最初の夜と、朝食兼作戦会議
アドベントはまるで火山の火口ほどの大きなクレーターの中に様々な建物が円を描いて立ち並び、中心に近づくほど建物が大きくなっていった。
「すごいですね。こんな奇怪な形の街、初めて見ました」
「うん、僕も正直驚いてる」
天幕の中からウー、チマ、ポタが顔を出す。彼女たちにとっては数分で見ていた世界が一変したのだから驚くのも当然のことだろう。それを差し引いても三人は生まれて初めて見る物目を輝かせていた。
「とりあえずは、拠点を確保しよう。どこかいい宿があればいいんだけど」
「宿だなんて、そんな夜を明かせるのなら、馬小屋でも、野原でも私ははかまいません」
「そうはいかないでしょ、僕たちはこの町に強くなるために来たんだよ。そうなると戦いは避けられない、そして闘うと疲れる。疲れたらしっかり休まないといけない。そのためには寝床はしっかりしたところを確保しないと」
そう衣食住は大事なのだ。絶対に大事なのだ、なのに結局こうなってしまった。
「これはけっしてご主人様のせいではありません。仕方がないことなのです」
「う~ん、そうはいってもな」
「干し草ふわふわ」
「全然いたくなーい」
今日一日使ってみんなで止まれる宿を探したが、獣人と人間が同じ部屋というのがそもそもNGのようで、どうしてもそうするならと馬用の納屋の空きに泊まることになった。それでもこの町に行商で来る人は多いが、長く滞在する者は少ないらしく、納屋にはかなり飽きがあった。納屋のオーナーに話を聞く限り、この町での商売は冒険者の需要をしっかりと捉えていれば、失敗することはほとんどないそうだ。ゆえにここに来る商人たちはその日のうちに商品を売り切って帰るか、ここに定住して商売を続けるかというまさに両極端の選択の中から自身の在り方を選ぶらしい。
「まあ、仕方がないか、とりあえず今日は休もう。ダンジョンについては明日ダラス達と合流してから考えよう」
「かしこまりました。では私は夜間の警備をしておりますので、ご主人様はごゆっくりお休みください」
一応ここは街中なので、外に比べれば獣などに襲われる心配はないが、それでも街中は中で人間の脅威が常に付きまとう。そのため、僕たちは夜間は交代で見張りを立てることにした。一応ウーにはもし誰かに襲われても殺すことはせず、せいぜい気絶程度にとどめておいて欲しいとお願いしていあるが、もしもの時は僕を自身と子供たちの安全を第一に考えるように言ってある。
「それじゃあ、交代の時間になったら起こして」
「御意のままに、それではおやすみなさい」
僕は干し草の中に体を入れると、ゆっくりと目を閉じた。
結局その日はなにもないまま翌朝を迎えた。だがその日は朝から来客があった。僕らが目を覚まし納屋で朝食を取っていると、古びた扉が音を立ててゆっくりと開いた。そしてその隙間からフードをかぶった大柄な人物が中に入ってきた。その一瞬で僕とウーは臨戦態勢を取るが、フードの人物は両手を上げた。
「待て待てあたしだっての、忘れんなよ」
声をヌシがフードを取る。そこにはあきれ顔のダラスがいた。
「後で合流するって言ったろうが」
「ごめん、もうちょっと時間かかると思ってた」
「おっと、それは悪いなお邪魔だったか?」
「いや、ちょうどよかったよ」
ダラスの分の朝食をよそって渡す。
「で、これからどうするんだ?」
「まずは…」
僕らは朝食兼、作戦会議を始めた。




