表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どらごん・ぐるーむ  作者: 雪見 夜昼
<人魔の章>
16/81

第15話 視えない未来と異世界人

「姫巫女じゃと? 『未来視』の現人神、キルシマイアか?」


 ニナが目を丸くして女の子――キルシマイアを見つめた。


「はい。でも現人神なんて言われていますけれど、わたくしは普通の人間ですよ」


「何だ? 未来視って。まさか、未来がわかるとでも?」


 本当に未来が視えるなら、それは確かに「現人神」の名に相応しいが……。


「そのまさかじゃ。あらゆる未来を見通すその力は、歴代最高の姫巫女じゃと謳われておる」


「いやいや。おかしいだろう。あらゆる未来を見通すんなら、何で今さっきこいつらに攫われそうになってたんだよ」


 俺は倒れている2人のゴロツキを指差した。

 本当に未来がわかってたんなら、こいつらに絡まれる事態は回避できたはずじゃないか?

 ……まあ、俺が助けることまで予知していたというのなら、話は別だが。

 そんな感じでもなかったしな。


 ニナは、「あ」と声を上げて、そういえば、何で? といった感じでキルシマイアを見て首を傾げる。


「それは……」


 キルシマイアは悲しげに眉尻を下げた。

 あ、やべ。


「い、いや。別に疑ってるわけじゃないんだけどね? ただ、何でかなーと思って」


 慌ててフォローを入れる。


「ふふ。リュースケ様はお優しいんですね。……その件に関しましては、このようなところで軽々しく口にすることはできません」


 キルシマイアは力無い笑みを浮かべる。


「その事も含めまして、落ち着いてお話ししたく存じます。よろしければ、神殿に一緒に来てはいただけませんか?」


 俺はニナと顔を見合わせる。

 キルシマイアのお誘いを受けるのはやぶさかではないんだが……。


「何で、俺たちに話すんだ? よくわからないが、そうそう口外できないようなことなんだろ?」


 未来視があれば避けられる事態を、避けられなかった。

 つまり、未来視が機能していないということ。

 そんな重大そうな事について、部外者である俺たちが聞いていいのか?


「事は、リュースケ様にも関係があることなのです」


「俺に?」


「はい」


 キルシマイアは真剣な瞳を向けてくる。

 ……厄介事レーダー、反応。

 だが美少女の頼みは断れない。


「わかった、行こう。いいよな? ニナ」


「リュースケがそう決めたのなら、それでよい」


「ありがとうございます。では、転移しますね」


「は? 転移?」


 キルシマイアが右腕を振ると、ローブの袖から棒状の何かが飛びだした。


 ――魔法の杖?


