美しい衣を纏いし乙女
僕のそそくさと自分のスペースで横になる。あっちの世界のベッドと比べると寝心地は比べようのないくらい悪いが、それでも全く眠れないわけではない。ただ寝付くのに少し時間がかかるだけだ。僕のすぐ横の寝床からは子供たちのカワイイ寝言が聞こえてくる。
そんな自然の音をBGMに僕はゆっくりと瞳を閉じた。そしてしばらくすると、僕の寝床の干し草を踏んで歩く音がした。僕がゆっくりと目を開けると、時折着る姿を見せないための全身用マントを身にまとったウーが僕に向かって歩みを進めていた。だが僕と目が合うと気が付かれることを想定していなかったのか、ひどく動揺していた。
「どうしたの、こんな時間に」
「いえ、大した用事ではないのですが」
「外に出るならついていくけど」
「特に用事があるわけではないのですが、その」
ウーは先ほどからずっともじもじしており、一向に要件を話そうとしない。いつものハキハキと意見を言い、行動する彼女らしくない。
「あの、一度あちらを向いていただけないでしょうか」
「いいけど、どうしたの? 」
「とにかく一度、あちらを向いてください。すぐに終わりますから」
僕は一度彼女から視線を外す。そうすると後ろからシュルシュルとローブを脱ぐ音がした。それを聞いて僕は振り向こうにも振り向けなくなってしまった。まさかそんなことはないだろうが、もしかして今僕は夜這いをかけられているのではないか。本当にそんなことはないと信じたいが少し不安を感じる。
「ご主人さま、準備が整いましたので。もうこちらを向いていただいても大丈夫ですよ」
「ああ、うん。いくよ」
僕は目を瞑りながら、恐る恐る振り返る。そして震えながら瞳を開いた。
「おお!!」
そこにはまるでシルクのようなきめ細かな生地でできた胡桃色のナイトウェアと肩を覆う上着に身を包んだウーが立っていた。チマとポタが来ていたのははっきり言って子供向けのパジャマというかんじだったがこちらはそれとは打って変わって、大人のウーにしか着こなせないほのかな上品さの中にほのかな色気が垣間見える、なんというかそれ以外の言葉が見つからないほどに美しい装いだった。
「私の分はいらないと言ったのですが、いつの間にか作られていたようで。似合っていないことは自覚しているのですが、そのあまりに良いものだったので。そのままにしておくのは忍びなく思い」
僕はただ言葉を返すこともできずその場で固まっていた。
買い物から帰り、チマとポタの二人にパジャマを渡すために袋を開けた時、私は大変おどろきました。そこには本来ありえないはずの三着目が入っていてのです。私は二人にそれぞれを服を配り終えると、残り一着が入った袋を持って皆の前から姿を隠しました。そして誰も見ていないことを確認し恐る恐る中を見ました。そこには今まで生きてきた中でも一度も見たことがない美しい衣が入っていていました。二人のパジャマが入っていた袋と同じところに入っていたので、これが就寝時に着るものではあることは明白でした。しかしではいった誰のために作られたものなのかということが分かりませんでした。
私は中から衣を取り出し広げてみてみました。目を凝らせば向こう側の景色が見えそうなほど繊細なつくりにまるで川の流れのように指が滑るほどの触り心地の余さ、そして見事な色合い。すべてが私を魅了しました。もしご主人さまの許しが出てこれを着ることが出来たのなら、なんて想像を膨らませてしまうほど、私のこの衣に魅入られてしまっていました。
そうしていろんな角度からこれを眺めている時でした。地面に一枚の小さな紙切れが落ちるのを見ました。それを拾い上げると。そこには秋さんからと思われるメッセージが記されており
『これでご主人とお近づきになってくださいませ。うまくいくことを期待してますよ 秋』
これは露骨に私に着ろと言っているようにしかとらえようがありませんでした。なので私はこんな素晴らしいものを作って下さった秋さんの期待に応えるというという口実の元この衣に袖を通した。




