ウー大変身
「あなたは?」
「えっと勝手ながら皆さんのお話を聞かせてもらいました。わたしでしたらそちらの獣人の方の防具を作ることできます」
あちらこちらに飛び跳ねた髪に、黒の丸渕眼鏡、そして柔らかそうな素材のフードをかぶったやややせ型な女性は片手に大量の紙の束を抱えたまま、ウーの背中から顔を覗かせていた。よく見ると先ほどの武具店で大量の布を買っていた女性だった。
「あの、申し訳ないのですが、一度離れていただいても構いませんか? あと勝手に体を触らないでください、警備に突き出しますよ」
「いや、それは勘弁してください。これは…そう採寸であって、決してセクハラではありませんよ」
いや僕の知らないところでウーの体を触ってるってなかなかに気持ちが悪いなと思いつつも、それに無表情で耐えているウーもウーでツッコミどころがある。いやそれはそれとしてもう一つ気になる点が今の発言の中にあった。
「ねえダラス。こっちの世界のハラスメントの概念ってあるの?」
「ハラスメント? なんだそりゃ。お前空腹なのか、飯屋いくか?」
「いや別にお腹が空いてるわけじゃなくて、この人多分外界人だよ」
「なんだと」
「ばれてしまいましたか。まあ別にいいですけどその外界人って呼び方は辞めてください。嫌いなんですそれ。私は秋鼓乃美。この町で服飾店をやってます。まあ呼び方は任せますが外界人はやめてくださいね」
「分かった」
まさか話をしてすぐに会えるとは思っていなかった。しかしダラスの話とは違い彼女の見た目からは戦えなさそうなおオーラがひしひしとあふれている。それにどちらかというとヲタクのまとうそれに近い。
「私の店はこの先にあります。話はそこでしませんか。何も買わなくても最悪お茶くらいは出しますよ」
その後簡単に自己紹介を済ませた後、秋の後に続いて歩き出した。正直彼女が話しかけてくれたおかげで場の空気がリセットされたので、ほんの少しだけ感謝している。ただ自分以外の外界人の情報が少なすぎるため、本当に信用していいのか分かりかねる。だが最悪僕ら三人が束になってかかれば逃げ出すくらいは容易にできそうだ。
「さあ、つきました。ここです」
案内された彼女の店は石や木、でできている他の店とは違い、派手赤や緑、白といった色とりどりな外観に加え、ショウウィンドウにはあっちの世界で言うゴスロリに当たるであろうドレスが華やかな照明と共に飾られていた。それに扉を開けるときに、気持ちがいい鈴の音が鳴るよう工夫がなされている。
扉をくぐった先には服飾屋にふさわしく、大量の服が所狭しとおかれていた。僕はおしゃれのセンスはないが、それでもカワイイなと思えるもののたくさんあった。だが時折、体操服やジャージ、学生服といったものもあり、よくよく見てみるとあっちの世界に休日の朝に放映されていた女児向けアニメの衣装もある。それを見て何となく察したが、ここはコスプレショップの一面も持っている
「さあてと、どれにしようかな~」
「あの、私達は防具を作ってほしくて来たのですが」
「まあまあ、防具ならきちんと作るから。それよりもまずは」
秋は自身の店を物色し、女性服を上下一式見繕うとウーの前に広げてみせた。
「これ着てみてもらっていいですか。さっき見た時からきっとこれ似合うだろうなって思ってたんですよ。さあさあ試着室はあっちですよ」
「いえ、私は防具が欲しくて」
「女の子なんですから、おしゃれしないとだめですよ。ほら行きますよ」
「だから、私は冒険のための防具を」
「おい店主こいつをあそこに連れて行けばいいんだな」
ダラスはウーの両脇に腕を回すとそのまま持ち上げた。ダラスの抱きかかえられウーはじたばたするが、足が宙に浮いているせいであまり効果がなさそうだ。
「ウーさんとおっしゃいましたよね。あなたとてもスタイルがいいですからなんでも似合いますよ~、いや~久しぶりに作り甲斐のあるお客様だ~」
「秋さんちょっと落ち着いてください。それにダラス、手を離しなさい」
「嫌なこった。こんな面白いこと逃す方がバカだぜ」
「あなた、あとで覚えてなさい」
「さあさあ、行きますよ~」
「ご主人様どうかお助けください」
「あ~・・・無理かも」
そもそも僕がダラスに力でかなうはずないし、こういう雰囲気は下手に介入すると僕の身が危ない。場合によっては命を落としかねないので、ウーには申し訳ないが秋さんの着せ替え人形になってもらおう。すまないちゃんと後で埋め合わせするからっと心で謝罪した。
「ご主人様―――助けて――――」
「・・・すまないウーかわいくしてもらうんだぞ」
彼女は断末魔とともに試着室に吸い込まれていった。




