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反撃と尋問と答えと・・・

僕らの作戦が固まったところでフィリアが一歩前へと出る。


「行くぞ」


 最初の一歩で一気に間合いを詰める。その速度はこれまでの比ではない。その高速の攻撃は騎士長の認識速度をはるかに超え、彼の意表を突いた。だがしかし彼もまたベテランの戦士であるため、きちんと反応してくる。だが剣が長かったから何とか受け止められたというところであり、もし武器が同じものなら、きっと致命傷になっていたはずだ。


 こんな動きができるのなら、ずっとそうすればいいと思うかもしれないが、立った一度でフィリアの息が上がってしまうほど消耗している。だからそう何度もできることではないということが分かる。でも僕にはこれで十分だった。無理やり攻撃を止めたことで、かなり不安定な体制になっている、今が狙い目だった。


 立ち上った砂煙の中から僕は飛びだした。剣をよけるために低い位置からのタックル。それは完全に騎士長の想定の外にある行動だった。それまでの闘いを見て、僕が戦力にならないと思っていたのだろう。だからずっと意識の外に追いやっていた。その僕からのタックルに思わず騎士長は剣を手放し地面に倒れこんだ


「今だいけ、フィリア」


「分かってる」


 そのまま僕ら二人を飛び越えて、フィリアは跳躍した。その奥でずっと油断しきっていたギルド長目掛けてとにかく駆けた。一応彼も逃げるそぶりを見せるが、フィリアの速度に比べればまるで亀のお散歩のようだった。そのままの勢いでフィリアもまたギルド長を押さえつけた。


「離れろ、汚らわしい獣人め」


「うるさい、とっとと母さんの居場所を吐け」


「それが目的な哀れなガキめ」


「お前はタダ聞かれたことだけに応えろ」


「だから、その質問が哀れだと言っているのだ。それが分からんとは何と愚かな女だ」


「だまれ、母さんはどこだ」


 フィリアはしびれを切らし、持っていたナイフをギルド長の首に突き付ける。本来なら絶対絶命な状況だが、男はそれでも微動だにしなかった。いったいどこに彼のどこにそんな余裕がしまってあるのか、それだけが僕ら二人には読めなかった。しかしその答えは直ぐに分かることになる。


「お前の母親はとっくの昔に死んだよ」


「えっ」


「当然だろ、お前がここを脱走してどれだけの時間が経ったと思ってる。三年だぞそれだけの時間が経って、どうして生きていると思える。お前の頭は相当、お花畑のようだな」


「嘘だ、母さんは生きてる。だってだって」


「お前がどれだけ願おうが、あいつは死んだ、その事実はかわらねぇんだよ」


「うるさい黙れ、これ以上必要のないことをしゃべったら、その舌掻っ捌いてやる」


「そうか、そんなに母親が好きか? それは残念だな。あいつはお前を逃がしたあと俺たちにつかまった。そして尋問にかけられた。尋問はどれくらい続いたかな。それでも奴はお前の居場所を吐かなかった。ヒントすらくれなかった。だからいろいろやったよ薬を打ったり飯を抜いたり、鞭でうったり働かせたり、いろいろやったが、何も話さなかった。しまいには本当に口がきけなくなっちまった。でもそれはそれで面白かったぜ、お前のことなんてすっかり忘れて、薬、薬って舌だしながらよねだってくるんだよ。最高だろ」


 男は自らの口を持って自らの極悪非道をまるで自慢話でもするかのようにフィリアに聞かせた。自分の喉元に刃物が突きつけられていることも忘れペラペラと舌が回る限り話し続ける。だがそんな男のゲスな話を最後まで聞いていられるほど、フィリアの心は寛大ではなかった。


「お前のおしゃべりに付き合う気はない、さっさと私の質問に答えろ」


「ここまで言って分からないのか、なら教えてやるよ。お前の母親はとっくの昔に死んだんだよ。もはやこの世にいねぇんだよ。あ、でももしかしたらゴミ置き場を漁れば体の一部くらいはあるかもな」


 そんな、まさか僕らのやってきたことは、端から意味のないことだった。それを思い知らされ、僕はこれまで感じたことのない絶望に襲われた。だがそんな僕よりもはるかに心にダメージを受けた人物がいる。


「そんな…嘘だ…嘘だ、そんなことあるわけない」


 フィリアはギルド長に馬乗りになったまま、手からナイフを落とした。それはどこに刺さるわけでもなく、ただ床に転がり落ちた。そして体中の力が一気に抜けたフィリアはただその場に膝をつき、天を見上げるだけの状態になってしまった。その隙にギルド長はフィリアんの拘束から抜け出し、またしても逃げ出してしまった。


「フィリア!!」


 僕が渾身の声を絞り出し呼びかけても、彼女はただ上を見上げながら、口をパクパク動かしているだけだった。


「フィリア、返事をしろ。フィリア」


 僕が何度も呼びかけても彼女は一切反応しなかった。だがそれでも僕は呼びかけ続けた。それがよくなかった。僕が声を出すために体を起こしてしまっため、僕が抑えていた騎士長が鍛え上げられた肉体を使い僕を押しのけると、そのまま走り転がった剣を拾い上げた。


「死ね、獣風情が」


「やめろーーーーーーーーーー」


 騎士長はただその場で膝をつくフィリアの背を斬りつけた。


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