとな」


 ナツメに言われ、意識を切り替える。

 とは言っても、マジでどうすりゃいいのか見当もつかない。

 殴る蹴るでどうにかできる相手でもないだろう。


 精密機器だから水や電気に弱かったりしないだろうか。

 ……なわけないよなあ。仮にも戦闘用っぽいし。


「……お手上げな気がする」


「ええ!? リュースケさんでも無理なんですか?」


「確かに、あの防御力ではたとえ天地を使っても……」


 ナツメも、むむう、と唸る。


「エレメンツィア。同じ古代兵器として何とかできないか?」


「さあ。やってみないことには」


「やってみてくれよ」


「嫌です」


「やってみてもらえんかのう?」


「わかりました」


「何この扱いの差!?」


 ニナに乞われたエレメンツィアは、気負った様子もなく、ロボへと歩み寄る。

 そして鎌を構えて、


「ふっ!」


 一瞬に連続する金属音と共に、激しく火花が輝き、散る。

 少しだけ、ほんの少しだけ、ロボが衝撃に浮き上がった気がした。


「……ふむ」


 スタスタ。


「駄目でした」


 全員が、唖然としてエレメンツィアを見つめる。

 誰もしゃべらないので、俺が代表して声を掛けた。


「今、何回斬った? 11回くらいだったと思うんだが……」


「13回です」


「う……見えなかった……拙者、まだまだ修行が足りん……」


 落ち込むナツメ。


「エレメンツィア! そなたすごいではないか!」


 ニナが無邪気に喜んで、エレメンツィアに抱きついた。


「……いえ。結局斬れませんでしたから」


 とか言いつつ、ニナに褒められて満更でもなさそうである。


『明日は全国的に雨。ところによって――ピー。ガー。殲滅。ガガガガ。今日の運勢は良くも悪くもない』


 さっきと予報が変わっている!

 そして占い機能までついているらしい!

 結果は微妙だが……。


『殲滅。殲滅』


 ロボは右手のドリルを使ってキノコの家を抉り始めた。

 猛烈に回転するドリルが触れるたび、キノコの家はほとんど抵抗もなく崩壊していった。


「っ! 貴様!」


 オグロスさんが慌ててロボに槍を横薙ぐが――


 ――破砕。


 槍の方が耐え切れずに折れる。

 かなり頑丈そうな木で作ってあるから、それをへし折るオグロスさんの腕力はなかなかのものだ。

 しかしあのロボが相手では……。


「くっ! どうしようもないのか!」


 ナツメが悔しそうに歯ぎしりをした。


「えいっ! えいっ!」



 ラティも次々に矢を放つが、弾かれるだけだ。


「く、おおおお!!」


 オグロスさんは、また別の槍をへし折っている。


 しかしロボは見向きすらせず。

 ただひたすらに家を破壊していた。

 このままでは、村中のキノコがぶち壊されるのも時間の問題だろう。


「りゅ、リュースケ! 何とかならんのか!?」


 ニナが焦ったように俺に言う。


「リュースケ! リュースケならアレにも勝てるであろう!」


 絶対の信頼をその目に宿し、俺を真っ直ぐに見上げるニナ。

 思わず、目を逸らす。


 逸らした先には、ルナの姿。

 悔しげに、下唇を噛んでいる。血が、滲んでいた。


 ルナール族の戦士たちは、吹き出す汗にも構わずロボを攻撃し続けている。


「……あのな、俺にも出来ることと出来ないことがあるんだよ」


「……しかし……」


 俺の言葉に、ニナは悲しそうに下を向く。


「おい!」


 俺に呼び掛けたのは、ルナだ。


「お前、親父と約束したんだろ! 聞いたぞ! 戦士は、約束は守るんだ!」


 約束……ああ、昨夜のアレか。

 俺は戦士じゃないし、そもそも俺が倒すって意味じゃなかったんだが……いや、どちらにしても同じことか。


「それは――」


「約束は守れよ! ……頼む! ……守ってくれよ……! あたしたちの、大事な村なんだ……!」


 別に、本当に俺がアイツを倒せるなんて、思っちゃいないだろう。

 ただ、藁にもすがる思いでいるに違いない。

 つり目に涙を溜めて見上げる少女の声は、少し、俺の心を揺さぶった。


「……期待はするなよ」


 そう言っただけで、ニナは表情を輝かせて顔を上げた。


「うむ! 期待しない!」


 表情とセリフが合ってねぇよ。


「ふ、ふんっ! 最初から期待なんかしてないけどなっ!」


 はいはいツンデレツンデレ。


 俺は苦笑しながら、周りを見渡す。


 さすがに素手でぶん殴るわけにもいかない。

 だが、生半可なモノでは俺の膂力とロボの硬さに耐えられないだろう。

 都合良く武器になりそうなものは――あるわけないか。


「リュースケさん」


「ん?」


 エレメンツィアが、鎌を俺に差しだした。


「私を使ってください」


「……いいのか? もし、折れたら――」


 ギロリ。


「甘く見ないで下さい。折れず、曲がらず、斬れぬものなし。それが私です」


「いやでも、さっき斬れなかっ――」


 ギロリ。


「いえ。何でもありません。有難くお借りします」


「ご武運を」


 俺が大鎌を手にとると、エレメンツィアはいつものごとく、透けるように消え去った。


「っし。やってみますか!」


「がんばれリュースケ! エレメンツィア!」


「リュースケさん! がんばってください!」


「悔しいが……ここは竜輔殿に頼らせてもらうしかない。頼むぞ」


「戦士の約束だからな!」


 ロボを見る。


『ムダムダムダァ!』


 ムカつくタイミングでムカつく事を言いながら、ロボはドリルを振り回す。


 無駄かどうか――御開帳、だっ!


「全員離れろぉぉ!」


 叫んで、ロボへ向けて大地を強く蹴る。


「壊れた機械はぁ!」


 エレメンツィアを振りかぶり。


「叩いてなおぉぉぉぉす!!」


 ロボの頭を、全力で斬りつけた。


 ガァン!!


 尋常でない衝撃が、俺の腕を伝わり全身に響き渡る。


 ――ビキ。


 あ。腕の骨ヒビ入ったわ。


 ズガァアア!!


 ロボは吹っ飛び、自らが崩した家の瓦礫をさらに砕いて、止まった。


 ガラガラ……。


 破壊の余韻でいくつかの破片が崩れ落ちる。


 その後、幾ばくかの静寂が生まれた。


「っつ……。さすが、エレメンツィア」


 斬れはしなかったが、折れず、曲がらなかった大鎌を、力の入らない俺の手が取り落とす。


 ――ワァァァァァ!!!


 その音に弾かれたように、大きな歓声が上がった。


「リュースケーーー!! やっぱりできるではないか!!」


「あ、ちょっと待って、お約束は勘弁ギャーー!」


 ニナに抱きつかれて、俺は悲鳴を上げる。


「ウデッ。うでっ。腕がぁぁ!」


「お、おお? ど、どうしたんじゃ?」


「ヒビ! ヒビ入ってるの! 触るの禁止ぃぃ!!」


 痛みに悶える俺見て、ニナはケラケラと笑った。

 つられたように他の連中も笑いだす。




 そして俺の、優秀な聴力は。


 ――ガラ。


 笑い声の中、瓦礫の山が崩れる音をとらえた。


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