友達の意味
そんな気まずい朝を迎えても、僕らはダンジョンへと向かわなければならなかった。僕らは朝食後そそくさと荷物をまとめて馬小屋を立った。
「それで、今日はどのくらいまで潜りましょう」
「そうだね。昨日通ったルートを進みつつ、そこからさらに下に行けるならそれを目指す。無理ならできるだけ道を逸れないように新規ルートの開拓かな」
「承知しました」
「あの、よろしいでしょうか」
チセが恐る恐る手を上げた。
「さっき、二人がダンジョンに行きたいと言い出しのは私の責任なんです」
「それは、どうい事ですか」
ウーは決して怒っているわけではなく、ただいつも皆に話す時と同じトーンで質問した。きっとチセは今朝の件でそもそもの原因が自分にあることに対して罪悪感を抱いているのだろう。だからこそそれを刺激しないように、ウーは態度を選んだのだ。
「昨晩、その日にあったことを二人に話したんです。そのいろいろあって舞い上がってしまい、ついいらぬことまで話してしまって、それできっと興味を持ったんだと思います。本当ならその時に危険性についてもしっかりと話しておけばよかったのですが。本当にごめんなさい」
「いえ、そんなチセが謝ることではありませんよ。それに端から私はあなたを責める気はまったくありません。むしろ私は感謝しているんです。二人のいい友達になってくれて」
「え? 友達? どういうことですか」
「知っての通り、私とチマとポタはもとは奴隷でした。私はある程度大人になってから奴隷になりましたが、あの子たちは違います。この世界についてほとんど何も知らずにここにいます。だからどうして空が青いのか、あの雲はどうして浮いてられるのか、そんな些細なことでさえ、あの子たちにとっては不思議な事であり、心動かされるものなのです」
「それは、大変でしたね」
「ええ、でもそれはもはや過去の話です。今あの子たちはこれからの時代を生きていこうとしている。その時にチセ、あなたのような博識かつ清く正しい人が友達でいてくれればこれほど心強いことはないのです。それに」
そこまで言うとなぜかウーは僕の横まで歩みを進め、歩調を合わせた。
「あの子たちを見ていると、私達の理想が叶いそうだと思うんです。ですよねご主人様」
「確かにそうだね」
正直奇なり話題を振られるとは思っていなかったため、完全に油断していた。なのでかなり曖昧な返事になってしまったがウーのう言うことは正しい。山奥で暮らしてチセと、奴隷と過ごしてきたチマポタには、共通点がある。それは僕らが大人が知らず知らずうちに暗黙の了解としてとらえていることに対して、疑問を持てるということだ。
この世界では人間と獣人は互い憎み合い、けなし合っているが。しかしあの子たちはただ単純に年の近い友達として接している。それはこの世界から見れば異常な事であるが僕等からすれば希望に見える。
「だから、改めて言います。チセ、あなたはなにも悪くありません。むしろ私はあなたがあの子たちにいろいろと教えてくれることに感謝しているのです。だから今後ともあの子のたちのよき友達でいてくれませんか」
「僕からもお願いするよチセ」
これは僕とウーだけの願いだけではない。チセの父親トクシンさんの願いでもあるのだ。
「それは、かまいませんが。果たして友達とは誰かにお願いされてなるものなのでしょうか?」
「「あっ、それもそうか」」
チセの正論に僕とウーがそろって豆鉄砲をくらった鳩のような表情になる。その様子を見てずっと黙っていたダラスが盛大に吹き出した。
「二人そろって、言いくるめられてやんの。はぁー面白れぇ。朝からいいもん見れたぜ」
とうとう我慢の限界を迎えたのか、腹を抱えて笑い出したので流石に僕も恥ずかしさとバカにされたことの両方で腹が立った。どうやらそれはウーも同じようで僕と一瞬のアイコンタクトを交わすとウーが口を開く
「なんだか、非常に不愉快なのでダラスの夕飯はなしにしましょう」
「うん、そうしよう。その方が買い物も楽だしね」
「おい、てめぇら子供の前で大人げないぞ」
「さて、何のことでしょうか」
「わっかんないな~」
「おまえら~ダンジョンで助けてやんねぇからな」
ダラスの怒り顔を見れて少しだけ気分が晴れやかになった僕は一応チセに
「今のは、真似しちゃだめだよ」
と忠告しておいた。
「言われなくても、分かります」
「あ、そう」
僕らがおもっている以上に、チセはしっかり者だった。




