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どらごん・ぐるーむ  作者: 雪見 夜昼
<竜鱗の章>
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第10話 白竜城下町にて

 白竜城の城下町は、俺の想像するファンタジーな町並みとは、少々趣を異にしていた。

 もっと雑多な感じだと思っていたのだが、レンガ造りの美しい町並みは、綿密な都市計画の跡を窺わせる。


 街行く人々はそのほとんどが白竜人だ。

 見る者全員が白金の髪に白い肌という光景は、日本人である俺にとってはある種異様な光景にも思えた。

 逆に向こうからすれば異様なのは俺の方らしく、すれ違う人は例外なく俺をチラリと見る。


 それでも商店が立ち並ぶ一画には、ちらほらと異人種の姿も見受けられた。

 と言ってもやはり竜人がほとんどだ。

 赤とか、蒼とか、緑とか。


 ドラッケンレイにおいて、白竜人と黒竜人は他の竜人より上位に位置するらしく、人間や獣人と直接取引はあまりしないらしい。

 赤竜人らが交易で入手したものを、さらに白竜人が商取引で手に入れるという形のようだ。

 非効率極まりない気もするが、一種の卸売みたいなものか。


 ドラッケンレイの竜人は、白、黒、赤、蒼、黄、緑の6種。

 それぞれが王を持ち、各竜人を束ねている。

 赤竜人なら赤竜城(ロート・ドラッケンブルグ)の赤竜王がいるわけだ。

 6つの国に分かれている、と考えていいだろう。


「お」


 あれは……。


「どうした?」


 声を上げた俺に、ニナが問いかけた。


「あれが、獣人か?」


 視界に映ったその若い女性は、いわゆるネコミミを生やしていた。

 ズボンの、臀部(でんぶ)の少し上の部分に穴が開いており、そこから尻尾も伸びている。


「うむ。そうじゃ。この町に獣人がいるとは、珍しいのう」


 別に出入りを禁止しているわけではないらしく、人間も獣人も来ようと思えば来られるらしい。

 白と黒の竜人は、神に連なる人種とされる。

 故に他人種からも畏れ敬われているため、その生活空間に入ろうと思う者が少ないのだとか。


「そうか」


 俺は獣人に歩み寄る。


「?」


 ニナは俺の後からちょこちょことついてくる。


「なあ」


「はい?」


 声をかけると、大きなリュックを背負ったその獣人女性は俺を見た。

 茶色の髪に茶色の瞳。

 一見細いその体に弱々しさはなく、むしろ引き締まった野生動物の肉体を思わせる。

 だが大人しい性格らしく、その瞳には穏やかな雰囲気を宿していた。


「ちょっと、耳を触らせてくれないか」


「この阿呆!」


 ニナが俺の足をげしげしと蹴りつけてきた。

 こらこら。新品のズボンが汚れるだろう。

 さすがに俺はもう学ランではなく、この世界の服を着ている。


「す、すまぬ。この者は獣人を見たことがなくての……」


「あはは。そうなんですか。別にいいですよ。少しなら」


 女性は気さくに笑った。


「おお、悪いな」


 睨みつけてくるニナを無視して、女性の耳に触れる。

 うーんふわふわとして、柔らかい。

 力を込めると壊れてしまいそうな危うさがある。

 内側の毛が薄い部分は、ぷにぷにと耳たぶのような感触を返す。


「あの、もう……」


 女性が顔を赤らめて言ったので、俺はその魅惑の触感から手を放した。


「ありがとう。素晴らしい耳だ」


 ビシッとサムズアップしてやる。


「はあ、ありがとうございます?」


 女性は苦笑しながら、疑問形でお礼を言った。

 次は尻尾を、と言おうと思ったが、ニナがマジギレしそうなのでやめておく。


「そなた、冒険者か?」


「いえ。ギルドには所属していないので、単なる旅人です」


 ニナと女性が世間話を始めた。

 内容から、ギルドに所属すれば「冒険者」と呼ばれるのだと推測できる。

 ギルドに関しては……多分、各種ファンタジーとそう変わらんだろ。


「そうか。魔国には行ったことがあるか?」


 ん? ニナよ。何を聞く気だ。

 まさか……


「さすがに魔国はないですね。一人二人で行けるようなところじゃないですし。せいぜい国境付近までしか」


「魔王の娘について、何か情報は――」


「コラ!」


 俺は慌ててニナの口を塞いで、女性から少し離れたとこに引っ張っていく。

 女性には聞こえないよう、顔を寄せて話し合う。


「(極秘任務なんだからな! 迂闊に他に漏らすんじゃない!)」


「(だが、情報を集めねば方針が立てられんではないか)」


「(そこはあれだ。巧みな話術でそれとなく聞き出すんだよ。お前のは直接的すぎる)」


「(なるほど。わかった)」


 というのは勿論建前だ。

 情報収集なんかして、万が一にも情報が出てきちまったらどうするんだ!


