表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/187

フィリアの涙とダラスの疑問

一応ウーに後をつけさせたが、すぐに問題ないとのことで戻ってきた。なら今は彼女たちを信じるしかない。僕は適当にそのあたりに腰かけると自らが作ったスープにさじを入れた。


「ご主人様にもできないことがおありなるのですね」


「まあ、僕も万能じゃないしね。それに家族を失った痛みなんて知らないまま育って来たし。ところでウー君の家族は元気かい?」


「分かりません、私のもう長い間家に帰ってないので。でも私の母は私以上に強く、またその母もそれ以上に強い人なので、問題ないかと」


「そっか、いつか僕もあってみたいね」


「そうですね。もし会えることがありましたらきっと歓迎してくれると思いますよ」


「それはよかった。大事な娘をさらったと間違われちゃたまらないからね」


 まだそこまで明るい話題ができる空気ではないが、それでも少し僕の心は絶望から立ち上がりまた歩みを進めようとしていた。


 それはどうやら僕だけではなかったようだ。それを感じたのは僕らがご飯を食べ終わってしばらくしたころだった。僕が皿洗いに勤しんでいると、草むらの奥からフィリアとチマチとポタの三人が戻ってきていた。しかし三人とも顔が真っ赤になっていた。どうやらあの短時間の間に相当泣いたらしい。でもそれでいい気がする。自身の悲しみに蓋をして、ただ怒りに身を任せるよりも、ちゃんと泣いて、食べて、眠る。そしてあとは時間と友達が解決してくれる


「どうしたの、三人とも」


「「なんでもない」」


「…」


「そっか、器洗うからちょうだい」


 僕は深くは追及しなかった。そこにはきっと似たような境遇の彼女達だからこそ、分かることがあるのだから、そこに浅はかな知識で僕が踏み込むのは間違っている気がした。だから僕はそれ以上語らず、いつも通り接する。



「はい、ご主人様」


「どうぞ~」


「…」


「ありがとう」


 まだフィリアは心の整理がついていないのか、僕とは口をきいてくれなかった。しかしそのことは今はどうでもよかった。僕とはまあ、気が向いた時にでも話をしてくれればいいかと思っていた。ただチマとポタとも口を利かなくなるのは問題なので、もしそんな時が来たら何とかしようくらいの心持ちでいようと思っている。


「やっぱお前飯作るのうまいな」


 いつの間にか僕の背後に空になった器を持ったダラスが立っていた。僕よりもはるかに巨体なのに、今回はほとんど気配を感じさせなかった。果たして彼女は意図的に気配を消したのか、それとも単に僕が気が付くのが遅かっただけなのか、定かではないが、それでもダラスはお構いなしに話を続けた。


「ところでよ。お前出身はどこだ」


「なんでそんなこと聞くんだよ」


「別に、ただの気まぐれだ」


「そっか」


 ここで正直に日本って言っても果たして彼女に伝わるのだろうか、正直微妙だった。でもそんな時にぴったりの言い訳があると僕はライトノベルから得た知識から知っていた。


「東の方の生まれだよ」


「やっぱりそうだったか」


 意外な答えに僕は思わず質問を返した。


「何だダラス僕故郷に行ったことあるの?」


「いいや、だが一つ分かったことことがある」


「なに?」


「商人、お前外界人だろ」


 ダラスがその質問を発した途端、周りの空気が変わった。さっきまで何事もないと言った表情をしていたウーでさえ、今は真剣なまなざしでこちらを見つめている。ダラスの部下たちはウーとは違い、なぜか急に仇を見るかのような目でこちらをにらみつけている。


 その場にいた人間の中で僕だけが、この状況を分かっていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