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買い出しと強烈な視線

ダラスに無理やり連れだされたため、なにも準備はできていなかったが、何とかお金は持っていた。ウーもきちんと変装用のフードを何とかつかみ取っており、今はそれをかぶっている。


「全く、あなたはやり方が強引です」


「お前らが慎重すぎるんだよ、たまには大段に動くことも大切だぞ」


 相変わらずこの二人は馬が合っていないが、それでも今はともに旅する仲間としてうまく僕等に溶け込んでいる気がする。


 それにしてもアドベントはこれまでの街と違った意味で発展していた。ほかと同様に時折労働に従事する奴隷の姿を見ることはあるが、皆それなりに食事を与えられているのか、シッカリとした体つきをしている。別に彼らの肉体に興味があるわけではないが、それでも死にかけの獣人奴隷を見るたびに、心苦しさを感じていたが、この町ではそれを感じずに済みそうだ。


「ここは非常に珍しいところですね」


 僕と同じようにあたりを見渡しながら歩いていたウーが話しかける


「そうだね、もしかするとここでは獣人も普通の労働者として数えられてるのかもしれないね」


「そこも確かに、違うところではあるのですが、それよりもこの町の獣人は皆それぞれ違った服を着ています。武装が認められているだけでも驚きなのですが、それよりも服装の自由が認められていることも合わせて驚きです」


 一応ウーたちには事前に買い与えていた人間用の服を着せてはいるが、これまで見てきた獣人たちは一枚布を糸でつなぎ合わせたような、かなり作りが簡素なものばかりだったが、今目の前を歩いている獣人たちは皆おのおのおしゃれを楽しんでいるようにも見える。しかしそれが彼ら本人の好みなのか、あるいは彼らの主の好みなのかは見ただけでは分からない。


「まあ、おそらくここは比較的に差別とは縁が遠いんだろ。アドベントは冒険の街であると同時に職人の街でもある。だからこそ技術があればだれでも受け入れるし、職人も職人で客であるなら人も獣人も関係ない、って感じだろうなこの町は」


 まだ確証が持てないので何とも言えないが、もしそうならずっと戦い続きで精神的にも疲労がたまっているであろう皆に一時の休息を与えられる場所にもなりうるのではないか、そんな期待を抱いている自分がいる。


「さて、そろそろ武具屋の一つくらいあるんじゃないか」


 そうこうしているうちにだいぶ郊外から町の中心部へと近づいていたみたいだ。その証拠にそれまではずっと洗濯物が頭上に乾してあったのが、今はのれんや宣伝用の看板に変わっている。それにともない活気も増していっている。


「おっ、ここなんてどうだ」


 ダラスが指さす先には壁に刺さった金具に木製の看板がぶら下がっている。まさにファンタジー作品の武具屋という感じの店だった。迷っていても仕方がないのでとりあえずガラス窓のついたおしゃれな扉をくぐり中に入る。


「いらっしゃい」


 僕らに最初に声をかけてきた店主は別に不愛想とは言えないが、特に僕らに関心が強いわけではないと言った感じだった。きっと店員というよりかは作る側の人間なんだろう。店内には僕らの他に女性の客が一人いたが、僕らが店内を見回しているうちに布をいくつか買って出て行った。一応すれ違ったので挨拶をしておいたが、特に危害を加えそうな雰囲気はなく、そのまま彼女は店を後にした。


「ねえ、これってどうなのかな」


 とりあえず僕は自分のイメージに沿ったチェストプレートを指さす。だが実物を見たことがないので、果たしてこれが正解なのかは分からない。


「おまえ、これ男用だぞ。まあお前がつけるんならそれでいいが、あいつにとっては窮屈じゃないか、金のことを考えるなら今は前線に立つやつの分を優先しろ」


確かにウーのバストサイズを考えるなら男性用では窮屈に感じるかもしれない。


なのでここは一度購入をあきらめる。すると僕らの様子を見かねた店主が口を開いた。


「なんだいあんちゃん、そこの嬢ちゃんの防具を探してるのかい? 」


「はい、あとできれば金属製の槍が欲しいのですが」


「それも嬢ちゃんのためかい? 」


「はい」


「なるほどね。槍ならうちで用意できるが、あいにく女用の防具は取り扱ってないんだ」


「そうですか、まあさっきも言ったけど槍ならあるからゆっくり見て言ってくれ」


 そう言って店主は奥に消えていった。そしてしばらくすると、奥から大量の槍がひもでくくられたものを持って来た。


「一応これがうちにある在庫の全てだ、好きに見て言ってくれ」


「ありがとうございます」


 店主が壁に在庫を立てかけると、ウーはそのうちの何本かを選び、さらにその中から一本取り出し構える。そして簡単な突きを繰り出す。その繰り返しをしている。


「店主」


「どうした」


「ついでにあたしの斧も手入れしてくれ」


「ああいいぞだが一日かかるぞ」


「ああ構わねぇ、代金はこれで」


「毎度あり、じゃあ武器を預かるぜ」


「はいよ」


 僕らが武器を吟味している間に、ダラスはダラスで自身の武器の手入れについて話を進めていた。僕も僕でいろいろと見て回るが、やはり素人なので何がいいのか分からない。


「どうした、何探してんだ」


「いや、何がってことではないんだけど、いまいちよく分からなくて」


「なるほどな、まあ今のお前に必要になるとすれば・・・」


 ダラスの指導の下僕は店の中の小道具の中から使えそうなものを選んでいく。その時僕の背後から強烈な視線を感じた。


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