「あのー?」


 獣人女性が首を傾げてこちらを見ていた。


「魔王の娘が何か? そういえば、この前行った町で噂になってましたけど」


 何だと!?


「何じゃ? どういう噂じゃ?」


 勢い込んで質問を重ねるニナ。

 待て。俺は聞きたくない。


「魔王の娘が、魔人四魔将軍の1人、力将(りきしょう)アヴゼブを下して新たな力将となったとか」


 ヒュー、危ねぇ。居場所についてじゃあなかったか。

 てか魔人四魔将軍って何?

 魔王の娘すげぇ強そうじゃん。


「それから、魔導要塞ヴァルガノスにそれらしき姿があったとか」


 をいぃ!?


「なんと! 本当か!?」


「噂があったことは本当ですよ。真偽はともかく」


 ニナが喜んでいる隣で、俺は無表情に沈思黙考する。


「では連れが待っているので、私はこれで」


「うむ」


 獣人女性は去って行った。


「やったなリュースケ! いきなり居所がわかったぞ!」


 無邪気に喜ぶニナ。

 俺は顔面に無理矢理笑顔を張りつけつつ、背中には大量の冷や汗をかいていた。


「魔導要塞ヴァルガノスってのは?」


「魔国の、ヴァルハラ方面軍前線基地じゃな。急進派で固められておるところじゃから、魔王の娘を匿っていてもおかしくはない。あ、ヴァルハラ方面というのは人間たちの国のほうじゃ」


 まずいまずいまずいまずい。


 正味な話、これはデマだと俺は思っている。

 竜人や魔王派、おそらく人間たちも躍起になって捜している魔王の娘の居所。

 それがこんな市井の噂になって流れている可能性は低い。

 

 が、絶対にありえないとは言い切れない。

 他に手掛かりがない以上、そこを目指すのは当然といえた。


 魔導要塞なんぞという、ヤバそうなところに乗り込めと……?

 しかも、前線基地だと?

 アホか! 命がいくつあっても足りんわ!


「リュースケ?」


 考え込む俺の顔を、ニナが下から覗き込む。


 ……ニナには、本当の事を話すか?

 いや、まだだ。まだ早い。

 婚約者といっても、まだ会って3日目だ。

 いずれ話すにしても、もう少し好感度とか信頼度とかその手のモノを上げてからだな。


 ならば、とりあえずはヴァルガノスへ向かう。

 その道中で信頼度を上昇させて、折を見て本当の事を話す。


 うむ。この方針でいこう。


「よし。魔導要塞ヴァルガノスへ向かう!」


「おお!」


 地図を開いて、進路を決める。

 ニナが、ヴァルガノスの位置を指で示した。

 ここから見て、南東の方角にある。


「最短距離だと、かなり早い段階で魔国に入ることになるな……」


 できるだけ魔国には入りたくない。


「では、迂回するかの?」


 迂回するならば、人間たちの領地を通って行くことになる。


「本当にヴァルガノスにいるのかどうかもわからないからな。迂回して、情報を集めながら行こう」


「うむ。わかった」


 さて、問題は移動手段だが。


「馬車を使うか、あるいは――」


 俺はニナを見た。


「ん? なんじゃ?」


「そういえば、お前が竜になったとこ見たことないけど。俺を乗せて飛べないのか?」


 決闘場で見た時、黒竜には翼がなかったが、白竜の背には、大きな翼があった。

 ニナに竜化してもらって、背中に乗っていけないだろうか。


「む、それは……できると思うが……」


「何だよ」


 ニナは煮え切らない態度でこちらをチラチラと見る。


「そのう、リュースケは人じゃよな?」


「何を今更」


「わらわが竜化した姿を見ても、怖がったり嫌ったりせんか?」


 恐る恐ると言った様子で、ニナは尋ねてくる。

 なるほど。それを気にしていたのか。


 俺はニナの肩に手を置いて、優しく微笑みかけた。


「馬鹿だな、ニナ。そんなこと……」


「リュースケ……」


「見てみないとわからないだろ?」


「……あれ!? 否定はしてくれないんじゃな!?」


 俺は、やだやだやっぱりやめるとジタバタ暴れるニナを、町の郊外へと引きずって行った。


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