ダンジョン攻略初日終了
「これは、素晴らしいものですね」
「ツルツルおいしいです」
「ツルツル~」
「でしょ、偶然見つけたんだどね」
「これはもしかしてパスタという物ですか」
「そうそう、よく知ってるね」
今朝の僕たちの晩御飯はクリームパスタになった。当初の予定ではクリームシチュー的なものを作ることになっていたが、市場の濁流の中でそれを視界にとらえた。その時僕は一切迷うことなく、それを手に取り勘定を済ませた。別にシチューに飽きているわけではなかったが、皆に新たな世界を見せてあげるチャンスだと思い振舞ってみた。
「しかし本当に美味しいですよこれ、あとで私にも調理法をお教えねがいます」
「了解、特に難しいわけでもないから。すぐにできるようになるよ」
「本当ですか。それはよかった。それと」
ウーは空になった器を掲げると、まだまだたっぷりパスタの入った鍋を見つめた。
「お代わりを所望します」
「チマも~」
「ポタも」
「はいはい、よそいますから器を下さい」
「「は~い」」
その後三人はお腹いっぱいになるまでパスタを堪能した。
「今日はお疲れウー」
食後特にやることがなくなった僕はあたりを見回っていた。一応ここに獣人がいるのは宿にいる人達には知れ渡っているので、もしかすると襲撃されることがあるかもしれないからこうして時折見回りをしている。なんて言えばかっこいいが実際はただ暇だから話し相手を探しているだけだ。
「お疲れ様です。ご主人様」
街で汚れたチェストプレートを雑巾で拭きながら、彼女は僕の方へと顔を向ける。
「少し横に座ってもいい? 」
「どうぞ」
彼女に許可を得た僕はゆっくりと地べたに腰かける。二人の間のある小さなランタン一つが僕らを照らす。そこから見える彼女の表情は昔比べはるかにイキイキしていた。
「どうされましたか、ご主人様」
「いや、なんでもないよ」
彼女の顔を見つめていたことがばれ、ハッと視線を逸らす。だが等の本人はそんなことなどお構いなしに作業に戻った。
「何かお話をしましょうか」
「話?」
「ええ、なんだかご主人様が退屈そうでしたので」
「ばれたか」
全てを見透かされた僕は余計なことを考えることを辞め、足をだらしなく伸ばす。
「今日は作っていただいた。パスタというもの絶品でしたね」
「それはよかった。あれは長持ちするからね。旅にはもってこいだしね」
「ならばここを出る前には大量に買い込んでおきましょう。きっとあの子たちも喜ぶでしょう」
「そうしよう。でもどこで買ったか覚えてないんだよな~」
「まあ、市場の場所は覚えましたから。最悪一店舗ずつしらみつぶしに探していけば、いつか行きつきますよ」
「それも、そっか」
「それよりも、ぜひ私にもパスタの調理法を教えてくださいね」
「うん、約束する」
「それにしてもさ、ウーなんだか明るくなったよね」
僕は素直に思っていたことを話した。すると突然彼女は作業の手を止めた
「そう、でしょうか」
「うん、まあ出会ったころに比べてだけどね。最初は何と言うかずっと張りつめてたと言うか何と言うか」
「仕方がないじゃないですか、あの時は本当に生死の境にいたのですから。それに私もパニックになってて」
急にあたふたしながら言い訳を並べウーのことが何かかわいいと思う
「でも、今は毎日が楽しいのです。冒険をして、おいしいものを食べて。そしてこうして夜にご主人様とお話することも全て」
「ウー、それは僕も同じだよ」
その時僕の口は勝手に動いていた。別に酒に酔っているわけでも、感傷にふけっているわけでもなかった。ただごく自然に話をしていた。
「それは一体どういう」
「ああ~やっぱなんでもない、急に眠たくなってきたな~それじゃあお休み」
「…おやすみなさい」
そう僕のことなんて話しても何も面白いことはない。本当につまらない人生を送ってきた。だからそんな話をするわけはなく、僕はさっさと床に就いた。こうしてダンジョン攻略初日が終わった。




