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信頼と責任の刃

「危ないところでしたね」


「おお、騎士長。来てくれたのか」


「はい、あなたさまのお呼びを受けただいま参上いたしました」


「ちょうどいい、こいつらを始末しろ」


「御意」


 闇の中からその剣とそれを操る男の全容が明らかになる。顔にはわずかに老化による皴があるがそれでもまだまだ目は歴戦の武人を彷彿とさせる鋭さがあり、その瞳で僕らをにらんでいた。そして男はそのまま僕らに向かって剣を振るった。僕らは同時に後ろに飛び、そのまま部屋を出た。騎士長とギルド長は僕らを追う形で部屋の外へと出た。


 縦に長く、横に狭い廊下は先ほどに部屋に比べるとはるかに戦闘向きと言える。おまけにフィリアの速度を活かすには最高の環境だ。だが射程は圧倒的に向こうが有利だ。なので必然的に懐に飛び込み、刃を振るいにくくするしかない。


 それはフィリアも分かっていることのようですぐさま姿勢を低くし全速力での突進を仕掛ける。騎士長はそれをよんでかフィリアの突進コースにそのまま刃を振るう。しかしそれは彼女に簡単に躱されてしまった。空ぶった剣が床を叩きほこりを舞い上げる。それが僕の目に入りチクチクとした痛みが走るが、それをフィリアとはものともせずそのほこりのなかから騎士長の元へと現れた。しかし騎士長はその動きすら理解していたようで、フィリアの短剣による攻撃をその両手剣で受け止めた。そしてそのまま押し返す。


「こいつ、ちょっと強いかも」


「あなたはそれほどですね」


「うるさい」


 そのまま二人は僕の目で追うのがやっとの速度での攻防を繰り広げていた。しかしその間にギルド長は再び逃げる準備を始めた。このままではあいつに逃げられてしまう。しかし今のフィリアにあの騎士長をすぐに倒せるだけの実力はなさそうだ。それはただフィリアが弱いわけではなく、目の前の男がこれまでの兵士たちと比べて格段に強い。ただそれだけなのだ。


「そこをどけ、邪魔するなら殺す」


「それはできません。これが仕事ですので」


「ならば殺す、あとで命乞いしても知らないぞ」


「そのセリフはそのままあなたにお返しします」


 たった二言ずつの会話が終わると、二人は再び戦闘に戻った。そんな中僕にできることはないものか、必死に考える。しかしあの戦闘に割って入るにはあまりに戦闘力が低すぎる。だからと言ってこのまま傍観していてもいいことは何もない。


 そんなことを考えていると、騎士長のロングソードに飛ばされてフィリアがこっちに戻ってきた。


「おい商人、このままだときりがない。お前も手を貸せ」


「手を貸せって何をすれば」


「とりあえず突っ込め」


「いーやだよ、ただ斬られるだけじゃねぇか」


「でも一瞬剣を止められる」


「いや僕死んじゃうよ」


「知るかそんなこと」


「ふざけんなよ、おかしいだろ」


 なんだかひょんなことを切っ掛けに言い争いになってしまったが、それをただ悠長に眺めているほど、相手は優しくはなかった。話している僕らの間に思いきり長剣を叩きこんだ。


「あっぶな」


 僕らは何とか反応しその剣を交わすが、その次の手はまだ思いつかなかった。その時僕はさっきのフィリアの言葉を思い出した。剣を止められればいい。よく確認してみると騎士長はもっている剣こそ特注なものだが、着ている甲冑は他の騎士たちと同じものだ。ならばフィリアの攻撃もうまくやれば十分通用する。ならどこかのタイミングで僕が戦闘に割り込み敵を止めるしかない。だがあんな高速な戦闘のどこに割り込める隙間があるのか、いやある。二人の武器がぶつかり合い、力と力が拮抗した瞬間、鍔迫り合いの瞬間なら僕にも飛び込める。


「フィリア、頼みがある」


「何だこんな時に」


「もう一度、あいつに突っ込んでくれないか」


「はぁ、何言ってんだお前」


「いいから、頼むをよ、一瞬動きが止まればいいから」


「ちっ、死んだら責任とれよ」


「端からそのつもりだよ」


 できればそんな責任なんて取りたくはないけど、今は目の前の少女を信じることしかできなかった。



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