 木製の()の先に赤色の大きな宝石が付いたそれは、いわゆる魔法の杖にしか見えなかった。


「えいっ」


 キルシマイアは可愛らしい掛け声と共に、杖を振る。


「!」


 その瞬間、キルシマイアの体から、何か大きな力の流れのようなものを感じた。

 直後、俺たちの足元に、光の線で描かれた魔法陣が現れる。


「リュースケ、ニナ、キルシマイアを私の部屋へ」


 キルシマイアの宣言と同時に、俺の視界は光に包まれた。

 これは、俺が召喚されたときと同じ――


________________________________________


 気づけば、俺たちはどこかの一室にいた。

 キルシマイアの言葉通りなら、彼女の部屋なんだろうけどね。


 ベッドに本棚、クローゼットと一通りの家具は揃っているが、どれも飾り気のないシンプルなものだ。


「質素な部屋だな」


「恥ずかしいので、あまり見ないでくださいね」


「な、何を落ち着いて話しておるのじゃ! ここはどこじゃ! 今のは何じゃ!」


 あ、やっぱり今のすごいことなんだ。


「ご心配なく。わたくしの魔法です。1度行ったところであれば、どこにでもすぐに行けるんですよ。あんまり遠いと、疲れちゃうんですけど」


 魔法か。初めて見たな。


「むう。さすがは現人神キルシマイア……出鱈目な魔法じゃな」


「いえいえ。それほどでも。このような所で恐縮ですが、お好きなところにお掛けください」


 自分はベッドに腰掛けながら、キルシマイアが促した。

 俺は部屋をざっと見まわし、机とセットになっている椅子を1つ見つける。

 キルシマイアと向かい合うように椅子を動かし、腰を下ろした。

 そしてニナは、俺の左脚を跨ぐように、ちょこんと座った。


 っておい。

 ……まあ嬉しそうだからいいか。

 腹に手を回して支えてやる。

 キルシマイアが微笑ましげに見ているのが気になるけど。


「さて。お話する前に、リュースケ様に確認したいことがあります。わたくしからお誘いしておいて、申し訳ないのですが……」


「何でも聞いてくれ」


 キルシマイアは緊張しているのか、若干表情を強張らせた。


「では……。リュースケ様。貴方は普通の人間ではありませんね?」


「うん」


 俺が答えると、キルシマイアは「ぽかーん」と口を開いた。


「おーい。みっともないぞ姫巫女」


 可愛いけどね。


「……はっ。し、失礼しました。そんなにあっさり答えていただけるとは思っていなかったので」


 キルシマイアは顔を赤らめて口を閉じた。


「おいおい。側室になるキルシマイアに、隠し事をするはずがないだろう」


「まだ諦めておらんかったのか……」


 ニナが呆れたように呟く。

 キルシマイアは緊張が解けたのか、花が綻ぶような笑みを浮かべる。


「うふふ。光栄です。是非とも、神聖皇帝陛下(おとうさま)を説得してくださいね?」


「……善処する」


 皇帝陛下かあ……。

 マジでハードル高ぇよ、姫巫女。


「では、リュースケ様は何者なんですか?」


「俺は、異世界人だ」


 告げると、キルシマイアは聞きなれない言葉に首を傾げながら、ゆっくりとその意味を咀嚼していった。


「異世界人……。こことは異なる世界の住人、ということですか」


「そうだ。このアホにノリで召喚されてな」


「阿呆とはなんじゃ! 阿呆とは!」


 ニナが膝の上で暴れる。

 頭を撫でてやったら、「ふにゃあ」と脱力して大人しくなった。


「召喚されたのは、8日前でしょうか?」


「いや、それより少し前だ。8日前は、俺とニナが白竜城を発った日だな」


「……なるほど。そういう事でしたか」


 キルシマイアは、1人で勝手に納得していた。


「どういう事だったんだ?」


「今のわたくしは、未来を曖昧にしか読み取ることができません」


 それでも十分すごいと思うけどな。


「その理由は、リュースケ様にあります」


「えっ!? 俺のせい!?」


 おいおい。とんだ言い掛かりだぜ。

 会ったのすら今日が初めてだってのに。


「正確には、リュースケ様がこちらの世界にいらっしゃったから、ですね」


「……あー」


 なんとなく、わかってきた。


「つまりあれか。本来この世界にあるはずのない『俺』という要素が混ざることで、未来が不確定のものになった?」


 俺が自分の推測を述べると、キルシマイアは驚きに目を見開く。


「え、ええ。わたくしはそう思います。未来視に詳しいわけでもないのに、さすがリュースケ様は聡明でいらっしゃいますね」


「ふ、まあな」


 キルシマイアは感心している。

 ニナは自分の事のように得意気だ。

 未来視とか予言なんてものは、あっちじゃありふれた物語だというのは言わぬが花だろう。


「つまりミッドガルドの未来は、リュースケ様の行動次第で大きく変動するということです」


「すごく嫌だが、そうなんだろうな……」


 異世界の異分子が混ざろうとも、例えば小石が1つ転がり込んだとて、未来に大きな変動はないだろう。

 バタフライ効果と言うが、あくまでたとえ話であって実際に蝶の羽ばたきが地球の裏側の天候に大きく影響するわけではない。ごく小さな変化要素のひとつではあるのだろうが。

 しかし未来が視えなくなった――変わったということは、俺の存在は小石や蝶の羽ばたきでは済まないのだということ。


「リュースケ様が現れる前の未来は……」


 世界征服急進派にせっつかれ、魔王がとうとう重い腰を上げる。

 竜人・人間同盟軍と魔軍との、全面戦争が開戦する。

 後に獣人も同盟に加勢するが、魔軍の圧倒的戦力を前に同盟軍は成すすべもなく蹂躙(じゅうりん)され、ミッドガルドの大地は鮮血に染まっていく――


「それが、私の見た未来でした」


「なん、と……」


 ニナが息を呑んで、腹に添えられた俺の手をぎゅっと掴んだ。



「ふーん……」


 そう言われても、実感がわかない。

 えらいこっちゃなーとは思うけど。


「そんな暗い未来でも、視えなくなれば不安でした。ですがその原因がリュースケ様だったと知って、不安は希望に変わりました」


 え?

 キルシマイアはおもむろに立ち上がると、深々と頭を下げた。


「リュースケ様、どうかヴァルハラを、いえ、このミッドガルドを、貴方のお力でお救いください」


「……何ぃぃ!?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