市場の洗礼
「ただいま戻りました」
重い扉を開け、僕とウーは宿にしている馬小屋に入った。
「おかえりなさいです」
「おかえり~」
「どうした、えらくぼろぼろじゃねぇか」
「市場という物を舐めていました。今後は気を付けます」
「とりあえず、お水頂戴」
「すぐに用意しますね」
チセが大急ぎで僕とウーの分の水をコップに注ぎ持って来た。僕は手に持っていた荷物を置き一気にそれを飲み干すと。コップをチセに帰した。
何があったかというと、ウーと手をつないで仲良く市場に入ったのはいいが、あっという間に主婦の皆さんの気合とパワーに吹き飛ばされ、二人であっちこっちに飛ばされながら何とか流れ着いたお店で食材をかき集め、そしてそのまま放り出される形で僕らは合流した。
「ご主人様、大丈夫ですか」
「うん、何とか。ウーは」
「私は何ともありません。それに食材も無事です」
ウーは大事そうに抱きかかえていた買い物袋の中身を見せる。そこには野菜やお肉が型崩れすることなく、中に入っていた。
「僕の方も大丈夫」
僕も買い物袋の中身を確認してみると、何とか中の食材を守り通していた。
「しかし、かなりボロボロですね」
僕は自身の衣服を見てみると、土や細やかな汚れがたっぷりつき、明らかに汚い。そしてウーの鎧にも細やかなではあるが、小さな傷がいくつかついていた。ダンジョンから出た時は傷一つついていなかったのに、今はボロボロだ。
「これは、洗濯が必要ですね」
「確かに」
「とりあえず、帰りましょうか」
「うん」
二人とも買い物袋をしっかりと閉めるとみんなが待つ宿に足を向けた。
そして今に至る。
「それは大変でしたね」
「全くだよ~次は空いている時間を狙っていこう」
「ええ、そうしましょう」
大の大人が二人、疲労のため情けなく地べたに座り込む。だがそんな状況でも腹は空く。一時の静寂をウーの腹の虫が引き裂く。
「申し訳ございません。ご主人様」
「ウーお姉ちゃん腹ペコ」
「腹ペコ~」
「仕方がないじゃないでしょ。一日動きっぱなしだったのですから」
「まあまあ、みんなも待っててくれたんだから。すぐに作るからもう少しだけ待っててね」
「「は~い」」
「手伝います。ご主人様」
「じゃあ、まずは野菜を洗って食べやすい大きさに切って」
「分かりました」
僕の声を答え、ウーは調理を始めた。僕は僕で買ってきた鶏肉を仕込む。うろ覚えの知識だが、確かそのまま煮込むよりも一度表面を焼いてうまみを閉じ込めた方がいいとかなんとか、聞いたことがある。僕は持っている知識を頼りに調理に取り掛かる。肉に軽く塩コショウをまぶし、熱した油を引いたフライパンに入れる。その横ではウーが一定のリズムで野菜を刻む音が聞こえる。彼女の傍には夕食が待ちきれない子供たちが今か今かと瞳を輝かせながら、ウーを見ている。
「お~い、よそ見すんな肉が焦げるぞ」
一方の僕はダラスの指摘でようやくわれに帰り、慌てて肉をひっくり返す。幸いダラスの影で焦げることはなく、むしろ最高のタイミングでひっくり返すことが出来た。
「危なかったありがとダラス」
「おう、手早くやれよ。腹減ってんのはガキどもだけじゃねえからよ」
「はいはい、努力するよ」
いい感じに焼きあがった鶏肉を一度皿に上げ、余熱で中まで火を通す。その間に僕はウーの様子を見に行った。
「ご主人様、こちらも滞りなく進んでおります」
「うん、分かってる」
「この後はどうしますか」
「実はねいいモノを見つけたんだ」
僕は買い物袋を漁った。




