おやすみなさい。
荷物を均等に分け、帰路に着いた。想定外の買い物がかさばったせいで両手いっぱいに袋を抱えていた。これでは晩御飯を持つ余裕もない。それでも馬小屋で待つみんなのために何か用意しなければならない。そうだとしても一度荷物を置かなければならないため、仕方なく手ぶらで戻った。
「おかえりなさいませ。ちょうどできた所ですよ」
僕らが馬小屋に戻ると、馬車の外から白い煙が上がっていた。しかしそれは火事によるものではなく、米を炊いた時に立ち上る特有の甘い香りを孕んだものだった。僕らは期待に胸を膨らませ、鍋の中を覗き込むと少量の香草ともに多めの水で炊きこまれたお粥がふつふつと煮えたぎっていた。
「山で覚えたものをこちらで再現してみました。一応味見はしているのですが、何かあれば遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとう助かるよ」
「やけに荷物が多いように見えますが、どこか寄り道でもしたのですか」
そう聞かれてなぜかウーが顔を赤くしている。きっと先ほどのファッションショーを思い出しているのだろう。ウーは元々きれいなのだからもって自分に自信を持ってもいいものだが、本人はそうはおもえないらしい
「いや、特に寄り道はしてないけど、商売上手な人に捕まってね」
「なるほどそうでしたか、まあ無駄遣いをしていないならいいでしょう。さあ冷めないうちに召し上がってください」
立ち上る香りにとうとう我慢できず。僕らはお椀によそわれたお粥に手を付けた。それからは師の面影を感じられるほど優しい味がした。
その夜、昼間に買ったパジャマを披露すると、皆喜んで来てくれた。まあ一日中同じ服というのも気持ちが悪いと思うところがあったのかもしれない。チマとピタがさっそく着替えだしたので僕は一度馬小屋の外に出て着替えが終わるのを待っていた。そう言えばパジャマについては注文だけしてその制作過程は一切見ていなかった。細かなデザインについてはウーしか知らないはずだ。
「お待たせしました全員の着替えが終わりましたので、どうぞ中へ」
「うん分かった」
僕が中に入るとチマとポタの二人がロケットのように僕に向かって突撃してきた
「ねえねえ見てみて、これウーお姉ちゃんが買ってきてくれたの」
「これ、カワイイ~? 」
「うん、二人ともすっごくかわいいよ」
「「やった~」」
「はいはい二人とももう眠る時間ですよ。早く床につきなさい」
「はぁ~い。それじゃあおやすみなさいご主人様」
「おやすみ~」
二人はそそくさと走っていくとそのまま寝床に飛び込んだ。その後しばらくは話し声が聞こえてきたが、それもすぐになくなった。僕も自分の寝床に向かうために中を進んでいるうちにあることに気が付いた。
「あれ、君の分は作ってもらわなかったの」
二人は作ってもらったパジャマにすぐに着替えていたが、ウーはなぜかそのままの恰好だった。二人を着替えさせるために時間を使ったせいかもしれないが、それならば自分の着替えが終わるまで僕を待たせておけばいいのだが。それをせずに今こうして僕の目の前にいる。もしウーの分があるのなら僕が頼めば来てくれるのだろうがそれを強要するような趣味はない。
「明日から大変になるから僕らももう休もうか」
「そうですね。すでにダラスは寝ているようですし」
そう言われてウーの視線の先を見ると自分の腕を枕にしてダラスが寝息を立てていた。




