アドベント入場
それは旅立ってすぐのことだった。ダラスとの訓練にひと段落が付いたところで僕はずっと気になっていたことをダラスに尋ねた。
「ねえ、ダラス僕とそのヒカサって人以外の外界人はどうしてるの?」
「なんだお前、同郷のやつらが恋しいのか?」
「そう言うわけじゃなけど、ただ何となく気になって」
「まあ、あたしの詳しくは知らねぇけど、大体のやつらは人間の王国に召喚されてそして、軍隊に入るか、冒険者になるか、あたしが知ってるのはこれくらいだな、正直あたしもヒカサ以外あったことがないし、いました話も昔資料で読んだことの中で覚えてることを適当に行っただけだからな。何の役にも立ちそうにないが、これでいいか」
「うん、ありがとう」
「まあ、どっちにしてもあたしら獣人からしたら迷惑極まりないがな」
「僕はどう」
「お前は…まあ、よくわからん」
正直どんな人がこっちに来ているのか、もしかすると分かり合える人がいるのではないかそんな期待を抱いている自分がいる。それに僕の他に来た人がどんな力を持っているのか、もし戦闘になるならそれを把握しておいて損はないはずだ。
「まあ、どっちにしろあたしらと分かり合えるなんて甘い考えは捨てろ。きっとお前のことだからもしかしたら仲良くなれるかも、なんて思ってるかもしれねぇが、本当にあいつらを守りたいなら、絶対に忘れるな」
「ああ、分かってる」
その時のダラスは一段と厳しい目をしていた。この世界に来て人間の醜さしか見ていない僕と、人間の悪意をしっかり受けたダラスとでは印象が全く違う。
それでも僕は信じたかった。もしかすると僕の考えに理解を示してくれる人がいるんじゃないか、そう思わずにはいられなかった。
「ご主人様前方をご覧ください」
ウーに呼びかけられ、僕は天幕の中から顔を出した。そこに広がっていたのは、硬い岩が列を成すことで形成された断崖絶壁だった。だがその一角に岩とは全く異なった。金属の門が立ちふさがっていた。
「どうやら到着したようですよ」
「そうみたいだね。ダラスここがアドベントと合ってる?」
「ああ、間違いない」
ダラスは乗っていた馬をこちらに寄せてくる
「あいにくだが、これだけの人数を中に入れることはできない。だからあたしらの一団はここで一度別れる。まあ心配すんな後で合流してやるから」
「分かった。気を付けてね」
「お前に言われたくねぇよ」
そう言って一団は馬の向きを九十度変えてそのまま走り去ってしまって。一方の僕たちは馬の操作をウーから僕に変え、ほかのみんなの天幕の中に隠す。そしてそのまま何食わぬ顔で門の前でできている列に並ぶ。列に並んでいた人間たちは先までの街とは違い、シッカリと武装していた。背中に大剣を携えている者、腰に短剣を二本差している者、袋で隠しているが弓矢を背負っている者、様々な武器や防具を持った旅人がいる。それに加え、鍛冶道具や薬草の類だろうか、様々な草の入ったリュックを背負っている者中にはいた。
それだけでこの町がどのようにして経済を回しているのか、容易に早々が付いた。ダラスの話ではこの世界には冒険者という職業がある。そしてこの町はそんな冒険者を支援し、あるいは利用し、お金を稼いでいる人たちが多く存在している。そういう人たちによってこの町は支えられているのだ。
「ようこそアドベントへ。申し訳ありませんが馬車の中を見せていただいても構いませんか?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」
入り口で門番に呼び止められたので、指示に従い天幕の中を見せる。事前に獣人のみんなにはフードをかぶせているため、顔半分以外はあまり見えない。しかしその特徴的なしっぽや耳から、門番は彼女たちが獣人奴隷であることを瞬時に見抜いた。
「この者たちは健闘奴隷ですか、それともハウス奴隷かな、または売り物ですかな」
門番の言っていることは半分理解できて、半分理解できない。だがそれでもうまくこたえるしかない。
「この者たちは僕の身の回りの世話をする者たちです」
「でしたらハウス奴隷ですな、一応お伺いするのですが護衛も兼ねていますか」
「ええ、」
「なるほど、では武器の所持を認める書類を発行します。お代はこちらで」
そうして男が提示した額ははっきり言って高いとはいいがたかった。あっちの世界で例えるならコンビニで一枚印刷した時とあまり変わらない。だから僕はおとなしく支払う。僕らの中で武装が必要なのは、ウーとフィリアだけなので、二人分だけ発行してもらいそれを懐に入れる。門番曰くこれを常に持ち歩いていないと罰則の対象になるのだとか。
「こちらで手続きは以上になります。ようこそ冒険の街アドベントへ」
検査が終わり、馬を進め門をくぐる。しばらくは人口の明かりの中を進んでいたが、目の前が急に明るくなる。そしてその光に吸い込まれるように前進すると、アドベントの全貌が見えてきた。




